32 / 44
31、【暗号の指し示す場所へ】
しおりを挟む闇の中をヘッドライトで照らしながら、車は進んでいく。後部座席に座っている遼は暗がりに染まった街を呆然と眺めていた。新居も森も失ってしまった。この街同様、真っ暗な世界に彼らは──
「感傷に浸っているところをごめんね、塩ノ谷くん」
「なんだよ?」
あからさまに嫌な顔を向けるも、僅かな光に照らされた澄貴の笑顔は、能面のような恐ろしい迫力があり、遼はごくりと生唾を飲み込んだ。
「森くんは生きてるよ」
「本当か!? よかった……」
「うん。──でも、死んだことにした」
「は!?」
「ふふ。本当、君って面白いね! 怪人百面相もビックリなくらい表情がころころ変わる」
「今は人のことをからかってる場合じゃないだろ!? どうして、生きている森を死んだことにするんだよ!?」
「決まってるでしょ? 生きていると分かれば、響子と新居くんを殺した犯人が彼を消しに来る。それに、森くんは生きてはいるけど……このまま起きない可能性もある」
「そんな……」
「でも、その反対に起きる可能性もある。だから今度こそ、彼を助けるんだよ。犯人の手からね。三澤の行動は予想外だったけど、犯人は新居くんと接触していた森くんも消そうとしていたはずだ」
黙って運転していた青宮が会話に乱入してきた。
「なるほどな。お前さんは、先生と新居を殺害したのが同一犯と睨んだわけだ」
「新居は犯人を突き止めた。それで消されたんだ。おそらく新居から呼び出され、森くんがあの廃ビルを訪れたときには既に彼は始末された後だった。でも、辺りに外灯が無かったから、遺体に気づかないまま、森くんは上を目指した。そして、森くんを尾行していた三澤と揉み合いになり、突き落とされた」
「まぁ、筋は通ってる。で、なんで学校に向かわせたんだ?」
「森くんからの暗号だよ」
「例の怪文メール!?」と遼が尋ねると、澄貴の口角が嬉しそうに上がった。
「そっ! あのメールの内容、覚えてる……わけないか。はい、これね」
────────────────────
【 VKRXNRKD/URNND-QR/QDNDQL/DUX 】
※(£)
────────────────────
何度見ても、サッパリ分からない。お手上げ状態の遼に代わり、澄貴が「簡単だよ」とアルファベットが並んだ文の下に書かれているマークを指差した。
「このマーク【※】、何に見える?」
「注意書きとかでよく見る記号」
「……いいかい? もっと柔軟に頭を使うんだよ。このマークは【米マーク】とも呼ばれている。点部分から中心に向けて線を引くと、どこかの国の国旗に見えない? 因みに、このマークの隣にあるこれ【(£)】は、その国の通貨である【ポンド】を指してる」
「あ!! ──イギリス!!」
「正解。イギリスと言えば、シャーロックホームズの舞台。森くんは探偵に憧れていると話していた。それに、この暗号はホームズの作中でも使われている【シーザー暗号】だよ」
「しーざー?」聞き慣れない言葉に遼は首を傾げた。
「そう。森くんが送ってきた暗号の中にも同じ文字がいくつか出てくるでしょ? 一番数が多いのが【D】5個、次いで【R】・【N】が4個ずつ。ホームズの場合は英語での話だけど、僕らの言語は日本語。日本語は【あ(A)・い(I)・う(U)・え(E)・お(O)】の母音からなっている。つまり、多く登場するアルファベットが母音の可能性が高い。そこで、一番多い【D】を【A(あ)】に当てはめると、あら不思議! 怪文書のアルファベットは三文字ずつ後ろにずれていることが分かる。分かりにくいようなら、暗号をメモしてから、AからZまでのアルファベットを紙に書いてみて。同じようにして解いていくと、【R】は【O(お)】、【N】は【K】になる」
「田部井……。あの短時間で、こんなのよく解読できたな」
「当然だよ、塩ノ谷くん! 僕は暗号が大好きなんだ! 暗号ほど面白いものはないよ!」
「……さすがだよ、坊主」運転席から皮肉とも取れる声が澄貴に向けられた。「ありがとう、青宮さん!」気にも止めず、澄貴は嬉しそうに返した。二人のやり取りを不思議がって聞いていた遼だったが、森が自分たちに伝えたかった答えがまだ分からず、「それで?」と先を急かした。
「【D】を【A】に置き換えて、アルファベットを三文字ずつ前にずらして読めばいい」
────────────────────
【 VKRXNRKD/URNND-QR/QDNDQL/DUX 】
↓
【 SHOUKOHA/ROKKA-NO/NAKANI/ARU】
↓
【証拠は/ロッカーの/中に/ある】
────────────────────
「【証拠はロッカーの中にある】、響子の殺害現場は教室だ。僕たちのロッカーも近くにあった」
「……そうか。会議室にロッカーが運ばれた時、バラバラに置かれてて、あの時に犯人のロッカーを新居は偶然開けたのかもしれない!」
「それで、ブツを見ちまった訳か」
「そして、森くんは犯人像に気づいたんだ。森くんが泊まったあの日、僕が言ったことを思い出して。 『あなたが好きだから、手元に置いておきたかった』。響子を殺害した犯人は──響子のストーカーだ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
こちら百済菜市、武者小路 名探偵事務所
流々(るる)
ミステリー
【謎解きIQが設定された日常系暗号ミステリー。作者的ライバルは、あの松〇クン!】
百済菜(くだらな)市の中心部からほど近い場所にある武者小路 名探偵事務所。
自らを「名探偵」と名乗る耕助先輩のもとで助手をしている僕は、先輩の自称フィアンセ・美咲さんから先輩との禁断の関係を疑われています。そんなつもりは全くないのにぃ!
謎ごとの読み切りとなっているため、単独の謎解きとしてもチャレンジOK!
※この物語はフィクションです。登場人物や地名など、実在のものとは関係ありません。
【主な登場人物】
鈴木 涼:武者小路 名探偵事務所で助手をしている。所長とは出身大学が同じで、生粋の百済菜っ子。
武者小路 耕助:ミステリー好きな祖父の影響を受けて探偵になった、名家の御曹司。ちょっとめんどくさい一面も。
豪徳寺 美咲:耕助とは家族ぐるみの付き合いがある良家のお嬢様。自称、耕助のフィアンセ。耕助と鈴木の仲を疑っている。
御手洗:県警捜査一課の刑事。耕助の父とは古くからの友人。
伊集院:御手洗の部下。チャラい印象だが熱血漢。
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる