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第七十三話

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 勇者をバラバラにしたセナは、崩れそうになる体を抑えながら塔を後にしようとしていた。
 そんなセナの背後で、何かがまばゆい光を放った。

 振り返ると、そこにはついさっきバラバラにした勇者の姿があった。
【神聖勇化】による変身の上から、更に何かを被ったような姿をしている勇者の姿に顔を顰めながら、セナは様子を見守る。

「今際の際で、神が僕に力を与えてくれた。君に無惨に殺された恋人たちも生き返った。これから僕はハッピーエンドを迎える。」

 桁違いの力を得て蘇った勇者と、確実に殺したハズの女たち。
全員が輝く力を纏っていた。
 そして、その背後の上空には、塔と同等の大きさの人影。
 
『この星の穢れから生まれし子よ。そなたの存在を神(わたし)は許さない。』
「あの方が僕に加護を与えてくれた『聖神』様。そして、君という世界の敵の真実を教えてくれた。」

 セナは黙って話を聞く。というよりも、言葉を発せる口が無い。

「君という悪を滅ぼすだけの力。見ると良い。」

「【聖神憑依】」

 巨大な光の化身が一つの塊となり、勇者の中に納まっていく。
それにより、更に強化された勇者。
 六本に増えた腕と、後光を具現化したような光輪。
ほとばしる魔力と純粋な殺意。

「『これより正義を執行する。』」
「『やかましいぜ。三下。』」

 神剣と聖剣を掲げ、魔力を込めた腕を構えた聖神勇者はピタリと止まる。
今まで黙っていたセナの口?から、知らない声が聞こえたから。

「『な、なにを』」
「『たかだか【聖】属性を司っているだけの神が、偉そうな顔をしてんじゃねぇよ。』」

 その声を聴いて、聖神勇者はうろたえる。
聖神勇者には聞き覚えがある声だったらしい。

「『貴様、その声はまさか』」
「『俺が誰かはどうでもいい。簡潔に言っておいてやる。』」
 
 セナの口を使っている誰かは強気にそういう。
その声の格差は明白で、端から見ている分にはセナの声が圧倒的に上位にいるように見える。

「『お前、処刑。』」
「『ふ、ふざけるなぁ!!!』」

 セナ?の言葉激昂した聖神勇者は、豪快な魔力を溢れさせて特攻する。
世界最大級の魔力を煮立たせて、全部が強くなった聖神勇者の神剣と聖剣は、クロスを描いてセナに迫る。
 しかし。

「『【絶対的無王】の副作用は見ての通り、自己の損壊。だが、俺は別にそれを使うつもりはない。さっきまではセナの個人的な復讐だったが、お前が出た以上人間のルールを守る必要はない。』」
「『ぐ、ぐぅう!!ぐぅううううあああああ!!!!!』」

 剣はセナに触れない。それどころか、セナとの距離1センチ程のところでピタリと止まっている。
 そこから、近づくことも離れることもできない。

「『クソがぁ!!【時空神】!!お前らがなぜしゃしゃり出てくる!!』」
「『お前が調子に乗って【星の子】を殺そうとするからだよ。』」

 至って冷静に、セナ?は聖神勇者との距離を詰める。
それに併せて圧倒的な強度と硬度を誇っているはずの聖剣と神剣が、まるで紙に描いた絵を折り曲げたかのように圧迫される。
 それに巻き込まれて、聖神勇者の中腕の前腕部分がひしゃげ、使い物にならなくなる。

「『ぎゃぁああ!!』」
「『世界の希望たる【星の子】を今まで何人殺してきたよ。ランクで言えば課長クラスでしかないお前が勝手に判断するには社運が掛かりすぎなんだよ。』」
「『おま、お前!!なにを言っている!狂っているのか!!?』」

 内容自体はかなり筋が通っているようには見えるのに、普通に言語として違和感しかないセナ?の言葉。
 そのあまりの異変に、聖神勇者が突っ込みを入れてしまう。

「『こいつの精神の歪みが俺にも影響を与えてるんだろうな。まあいい、お前を殺せば今までと同じに戻れるはずだ。だから死ねよ。』」
「『ま、待って!!話せばわかるはずだ!!——ぺげっ!!?』」

 セナはもう一歩歩み寄る。
それだけで、聖神勇者の前面部分は、高速道路を走っている大型トラックに正面衝突されたかのように潰れた。

「『次のお前はもっと賢くあってほしいぜ。こんなだるい仕事、やってられんからな。』」
「『んんんんんん!!!!!!』」

 腹と喉だけで叫んでいる聖神勇者の姿は、見る見るうちに圧迫され、潰されていく。
 前面部分だけだった損壊は全身に届き、その全てが1センチ四方の塊に成り下がる。

「『はい、終わり。当分は世界から【聖】属性が無くなるけど、まあ良い起爆剤になるだろう。で、加護を失った勇者と取り巻きの女を元に戻して、セナの【絶望的無王】は……どうしたもんか。こっから先にはいらないか。』」

【絶望的無王】によるセナの崩壊を止めるため、その時間を完全停止する。

「『じゃ、最後の一仕事をしますか。』」

 セナ?の働きによって、世界は数分前に巻き戻る。 
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