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第五十六話

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 ボロニルでの生活は今日で一か月となった。
セナのゴーレムは大量の【ゴーレム】のスキルを取り込み『メタリック・ゴーレム』から『USM・ゴーレム』になった。

 体からは鉄、銀、銅、金以外にも、鋼や魔晶、宝石類ルビーサファイアエメラルドなんかも生えていた。
 そして、少量ながらも貴重な『黒』も生えていた。

「これだけ潤沢な鉱床なんて、世界を探してもあるかどうか。職人の誇りが無い私でも、興奮せずにはいられないね。」

 セナによって進化し続けたゴーレムは特大の鉱床。
それ一つあれば十数代先の子孫まで贅沢に暮らせるだろう存在。

 ラングは【金属操作】で剣の形を作り、研ぐだけでも簡単な剣が作れる。

 それを【保護】で防錆加工し、【付与】で耐久と斬撃性能を上げれば一本の剣が完成する。

 誇りを胸に抱く生粋の鍛冶師が見れば憤慨して頭の血管が全破損する勢いで怒るだろうが、ラングもセナもそんなもん知ったこっちゃないとナマクラを量産している。

「ある程度数を作っちまえば勘も戻ってきたし、余った材料で何か作ってもいいかい?」
「ああ、自由にしてくれ。」
「……こういうのもなんだが、信用しすぎじゃない?」
「……別に良いでしょ。」

 ラングの言わんとするところを無視しつつ、一本目の剣が完成したという報告が届いたので、錬金ギルドに行くことに。

 ラングの方で剣の量産が可能になった以上、依頼は全部キャンセルにしたのだが、いろいろとメンツとかプライドとかの問題で、とにかくすごい剣を作ってくれと言ったため、依頼していた三名が各自で最高の剣を作ってくれるということになっていた。
 で、一本目が完成したらしい。

「こいつは俺の見た中でも五本の指に入る名剣だ。銘は特になく、伝言で『二度と依頼してくるなバーカ!』だそうだ。気にするな。あいつはいつもそう言うからな。」
「えっと、たしかこれの制作者って」
「モロテ・ランボーだな。あの中では量より質を重視するタイプの鍛冶師で、かつそれ以外だと魔剣で有名な奴だ。なにより、あいつの作る魔剣は唯一無二」
「唯一無二?」
「同じ魔剣はこの世に存在しない独特な感性で作られた魔剣だからな。これ、説明書。」

 手渡されたのは一枚の紙。
そこには、剣の使い方が記されていた。

『この剣は柄に魔力を込めることで剣の形態と指輪の形態になる。そして、剣の柄と刀身の間にある宝石に魔力を流すと、周辺一定空間の地面に剣が出現する。剣そのものに特殊機能はなく、耐久に制限がありそれを超過すると消滅する。本数は込める魔力に依存する。』

 本数と魔力の比較は要検証ということか。
というか、柄と宝石で魔力の籠め方間違えそう。
 そして、剣の量産をしている今の状況で一番微妙な剣が来てしまった。

「あ、ありがとうございます。」
「あと、残り二人の方はあと何週間かくらいで完成するらしい。その時はまた呼ぶから。」
「お願いします。」

 そう言って錬金ギルドを去ったセナの姿が見えなくなるまで、ギルドマスターは見送っていた。

◇◆◇

 剣の性能は後々試すことにして、集めた錬金系スキルをラングと山分けしつつ、自分でも鍛冶というものに触れてみる。

 今後、想像もしたくないが一人になったときに何もできないというのは困るから、簡単な手入れや手作業はできるようになっておきたい。

「教えるとかはできないし、私を見るよりも本場の職人を見て覚えた方がいいと思うんだけどね。」
「他人に覚えられるような行動はなるべく控えたいからね。」
「どの口が……」

 呆れているラングの手元では、ゴーレムから採った鉄が熱も無く変形している。
 何度見ても、【金属操作】の自由度は半端じゃない。
刃渡りは80センチ程度、全長で1メートルの剣を主に量産しつつ、30センチ程度の短剣や刃渡りが2メートルもある長剣も作っている。
 余った破片で指輪や腕輪なんかを作っており、ベルの包丁や食器もラングが作ってくれたものを使っている。
 また、金なら加工した指輪なんかが結構な高値で売れており、セナの探索とどっこいの売り上げを出しているため、セナのモチベは結構下がっている。

「ふんっ!!」
「ああ!なにやってんの!?スキル無しに鉄が伸びるわけないじゃん!」

鉄の塊を握って伸ばそうとして、バツンと砕ける。
 熱も無い状態での鉄をセナの剛力で引っ張れば、それはもう簡単に千切れる。

「熱……『火魔法』を……」

 手に持った鉄に魔法で出した火をあてる。
魔物を相手するときの広範囲を焦土と化す炎ではなく、一点集中で火力を高める鋭い火をイメージする。

「ちょっ!熱した鉄を素手で持つとか馬鹿じゃ———!!」
「ぬんっ!!」

 鉄の塊は桃色に近い明るい赤になったかと思えば、まるで水のように溶けた。
 まるでスライムのように溶けた鉄だが、皮膚の強度も尋常ではないセナにとって、それはまさしく赤いスライムでしかなく、溶けて地面に落ちそうだったものを掴むと、手のひらでぎゅうぎゅうに握りこむ。

「ふっふっふん!!!」
「な、なにやってんの?」

 手の中で圧縮された鉄は、手のひらサイズの塊になる。

「ぬぬぬぬ!!」

 それを、手のひらでぐりぐりと伸ばし、棒状にする。
そのまま、針金のようになった鉄を糸巻の手でくるくるに巻き、またしても握力にものを言わせて圧縮。

 まるで麺でも作っているかのような行為の繰り返し、一本の剣をひねり出す。

 鍔も柄もなにも無い。子供が粘土で作ったような剣。
持ち手の部分まで鉄で作り、剣としてもふざけたような形状だった。

「あんた、あんまそれ持ち歩くんじゃないよ。」
「……そうだな。」

 渾身の作品は、あまりにも不格好で悲しくなった。
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