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第六十二話

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 変な男とエンカウントしたことで依頼気分を失ったセナ達は、そのまま街をぶらぶらと歩いていた。
 ユゥリ達も同じようで、それぞれ別行動することに。

 セナはロミナの話を思い出しつつ、買い食いや武器屋を覗いたりと、1人を満喫していた。
 
「武器はやっぱりボロニルの方がいいな。」

 さすがに大声では言わないが、そんな言葉がぽつりと漏れる。
ハッと誰かに聞かれていないか周囲を見回すが、誰も気づいていないらしい。

 とはいえ、言ってしまったことに遅れてきた気まずさに押されるまま、セナは武器屋を出て少し足早に道を歩いた。

「……ここは」

 すこし長く無心で歩いていて、ふと足を止める。
そこは、ロミナの案内では自然と触れてこなかった場所。

 同じ街中なのに空気が淀んで薄暗い、いわゆる路地裏という雰囲気の場所。

人の姿は少なく、時折すれ違う人の表情は暗い。
 見れば、奴隷手前のような恰好で地面に座っている人も見かける。

「ここは」

 そんな、店という店もなさそうな路地の一角に、一つの看板を見つける。

 露店ではなく、商店。

「おや、お客様とは珍しい。どうぞ、お入りください。」

 店の奥から痩せぎす長身の男が姿を現す。

「ここはなんの店なんだ?」
「何の店?……そうですな。見ての通りでございます。」

 そう男が指さした看板に書いてある文字は『時間堂』

「時間を取り扱っているのです。」


◇◆◇


 店の中は、カウンターに一つしか椅子の無い酒場のようになっていた。

特徴的なのはその壁。

 室内の壁のすべてが、まるで夜空をそのまま切り出したかの様な見た目をしていたから。
 星、らしき白い点が藍と紺と漆黒を混ぜたような背景にうっすら光っているのは、少し不思議な内装だった。

「さあ、こちらへ」
「……なぁ、あんたと前に会ったことあるか?」
「いいえ。私とあなたが会ったことなんてありませんとも。」

 あまりに露骨な作り笑いを浮かべ、男、店主は棚から酒瓶を取り出す。

「酒は飲まないぞ。」
「ああ、これは私の分です。」
「……」

 店主は特に何かを話すこともなく、銀色の卵のようなものに何種類かの酒を注ぎ、柔らかい金属棒のようなものを入れ、小さな氷を入れで振り始めた。

「この店では時間を取り扱います。これは抽象的な意味ではありません。」
「具体的には?」
「お客様の未来となんでも交換が可能です。」

 未来という言葉となんでもと言われたことが頭の中で巡る。

「そうですね、例を出しましょうか。ある方は寿命を10年縮める代わりに巨万の富を得ようとしました。ある方は成功する未来までの時間を5年延ばす代わりに、希少な魔術の素材を求めました。ここはそういう場所なのです。」
「成功までの時間って?」

「その方を仮に20歳として、40歳には才能や実績が認められるとして、それを45歳にしたのです。」
「なるほど。」

 店主は銀色の容器から金属棒を取り出すと、変な形状のコップに中身を注ぐ。

「ああ、もし何かを頂き、寿命を延ばすとかでも可能ですよ。」
「金とか?」
「ええ、とはいえ、白金貨でも100日といったところですかな。」
「まあ、金持ちなら払うかな。」

 寿命を延ばすという人類の垂涎に微塵も興味が湧かなかったセナは、とりあえず店主の話の続きを聞く。

「これとコレのようなメニューがあるわけではありません。価値の相場も貴方次第。なにもせず帰られるのも自由です。」

 やはり、どこかで会った気がするが、セナはその正体を掴めないまま、考え続ける。

「寿命20年の代わりに【固有スキル】をもらうっていうのは?」
「……それでしたら、最低でも40年は必要ですね。」
「へぇ。」

 時間の相場が分かってきたセナは、次の質問に移る。

「過去の時間を対価としたら、何かもらえるのか?」
「———はい、可能ですね。」

 少しの間をおいて、店主は酒を煽りながら何かの帳簿を取り出した。

「例えばこの方。親に虐待されていた過去を10年ほど代償とし、運命の相手との縁を求められましたな。」
「ずいぶんと変化球だな。」
「個人情報ですのであまり言えませんが、彼は10歳若返り、生後から10年の記憶と足跡が抹消。つまり、彼はほぼ自己を喪失しました。」
「……」
「事前の説明はしましたよ?それでも彼は取引しました。」

 帳簿を閉じつつ最後の一口を口に含む店主。
そこでセナは初めて、店主の顔をまじまじと見た。

「彼は運命の相手と結ばれましたよ。ふふ、彼が入院した脳病院の、57歳のベテラン介護士と結ばれました。んるふふふ。」

 営業の作り笑顔ではなく、腹の底から湧いてくるような笑みに、セナはドン引きしていた。

「とまあ、こんな感じですね。それで、何か思いつきましたか?」
「……とりあえず、寿命1年やるから飲み物を寄越せ。」
「……んるふっふっふっふっふ!」

 セナのイかれた、虚を突いた発言に、何が面白いのかわからないものの店主は大喜び。
 隠すこともせずに、天井を見上げながら長い舌が絡まったように笑う。

「こちら、当店のオススメ、エリク・ドン・ボジャールでございます。」
「酒じゃないよな。」
「ええ、酒とは異なる飲み物。詳しくは言いませんが、ドリンクですよ。」

 緑と赤と金色が混沌としたコップの中の液体。
少しぎょっとしたセナだったが、それでも気を引き締めて、一気に口へ

「ぷふぅ~、悪くないな。」

 雑味の強い甘さだったが、それ以上に体の芯を癒すような感覚がして、それがポーションのような薬液ということに気づく。

「ええ、では、本題に入りましょう。」

 
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