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第六十四話

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 ロミナに正体を見抜かれ、決闘を申し込まれたセナは、それを受け、戦うことになった。

 一直線に斬りかかってくるロミナの剣筋は、その精神性を表すようにまっすぐで迷いが無い。

 しかし、単純な剣戟はステータスの差もあって、セナの眼にはただただ単調で遅鈍な振りとなる。

 剣を避け、武器を破壊するのは簡単だが、第一領域という言葉の通りなら、ロミナとの闘いを参考に、数回の戦闘で対策を取られるかもしれない。
 もちろん、セナは自分の規格外なスキルを理解しているし、そう簡単に対策できるようなものでもないのはわかっているが、どうにも敵への嫌な信頼が募ってしまう。

 そして、この戦いにはセナにとって絶対のルールがある。

 それは、ロミナを殺さないこと。仲間に傷をつけないこと。
 できるだけ消耗させ、戦意喪失させることを目的とするが、手加減はできない。
 強くなったセナでも、手加減は難しい。
 アリを潰さないようにかかとで踏むような、繊細な加減が必要になる。
だから、

「っ!?愚弄する気か!?なぜ避けない!」

 その身で剣を受けることにした。
セナの体なら生半可な剣で斬ることはできないという見込みで、動きを止めた。
 しかし、ロミナはそれを見て剣を止めた。
 あと1秒止めるのが遅ければ、首に当たっていたであろう剣を見つめ、ロミナの声に耳を傾ける。

「私が剣を止めるとわかっていたとでも?驕るなっ!私は、本当に貴様を斬る!」
「できないよ。」
「っ」

 ロミナの剣を握る手がカタカタと震える。
その瞳には迷いと、表情からは後悔のようなものも見える。

「そもそも、俺もロミナさんも友達を傷つけられない。だからこの勝負に意味はない。」
「友、だと?」

 セナの言葉を聞き、ロミナの震えが止まる。
それは、決して友情に心打たれたとか、そういう善いものではない。
 肌を貫くのは、真っ赤な怒り。純粋な暴威。

「ふざけるなぁ!!!【神魔法:魔弾】!!」

 顔を赤くし、怒声をあげ、距離を取って剣を振り始めたロミナ。
見れば、その切っ先の延長線を飛ぶ、指先のような黒い塊が見えた。

「ユゥリ!ベル!ガード!」
「はい!」「わかってるわ!」
「ちょっ、私はどうしたらっ、おわッ!?」

 防御の魔法を使うように合図を出し、ラングの分も展開させる。
水のように透明で、しかし並みの攻撃は跳ね返す防壁を張った3人は、その球の直線上を見極め、避けるように立ち回る。

 バリンッ

 当然のように硬質な音を立てて、防御魔法は砕かれる。
つまり、これは並大抵な攻撃ではないということ。
 それでも、セナは……

「玉は壁を反射せず、少しの穴を空けただけ。しかし、防御魔法に対する高い貫通力を持ち、肉体でも簡単に貫通できる性能がある。すごい魔法だ。」
「っなぜ避けない!これは寸止めなんてできない、神から賜った魔法だ!避けなければ死ぬぞ!」

 顔に2発、胴体に4発、手足に5発。
内臓に至るその攻撃も、セナの驚異的な再生能力で瞬時に修復され、元に戻る。
 しかし、セナは知らないマシンガンのような勢いでの連射によって、すぐさまハチの巣のようになってしまう。

「ごふっ」
「みたことか!?避けなければ、どれだけ強い治癒魔法を持っていても死ぬ!その皮1枚でつながっている首が落ちるのも時間の問題だ!」

 高速の連射によって、首は殆ど泣き別れに、気道と食道から直接吐き出された血が、セナの全身を赤く染める。
 そもそも、そんな姿になって生きている人間というのもあり得ない話なのだが、ロミナの追撃が無ければセナは普通に生き残るということをその場の全員が確信していて、そしてそれは確実だ。

それを、ロミナは最後の一撃を躊躇し、その剣を振ることもできずにいた。

「ゃれよ。ぉれは構わない。」

 崩れた喉から、直接聞こえるセナの声。
防御魔法どころか、物理的な防御も回避もしないセナの姿が、ロミナにどう映っているのか。

「「この女誑しめ」」

 その場にいる二人の女が、そうセナを称する。

「ぁぁあああああ!!!!」

 ロミナは剣を振りかぶり、地面に投げ捨てる。

カンッ!!

これ以上の追撃はできないと、自分の責務を放棄した。

「神の命と言えど!!私は君を殺せない!」

 そう泣き叫ぶ姿を、垂れ下がった首が見つめている。

(神……神か……)

 取り乱し、泣きながら地面に疼くまるロミナの姿を見ながら、いろいろな思考が頭を巡る。
 そうして数分が経過したのち、セナの首はもとの通りにつながり、傷もほとんど残らずに消えた。服は血で汚れているが、それも気にならない。

「大丈夫か?」
「うるさい!もう顔も見たくない!どっか行って!!」

 いつもの清廉な騎士としての態度ではなく、年頃の少女のように叫ぶロミナ。
 しかし、セナはそんな態度のロミナを見つめながら腰を下ろし、うずくまるその顔にかなり近づいた。

「なあ、神魔法って、なんなんだ?」
「……え?」

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