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第三十七話

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 朝になったセナは【春スライム】の状態を確認して、街を歩くことにした。
セナは既に冒険者ギルドに登録している。
 が、冒険者としての資格はほとんど使える物じゃないし、冒険者というものにセナは少し忌避感がある。

 生まれ育った国では、殺人の汚名を被って冒険者としての資格を剥奪されているし、前の街ではほとんど死亡扱い。
 冒険者になることが金稼ぎの最短なのは理解しているが、何となくもうやりたくない。

 商業とか、錬金術とか、技能とか、ギルド自体はそこそこの数があるが、この街には商業と冒険者のギルドしかないらしい。

 商業といえば、サンクトルが幅を利かせているところだから、あまりかかわりたくない。

 かといって、冒険者となると嫌なコネがチラついて嫌だ。


「なんでもいやいやって、子供かよ。俺。」

 そう呟き、少しだけ冒険者ギルドの中を覗こうと、そちらの方向に歩いていると、セナの背後から声がかけられた。

「ねぇ、もしかしてセナ?」
「…………っ!?」

 声には覚えがあった。
一年くらい、何度も話した声だから。
 それも今では、怒りの記憶でしかない。憎しみの発生源。

「あんた、こんなところでなにやってるの?」

 それは、前の国で組んでいたパーティの1人、女魔術師のマロニー・オルトラの声だった。


「マロニー。」
「ねぇ、人殺しのあんたが、なんでこんな白昼の往来で堂々と歩いてるのって聞いてるの。」
「……」
「ねえ、なんか言いなさいよ!」

 この口ぶり、真犯人のことは知らないのか、それとも知っていて、セナをここでも陥れたいからこう言っているのか。
 それよりも、なぜここにいるのかを聞きたいのはセナの方だ。

「いろいろあって、ここまで来た。お前らは、なんでここに?」
「私達はここに護衛の依頼があってきたの。でも、あんたみたいなのを見つけて最低な気分。近くに衛兵がいたら突き出してやるのに。」

 吐き捨てるようにそういうマロニーの言葉。
視線、雰囲気、匂いに至るまで、全てがセナの腹を燃やす。
 
「おいマロニー、この街の冒険者ギルドはそこか?」
「……」
「もう、早く宿とろうよ。汗びっしょりで気持ち悪い~」
「……」
「大変ですが、少しの辛抱ですよ。この街ならきっと良い宿がありますよ。」
「……」

 マロニーの後ろから、彼女を追って来た三人。
戦士のデューク。盗賊のキラミ。僧侶のソーイチロ。

 昔はその中に、荷物持ちのセナがいた。


「おっ、その顔はセナじゃん。久しぶりだな~!!お前がいなくなってから大変で大変で……いや、全然問題なかったわ!!ははっ」
「げっ、ほんとにセナじゃん。アタシまだこいつの顔見たらダルくなるんだけど。」
「お久しぶりですね。てっきりどこかで野たれ死んだと思っていたのですが、こんな隣国にまで逃げ及んでいるとは」

 三人とも、セナに向けるのは侮蔑の目。
いや、四人ともだ。

 その中でも、デュークの向けている目線は特別だ。

なんせ、人殺しの汚名をかぶせてきたのはそのデューク本人だからだ。


 ◇◆◇

 人殺しと言っても、いろいろな種類がある。
奴隷や孤児を殺しても、大した罪にはならない。
 もちろん、公の場で殺した場合は規定上の罰則を受ける必要があるわけだが。
 そして、一般人を殺した場合は、発覚次第で罰則があるし、身内からの報復もありえる。
 これでも、国外追放なんてされるほどの罪にはならない。

 なら、国外に逃げないといけないほどの罪となると、どんなものになるのか。

 デュークは、貴族を殺した。
 セナは、貴族を殺したことにされた。

 目的は金だったらしい。
 金目の物を欲して、貴族の邸宅に火をつけて、間違った意味の火事場泥棒をした。
 結局、大した金も宝石も手に入らなかったわけだが、その際にその貴族が火に巻き込まれて死んだ。

 結局、罪に問われる一歩手前で、デュークは内部告発という形でセナを囮に仕立てた。

 本来なら、他のメンバーが庇ったりするものだろうが、当時のセナはあまりにも不良品すぎて、パーティの足手まといでしかなかった。

 なぜか近くにいると疲れるし、一緒に依頼をこなしていたらスキルの成長や習得も遅くなるし、なにより本人があまりにも雑魚。
 そんな足手まといのゴミを連れて回ったのも……

 そう、こんな時の身代わりのため。

 そう考えれば、セナの末路はよくあることかもしれない。
多分、歴史を見れば該当者なんてそこそこあることだろう。
 奴隷として生まれて、使いつぶされて死ぬ。
 地下室のエルフたちの方が悲劇としては上かもしれない。
 ユゥリですら、セナよりも可哀想だろう。

 だからなんだという話だが。

◇◆◇

「どうする?こいつを連れ帰って手配金でももらう?」
「大した額じゃねぇし、労力に見合わねぇよ。」
「こいつの顔なんてもう見たくないんだけど~」
「変に縋られても困りますし、見なかったことにするので、どこかに行ってください。」

 四人とも拒絶の意。
セナを金として見る不愉快な視線。
 この距離なら、四人のステータスを奪って虚弱死させるのも不可能じゃない。

 怒りと勢いに身を任せ、手を前に出そうとしたとき、また別の、セナの知る声が聞こえてきた。

「もう!!先行しすぎですよ~!護衛なんですから、ちゃんと守ってください~!」
「まあまあ、僕らの二人きりの時間を尊重してくれたんだろう。ねぇ、君たち。」

 男の方は知らないが、女の方は良く知る声だった。
セナにとって、デューク達と同じくらい憎い。
 ある意味で、デューク以上に憎い相手。

【聖女】ライラ・ペンドルトがそこにいた。

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