モノクロカメレオン

６、【情報整理】

　後味の悪さを引きずりながら、取調室からロビーへ移動した。取調室という重圧のかかった密室から解放されたことは嬉しかったが、遼の心は少しも軽くならなかった。

　響子の本心は遼とは真逆で、互いに行き交っていると思っていた気持ちも、遼の一方通行。教師と生徒の関係に完全に戻っていたことに、遼は気付けていなかった。まさに、【恋は盲目】である。他の事には人一倍早く気付けるのに、恋に関しては まるでダメ。身を持って、遼はコトワザの意味を知った。

　警察署のロビーは平日の昼間にも関わらず、意外と人の出入りが激しかった。免許証の更新に訪れている人や、何かを相談に来た人。はたまた、遼と同じように手ぶらで椅子に腰かけている若者もいた。

　周囲の人たちに視線を配りつつ、遼は頭の中で響子の事件について情報をまとめていた。

　まず、響子が亡くなったのは昨夜19時～20時の間。今朝のニュースでは、首に絞められた痕があったと報じていた。警察は目撃情報と生徒たちからの証言を基に別れたあとも言い寄っていた遼が自身の思いに応えてくれない響子に逆上し、犯行に及んだとして遼を疑っている。おまけに、響子が握りしめていた御守りが遼が犯人だというダイニングメッセージだと考えたようだ。

　謎なのが、なぜ響子と遼の関係を複数の生徒が知っていたのか。本人たちは誰にも公言していない。相手が相手なだけに響子と遼も周囲に気づかれぬよう、デートは現地集合にし、必ず他県に出掛けるなど徹底していた。そのかいあってか、彼らが付き合っているという噂が立つことは今まで一度足りとも無かった。それが、ここへ来て複数の生徒が同時に二人の関係について発言している。妙な違和感を遼は抱いた。

　もしかしたら言わずにいただけなのかもしれないが、響子も遼も話しにくい人物では無い。こっそりと本人に「付き合ってるの？」と尋ねるクラスメイトがいてもおかしくない。現に、彼らに「恋人いないの？」と恋の質問をしたクラスメイトもいたのだから。

　疑問点は、まだある。別れた時期と別れを告げたのがどちらかという事。恋人だという情報すら周囲に知られていないのに、詳しく知りすぎている。

　ある人物の顔が遼の脳内に浮かんだ。クラスメイトであり、写真部の部長でもある森だ。彼は噂を嗅ぎ付ける事に長けており、様々なスクープをものにしてきた。校内中の恋愛事情に詳しい。彼に掴まれたら最後とも言われている。過去に教頭の不倫現場を抑え、退職に追いやったこともあるからだ。学校が再開したら、真っ先に彼に話を聞こうと遼は決めた。