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第五十七話

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 午後からは坑道の探索。
坑内でよく会う冒険者とは顔見知り程度の中にはなったものの、そこまで積極的に親しくはしていないセナは、再びゴーレムを探していた。

 厳密には、【ゴースト】入りの【ゴーレム】である。
手持ちのゴーレムを十分強化したセナは、この街で捕まえられる次の魔物として【ゴースト】を望んでいた。

 これから先の旅にどれだけの危険があるかはわからない。
だからこそ、自分の手札として重宝できる魔物はセナにとって大事な戦力。

 セナが持つ魔物は野良から捕まえた『USM・ゴーレム』と、固有スキルから発生する【四季スライム】と【鉄鋼龍メタドラ】。
 それぞれがステータスの充実した魔物であり、セナの信頼する者たちだった。

「GUUUOOOOOO!!!」

 咆哮が後方から聞こえ振り返ると、壁からゴーレムが発生しつつあった。
完全に壁から抜ける前に高速で近づき、触れてステータスとスキルを抜き取る。
 壁から上半身が出た状態でだらりと力を無くしたゴーレムだったが、セナの方で発見があった。

「よし、こいつか」

 抜き取ったスキルに【ゴースト】が入っていた。
つまり、こいつはゴースト憑きのゴーレム。

 一旦ステータスもスキルもすべて返して、完全に孵るのを待つ。

「GI?GIGOOOOOOOOOO!!!!」

 戸惑った様子のゴーレムは再び力を込めて壁から生え切り、その頑強な足で坑道に立つ。

 それすら特に相手にすることも無く、セナはステータスを最低限にまで奪い取り【隷属魔法】でゴーレムのすべてを懐柔する。

 闇色の鞭が晴れたときには、ゴーレムはセナの従順な魔物となっていた。

「ほんで、ゴーレムのスキルを抜き取って、【ゴースト】を全部投下。ステータスは耐久を重点的に注ぎつつ、魔力を高める。」

 片膝をついたままなすがままにされているゴーレムは、ゴーレムである証明すら奪われ、そのままありえないほどの量の異なるスキルを注ぎ込まれる。

「GI、GI、GI!!!」

 ぴきぴきと音を立ててひび割れるゴーレムの岩躯。
脱皮するようなソレを見届けながら、距離をとるセナ。

「GYUGYAAAAAAAAA!!!!!」

 再びの大絶叫を上げ、ゴーレムはかなり派手に爆裂した。
飛び散る破片と、舞い散る砂埃を肌で感じながら、セナはソレの生存を魔力で確信していた。

 ゴーレムの殻を破って出てきたソレは、先ほどまでのごつごつしたデザインをすっかり脱ぎ捨てていた。

「これがゴーストか。」

 人魂を逆さまにしたような流線的なシルエットに、灰を半透明にしたような体色。と言いつつ、ところどころ白や黒のにじんだ斑模様。
 体からは二本の手のような部位があり、顔らしき部分には二つの丸い空洞と半月型の空洞がある。

 そう、物語に出るような典型的なゴーストがそこにいた。

「PU~」

 鳴き声まで変わったゴーストを見つつ、セナはステータスで種族名を確認する。

『イマジナリ・ゴースト』

 それだけ。
イマジナリという部分の意味が分かれば、それが何をするゴーストなのかわかるかもしれないが、今のところは何ができるかわからない。

「よし、戻れ。」

 ゴーレムの時と同じように、自分の体に収納するセナ。
ゴーストはセナの右足に潜り込むと、タトゥーのようになって収納された。

 ゴーストのタトゥーは、手形のようになってセナの足を掴んでいるように見えた。

◇◆◇

「セナ、それだけはマジでやめて」
「セナ様、お願いします。逃がしてきてください。」
「おい、さすがに洒落にならねぇ。」

 帰って早々、ゴーストのことについて話した途端、三人はセナから距離をとってそう言った。

「え」
「魔物を使役するのは別にいいけど、ゴースト系はマジでダメ。」
「お願いします。なんでもいうことを聞くので。」
「頼む。剣の製造速度をもっと上げるから。」

 各々でセナに交渉を始めてしまい、セナの困惑は加速する。
これは、怖がっているのだろうか?

「一回見てみれば———」
「「「絶対ダメ!!」」」

 もはや話をすることもできなくなり、セナは泣く泣くゴーストのお披露目をあきらめることに。
 それだけではなく、気味が悪いからと今後セナは長ズボンのみの着用を強要された。

 交渉の結果、上の条件さえ飲めばゴーストを持っていてもまあ許してくれるということだったから、仕方なく受け入れることにした。
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