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第六十五話

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 【神魔法】
 それは、偉大なる創造主であり、人類を導く神により与えられた、一般的な魔法とは一線を画す超魔法である。
 神聖騎士とは【神魔法】を持つ者のことであり、【神魔法】を与えられるということは、神にその者の信仰を認められ、その恩恵を一身に受ける者のことを言うと。

 故に、神聖教の治める聖アルマ法国では、神聖騎士は司祭と同等の地位、名誉が与えられ、同時に、神聖騎士としての任に従事しなければいけない。

 ロミナの役目は、外敵から国を守る第一の関所であり、異教徒や背信者を断罪する処刑人である。
 ロミナの持つ【神魔法:魔弾】は、ごく少量の魔力を使って放つ超高速貫通性攻撃魔法であり、鉄製の鎧や、魔法を施した装備であっても容赦なく貫き絶命させるものである。

 なにより、本人の身体能力も優れており、近遠距離両方に対応できる戦術を持っているため、ロミナの戦歴は常勝無敗で知られている。

 それが、たった一人の男に塗り替えられるというのは、前代未聞の大事件という話。

◇◆◇

「【神魔法】の真価は、神から直接賜る任務にある。ごく稀にではあるが、スキルを通じて下された任務を遂行すれば、魔法を更に強化され、更なる地位向上が約束される。今回、君を殺すというのも神直々の任務だった。」

 ベルの淹れた茶を飲みながら、いろいろなことを語ってくれる。
ロミナとしても、その判断が正しいのかどうかも、今ではわからない。

「私は任務を失敗した。それも、実力不足ではなく、自らの意思で信仰を放棄した。おそらく【神魔法】も剥奪され、背信者としてこの国を追われる。」
「スキル一つで地位が決まって、それが無ければお尋ね者。とんだ笑い話ね。嫌になるわ。」
「しかし、一つの国がそれで成り立っているのも事実。武力という点での【神魔法】の脅威は、他国への牽制に有効的です。」

 今でも、ロミナはセナを殺す気持ちを気合で抑え込み、【神魔法】に全力で抵抗している。
 しかし、それをするのはこれでお終い。セナは、自分のスキルで【神魔法】を奪うことに決めた。

「大丈夫なの?前は無理だったわよね。」
「ああ、まだ少し怖いが、やらないと前には進めない。」

 以前、炎を使う神聖騎士の【神魔法】を奪ったことがあった。
その時には、スキルによる洗脳によって脳髄をかき乱されるような感覚になり、嘔吐までした。
 だが、今はもう当時の自分ではない。強くなったという自覚を得るためにも、再挑戦する必要がある。

「良いんだな。神聖騎士としてのロミナは、死ぬことになる。」
「ああ、信仰と友情を天秤にかけた報いだ。覚悟は決めている。」

 ゆっくりと目を瞑るロミナ。
スキルを奪うスキルについては特に話していないから、きっとここで死ぬと思っているのかもしれない。
 あえて誤解させてはいるが、後でちゃんと事情を話すつもりでいる。

「もらうぞ。」

{(〔《[『【神魔法:魔弾】』]》〕)}

 以前奪った【神魔法】の時とは、明らかに感覚が変だった。
少なくとも、洗脳を受けているという感覚はないし、スキルそのものを取り込んだのに、それを行使できるような感覚がない。
 形容しがたい阻害。スキルそのものから拒絶されているというのが実感できる謎。
 
「お前、生きてるのか?」

『ァア!そうだよ!!もちろん当然!!
オレ様は生きてるに決まってるだろーがよぉおおお!!!!』

 体内からあふれ出るような声が聞こえた。
セナ本人の声ではない、もっと荒々しい、チンピラのような声。
 間違っても、神を名乗って良い者の声と言葉遣いではない。

『くそくそくそ!!オレ様が目ぇかけてたオンナぁ口説くたぁ!!
むなっくそわりぃぜぇえええ!!!』

 一語一句の語気があまりにも強いため、耳で聞いているわけではないのに、自分の耳を塞いでしまう。
 それでも音量は変わらずに聞こえるため、その声量にくらくらした。

『てめーガキてめーコラ。お前、星だろう。おぉ!?
てめーみてーなクソカスの体にいてられっか!!オレは還る!!』
「帰るって、どこに?」
『てめーオイオイてめー。オレ様が誰か知ってんだろーが!神の元に還るんだよ!!』
「神の元?お前は神じゃないのか?」
『言葉遣いに気ぃつけろボケガキコラ。オレ様は神に決まってんだろ。【魔弾の神】。だがオレ様にも上司がいる。それを神って言ってんだボケナス。 』

 【魔弾の神】 【神魔法】 【上司】

何となくその意味が分かったところで、【神魔法:魔弾】がセナの肉体からどこかに消えようとしているのが感覚でわかり始めた。

おそらく、言っている『上司神』とやらのところに帰ろうとしているのだろう。
このままだと、【神魔法】はそれ以上の情報を流すことなく消える。

だけど


「それは許さない。逃がさないぞ。」

『ぎゃ!?!?て、てめぇ!!なんだこれは!!』

 セナの意思とともに巻き起こった旋風が、スキルの端を掴んで離さなかった。
 それどころか、その暴風はスキルに噛みつき食らうように、端から一口ずつ、がみがみと食んでいった。

『がっ!!?やめろやめろ!!こんなことするな!オレ様を食ってる!!人間ごときが!!やめろぉおお!!』

 まるで、スキルを美味しい果物や、良い肉のように食らいつき、咀嚼し、飲み込み、食らいつき、咀嚼し、飲み込む。

『星がぁあああ!!てめえらの好きにさせてたまるか!!ぐっ!!ぐっ!!ぎぃいいいやあああああ!!!?』

 【神魔法:魔弾】も、何か抵抗しようとしていたように見えたが、ついにその最期が見え始める。

『や、や、やめてくれぇ!!死にたくないぃいいい!!オレはオレは!!死ぬなんてありえないぃいい!!!!』

 あまりに無様な断末魔をあげて、ロミナの体に巣食っていた寄生虫は力だけを残してその末路を辿った。


【魔弾】、【神魔法】ではなくなったものの、その能力は変化無し。
そのうえ、唯一のデメリット?であった神由来の強制力も失っているため、この力はただの強いスキルとなった。


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