モノクロカメレオン

望月おと

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21、【絞られた二人】

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 足の踏み場が無くなった遼の部屋。二人分の布団が床を占領している。その上に遼と森は腰を下ろし、ベッドの上に座っている澄貴を見上げた。もはや、澄貴の部屋と化している。

「なんで、お前が俺のベッドに座ってるんだよ!」
「まとめ役だからに決まってるでしょ? それとも……なにか有力情報でも掴んできたの?」
「それは……」
「じゃあ、始めようか。森くんも知ってることは包み隠さず話してね」
「分かった」

 「まずは僕から」そう前置きをして、澄貴は話し始めた。

「興味深い話を聞けてさ。事件の直前、見たっていう人がいて」
「見たって……誰を!?」
「慌てない、慌てない。これから、ちゃんと話すから」
「……悪い。で、誰を見たんだ?」
「塩ノ谷くんが睨んでいた人物の一人……新居くん」
「新居!?」

 新居 さとしは、180cm近くある長身で細身。伸び放題の前髪で顔を隠している。【人嫌い】という噂もあるが、真相は分からない。新居は口数が少なく、他の生徒と話しているところも滅多に見かけない。それもあって、他の生徒たちから【人嫌い】だと思われているのかもしれない。中学時代はバスケ部に所属していたが、現在は新聞部に所属している。成績は中の上にいるが、高校卒業後は実家のスーパーを手伝うそうだ。新聞部の活動もしつつ、彼は店の手伝いもしている。あの時間帯に学校に居るとは遼は考えていなかった。

「そっ。何しに教室に行ったのかは分からないけど、新居くんが教室に行ったのは確か」
「……もしかしたら、先生に何かしようとしてたのかも」
「どういう意味だよ、それ」

 森の意見に遼は体を前のめりにした。響子に何をしようとしたと言うのか。

「新居くんが先生に嫌がらせしているところが度々目撃されてるんだ」
「マジかよ……」
「とんだ伏兵がいたもんだね」
「『馬が合わなくてムカつく』っていうのも、実際はフラれた腹いせなんだ」
「なんだよ、それ……」
「新居くんの可能性も出てきたね、塩ノ谷くん」

 澄貴の言う通り、新居の可能性もあり得る。遼は由衣から聞いた三澤先生の話を澄貴に打ち明けた。

「アイツかー……。今回の事件は怨恨の可能性が高いね。実は、響子の通夜に新居くんも三澤も来てたんだ。……それから、柴崎紗奈も」
「え!?」

 予想外の人物の名が浮上した。柴崎紗奈と言えば、由衣の幼馴染みで響子と遼が付き合っていると噂を流した人物だ。どうして彼女まで通夜に参列していたのだろう。紗奈はクラスが別で、響子との接点は国語の授業くらいしかないはずだ。わざわざ通夜に出向く間柄ではない。

 謎が謎を呼ぶ。そもそも紗奈は誰から噂を聞いたのか。彼女について分からないことばかりだ。しかし、森はするりと口を開いた。

「貝塚さん、僕たちに言わなかったことがある」
「まだ隠し事があったのか……」
「うん。柴崎さんは、君のストーカーだよ。──塩ノ谷くん」
「は!? ストーカー!?」
「モテる男はツライねー、塩ノ谷くん」
 
 遼には全く身に覚えが無かった。これといった被害もなかったからだ。

「身の回りで、よく物が無くなったりしてない?」
「……あ。そういえば、前に鞄につけてたキーホルダーが無くなったことがあった」
「御守りとは別に?」
「あぁ。って言っても、一年くらい前の話だし。チェーンが馬鹿になってたから、どこかに落とした可能性も──」
「チェーン弱くしたのも彼女だよ」
「……なんで、そんなことを」
「決まってるでしょ、そんなの。塩ノ谷くんの持ち物が欲しかったんだよ。ストーカーに意味を求めたら、『あなたが好きだから、手元に置いておきたかった』って口を揃えて言うよ」

 澄貴の話し方はいつも通りおどけていたが、その表情は目を開き、瞬きを忘れたロウ人形のように恐ろしいほど【無】だった。

「柴崎さんは先生に塩ノ谷くんと別れるよう迫っていた。中学の頃、バレーボール部で活躍する選手だっただけに力持ちでも有名。……彼女が犯人っていうことも有り得るんじゃないかな。……田部井くんは、どう思う?」
「そうだねー。絞殺の場合、女性の線は薄いと言われているけど、力の強い女性も世の中にはいるから何とも。動機もあるし、彼女の線も考えておくのもアリかな」

 「俺は……何となくだけど、犯人は【男】だと思う」遼の声に室内は静まり返った。根拠はない。それでも、犯人が女性とは思えない。何故か──それが分かれば、大きく前進するはずだ。自分の中で何がそう叫んでいるのか、遼は自分の声に耳を傾け始めていた。

「ふふ。面白いねー、塩ノ谷くんは。……君なら見つけられるよ、その内ね」
「……もしかして、田部井くん──」
「なんだい、森くん。僕の顔に珍しいものでも、ついてた?」
「いや……」
「言ったでしょ? 余計な詮索しちゃダメだよって」
「……してないよ」
「そ? それなら、いいけど」

 二人の会話も耳に入らないほど、遼は集中していた。どうして、【男】だと思うのか。やはり、警察も捜査の初期段階から【男】と睨んでいた。それで自分を取り調べた。あの時の青山の話ぶりから、女性は除外していたように思えた。

「警察も【男】に焦点を当てて捜査していた」
「お! いい線いってるねー。警察の取り調べを受けた塩ノ谷くんにしか分からない点だね。他は?」
「……他は、まだ」
「他は追々でもいいんじゃない? うんうん。塩ノ谷くん、かなり成長したね! 的を得た意見も言えるようになったし!」
「そりゃ、どーも……」

 どこまでも上から目線な澄貴に遼は呆れていた。黙って二人の会話を聞いていた森だったが、先ほどの会話をまとめたメモを差し出した。

「柴崎さんは除外するとして、残ったのは三澤先生と新居くんだね」
「あぁ。この二人のどちらかが……」

 ──響子を殺害した犯人。

 「……」澄貴は悩むフリをしながら、向かいに座っている森の行動を見つめていた。

 
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