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第七十六話

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 【水天】のアクアと名乗ったその魔人?は、水のように流動的で変質的な魔力を纏っていた。
 スキルの能力なのか、そういう魔法なのかはわからないが、今までに見たことのないタイプの変な魔力。

 見た目も名前も全部、水タイプですと言わんばかりだが、それを全部信じるつもりはなく、セナは警戒しつつ近づく。

「セナだ。なんで四天王が襲って来た。まだ俺達はなにもしてないぞ。」
「ニンゲン、お前は特に魔王様から直々に抹殺するよう命令が下っている。今ここで我が始末してやる。」

 近くで見れば見るほど、他の魔人たちとは違いアクアには動物的な特徴がまるでない。
 水色の肌と角。かといって鬼系の魔物のようでもない。
 
「お前は魔人なのか?ほかの獣人たちのようには見えないが」
「……我らこそが真に魔人と言える種だ。他の奴らは獣人に過ぎん。」
「?そこは同一じゃないのか?何が違う?」
「これから死ぬ貴様には必要の無い知識だ!【水天・暴雨ノ園】!」

 アクアを中心に円形で旋回していた魔力はその速度を増し、硬度と殺傷力を兼ね備えた防壁のように姿を変えた。

 半径に2~3メートルほどの水の球。
そして、アクアを中心にした水の旋回とは別に、水そのものも回転し、防壁としては先ほどの落下攻撃と同様の絡繰りがあるらしい。

「【水天・鯨砲】」
「【結界】【付与:炎】」

 魔力砲のような放出系の魔法で放たれた槍のような水鉄砲。
 球状の結界を出現させ、その表層に炎を纏わせ、防御を固める。

「【水天・水銃衛兵】」

 そんな防御という悪手を打ったセナを囲むように広がる十数個水の玉。
そこからも、鯨砲よりは細いが十分な威力の水鉄砲が放たれる。
 
 手数はセナよりもアクアの方に分があるらしいが、鯨砲も水鉄砲も結界を突き破るには威力がまだまだ足りないらしい。

 ガリガリと削っているような音はするが、結界はまだまだ万全。
問題は三手目。
 セナを結界の中に閉じ込めたアクアは視界の全てを水で覆うことによって、次の手の対策を封じた。
 
 しかし、それはセナも同じ。
【結界】は発動してしまえば維持には魔力や制御を必要としない。
 そのため、水鉄砲で視界を防がれた時点で次の手を打っている。

「【水天・凝圧爆砕】」

 打ち込んでいた水鉄砲の水を結界の表面に維持。
完全に覆いつくした水を中心に向かって圧縮することで、結界を破壊しようと試みた。
 その圧力で、結界は数秒耐えたものの爆発。
大きな球状の結界が水筒サイズにまで圧縮され、中にいたセナもろとも小さな水の中で潰されてしまった。

「【炎剣一閃】」
「ぎぃいい!!?」

 圧縮された水を前にしたアクアの一瞬の隙。
それに付け入る形で浴びせられた背中への攻撃。

 驚愕と不意のコンボで受ける、物理ダメージよりも大きい精神的ダメージ。

「な、なぜ!!」
「【炎剣一突】!」
「ぐぉおおお!!!」

 アクアの疑問を無視し、地面に張り付けるように炎剣を突き付ける。
刺さった肉が焼け、猛烈な痛みを伴う突き技をくらいながらも、アクアは自分の目でセナの手品の正体を探った。

「【異空箱】って人が入れるもんじゃないな。それに、一個が壊れたら一緒に壊れるとか、間一髪だった。」
「!?」

 セナは貫通できなかった結界に対して、アクアが圧縮か爆発等の高火力かつ一撃粉砕系の攻撃で仕留めるつもりであると考察。
 そのため、あらかじめユゥリに持たせていた【異空箱】とは別に【異空箱】を持ち出し、中が繋がっていることを信じて飛び込み、どうにか結界内から脱出。
 同時に、結界内に残されたセナの【異空箱】は圧縮に巻き込まれて破損。
 ユゥリの持つ【異空箱】も同時に破壊され、セナの持っていた【炎剣】を含めた魔剣や剣の殆どが一時的に使用不能となってしまった。

 そのため、あらかじめラングに頼んで用意してもらった硬度重視の魔剣もどきを使いアクアへの奇襲を成功させた。

「ともかく、意外と運が良かった。」
「ぐ、ぐ、ぐぞがっぁああああああ!!」
「やめろ、もう決着だ。」

 火で炙られ、張り付けられた状態のアクアはもはや満身創痍。
それを、今からステータスを奪うつもりのセナにとって、これ以上は戦闘ではない。
 情報を喋る気が無いのなら、これでとどめを刺してしまうつもりだった。

「ざわるなぁ!!」

 暴れ焦げる足を掴み、いつものようにスキルを奪おうとするセナ。そんなセナに、今までにない感覚が走る。

『アクアを倒したか。お前のことも大体わかった。獣人や魔人からは何も奪えない。それは俺のモノだからな。』

 強奪が弾かれ、言葉のようなものが頭に流れ込んでくるような感覚がして、セナはアクアから手を離す。

 Gのステータスを見ようとしたときと同じような感覚。
それでいて、憎悪ほとばしるような悪寒に塗れたような感覚。

 すでに死亡しているアクアの燃え尽きる様子を見ながら、その余韻の正体に思いをはせていた。
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