モノクロカメレオン

望月おと

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35、【森からのメッセージ】

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「見つけた証拠品を今鑑定してもらってる」
「さすがだな。手回しが早い」
「まぁね」
「なぁ、森が残した暗号には何て書いてあったんだ?」

 「あー、あれね」と澄貴は自身のズボンのポケットから一枚のメモ用紙を取り出した。

────────────────────

ハンバーグ
にんじん
②里いも(いも×)
適量
家族分

【14.11.33.22.15.42】

────────────────────

「この暗号には、二つの意味が隠されてるんだ」
「え!? 言葉と数字で二つの意味ってこと?」
「違うよ、塩ノ谷くん。数字は、【ポリュビオス暗号】だよ。5×5のマスにアルファベットを並べて、縦・横軸の数字に置き換えるんだ。アルファベットは26文字あるから、IとJは同じマスに入る。それに当てはめて読み解くと、【14.11.33.22.15.42】は【D.A.N.G.E.R】。つまり、危険ってこと」

 すらすら解いていく澄貴に関心しながら、青宮と遼は聞き入っていた。本多は暗号自体初見のため、黙って澄貴の解説を聞いている。

 読み解かれた【危険】の文字。いったい、何に対してなのだろうか。

「危険だけ分かっても意味が通じないよね? その前の言葉たちに注目してみて」
「えっと──ハンバーグ、にんじん、②里いも(いも×)、適量、家族分……」
「今読んだ中に一つだけ数字があるでしょ?」

 「あ! ②!!」と遼が声を上げた。「そっ」と澄貴は嬉しそうに笑った。

「つまり、前から二番目までの言葉だけを読めってこと。因みに、②の読み方は【ふたつ】。同じように里も【り】と読んで」
「なになに……ハン、にん、②里(ふたり)、適量、家族──あぁ!?」

 青宮は閃き、言葉を区切って読み返した。

「【犯人、二人、敵、遼、家族、危険】ってことか!!」
「その通り。犯人が二人だと気づいた森くんが、もう一人の人物が遼くんの家族に接触すると睨んだんだ」
「……森、凄いな。で、もう一つの意味は?」
「この②が鍵を握ってる。今解いたのは、文の【前】部分。前と合わせて出来る熟語は?」

 「わかった! 前後で、【後ろ】だ!」目を輝かせながら青宮は叫んだ。今の彼は刑事ではなく、クイズ番組に出ている挑戦者のようである。

「じゃ、後ろ側の二文字を今度はローマ字にして抜き出してみて。ハンバーグの伸ばし棒は文字には含まれないから、最後の【グ】だけね。(いも×)の意味は、いもはそのまま書いちゃダメってこと。いもは英語のポテト【Poteto】に置き換えて」
「分かった」

 本多が用意してくれたメモ用紙とボールペンを使い、澄貴が言った通りに遼は文字を書き起こした。

────────────────
Gu
Jin
Poteto
Ryou
Bun
────────────────

「あとは簡単。②(に)に関係するものを次々消していけばいい。まず、被っている文字を一つだけ残して消して、【G.Ji.Pe.Ryo.Bu】となる。そうしたら、上から二番目の【Ji】を消す。すると、次に二番目に来るのは【Pe】。【G】の列の二番目は【P】だから【P】だけを消す。【Ryo】は三文字だから二番目の文字【y】を消す。アルファベットの二番目に来る【B】も消す。これで大分スッキリしたね」

 文字を消したあとの状態を遼は再び書き出した。

────────────────
G
e
Ro
u
────────────────

「並び替えると、ある単語になる」
「──Rougeルージュ!!」
「そっ。口紅だね」

 痺れを切らせた青宮が「その口紅が証拠とどう繋がるんだよ!?」と吠えた。

「せっかちなオジサンだね。順番で説明していくから。響子が殺害されたあと、僕たちは会議室で授業を受けることになった。けど、運び込まれていたロッカーの並び順がバラバラで自分のロッカーを探すのに苦戦した。その時、森は証拠品が入ったロッカーを見つけたんだ。でも、森はそれが証拠品だと直ぐには気づかなかった。違和感は覚えただろうけど。──ロッカーの持ち主は男なのに、真っ白なタオルに真っ赤な口紅がついていたんだから」
「──っ!?」
「響子は僕に伝えていた。『万が一の時はよろしく』って。響子には、やられたよ。わざと色移りしやすい口紅を使っていたんだから。指の指紋と同じように唇の口唇紋こうしんもんも一人一人違うんだ。……それを知ってて備えていたんだよ、響子は」

 さすがは、澄貴の血縁者だ。転んでも、ただでは起き上がらない。青宮も遼も、響子が自分たちに託した犯人への執念を感じた。

「さぁ、今度は僕たちが犯人を追い詰める番だよ」
「え?」
「証拠は手に入れたんだ。──塩ノ谷くん、君にはおとりになってもらうから」 

 「はぁ!?」と声を上げた遼の肩を青宮がなだめるようにポンポンと軽く叩いた。

「どうやら、アイツも俺と同意見みたいだぞ」
「そんな……」

 項垂れる遼にお得意の逆さ三日月の笑みで澄貴は微笑んだ。

「大丈夫。きっと君ならで上手くやれるから。因みに、君がいくらワーワーわめいても、これは決定事項だからね。犯人のロッカーに塩ノ谷くん名義で【証拠は預かった。返してほしかったら、明日19時に先生の殺害現場に来い】ってメモを残したから」
「また勝手なことを!!」
「──捕まえるんでしょ? 響子を殺した犯人を自分の手で」

 遼は焦る気持ちを落ち着かせ、澄貴の問いに静かに頷いた。当初の目的を忘れるところだった。──自分の手で犯人を捕まえると響子の亡骸なきがらにも誓った。どうして、響子をあやめたのか犯人に聞かなくてはいけない。そして、本当の狙いについても。

「そういうわけで、青宮さん。明日、手配よろしく頼みます」
「あぁ。絶対に捕まえて、命の重みを教えてやる!! 遼くんのことも俺たちが守ってやるから、存分に対峙して来い!!」
「はい!!」

 ──決戦は、明日の19時。場所は、響子が亡くなった三年二組の教室で。しくも明日は、事件があった日と同じ月曜日。
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