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第三十一話

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 『灰砂』との戦闘に勝利したセナは、先ほどまでの客室とは違う部屋に通された。
 その部屋はラーヌの執務室ということらしく、仕事部屋らしい内装だった。
 そこでセナは軽い質疑応答、面接を行っていた。

「はぁ!?どっちが勝っても『灰砂』は雇うつもりだった!?」
「当然だ。素性の知れない貴様はともかく、『灰砂』の実力はそのランクが示す通りだ。そのため『灰砂』を使って貴様のテストを行ったというだけだ。」
「てすと……」

 話が終わったあたりで、老紳士のポールが数枚の紙を持ってきた。
その内容は護衛の契約であったり、契約内容の詳細な文だったりと、学のないセナにとっては読むのに苦労する内容だったが、5枚程度の紙だったので理解はでき、サインをした。

「よし、書いたな。ポール、保管と『灰砂』の容体を確認してきてくれ。そうだな、30分後にここに来るよう伝えてくれ。起きなければ起きた時に来い。」
「かしこまりました。」

 ポールが退室し、この部屋の中にはセナとラーヌの二人だけになる。
しばしの沈黙が空間を支配したかと思えば、きっちり3分の沈黙の後ラーヌが口を開いた。

「貴様の実力はわかった。しかし、それでいて無名なのには納得がいかない。貴様、この街へ来る前は何をしていた?」
「しがない旅人でした。」
「ほう?となると、この街へ来てからそう経っていないのか。これは好都合。」
「と、言いますと?」
「貴様には関係のない話だ。」

 なぜか退室を命じられないまま、雑談を続ける二人。
ピリピリとしたラーヌの雰囲気に緊張した空気があったものの、セナはそれをいなして喋る。
が、それも長く続かなかった。

「で、ブルーオークとレッドゴブリンの壊滅に関与しているのは貴様なのか?」

 突然、なんの脈絡もなく問われたその言葉に、セナは言葉を詰まらせる。

「ブルーオーク、レッドゴブリン、知りませんね。魔物の名前ですか?」
「壊滅、と言っているだろう。この街で幅を利かせていたチンピラどものことだ。」
「へぇ、そんなものがあるんですね。でも、壊滅したってことはもう無いのか。あははは」

 笑ってごまかすセナの顔に、ラーヌの視線が突き刺さる。

「実をいうと、その二つのうちブルーオークからちょっかいを掛けられていてな。俺が雇っていた実力者もあいつらに引き抜かれた。まったく、一商会の力なんてこんなものだ。金を積まれれば、魅力があれば、チカラがあれば、ついてくる者の意思なんて物次第だ。」

 急に饒舌にしゃべり始めたラーヌに面食らうセナ。
今までの厳つい顔つきから、徐々に疲れを見せたような顔をし始める。

「俺には金しかない。兄にはそれ以外のものがある。情けない話だ。」
「ほう、お兄様ですか。」
「ああ、貴様が俺の前に赴いた兄だ。」

 そう言うや否や、セナの眼前いっぱいに大量のナイフがあらわれる。
その量もさることながら、それぞれがとてつもない速さでセナに向かって飛んでくる。

 天井に跳び、指をめり込ませる形で状態をキープしてナイフを避けたものの、右足に二本刺さってしまった。

「ほう、避けるか。さすがだが、この屋敷に傷をつけるのはやめてもらおう。」

 そう言ったと同時に、セナの視界は切り替わり、再び目の前に座るラーヌがいた。

「何をした!」
「時間を止めてナイフを投げて時間を巻き戻してそこに戻した。だから、足のナイフももう無いだろう?」
「……!?」

 言われて確認をすると、右足に突き刺さっていたはずのナイフも、天井を掴んだ際の指の穴も無くなっていた。

「これが俺の【固有スキル】【時間操作】。と言っても、半径10メートル以内の物の時間を操作するだけ。大した能力ではない。」
「……いえ、素晴らしい能力かと思いますが。」

 誇らしげにそう語るラーヌ。
その表情は今までに見たことが無いくらいうれしそうで、セナの緊張感は少しだけほぐれた。

「実は兄の次になったことに怒ってはいない。俺も貴様の立場ならそうする。が、どうせ兄の変な性格に振り回されて気が変わったのだろう?ふふ、目に浮かぶようだ。」

 カラカラと笑うラーヌだが、年頃の少年のように笑うその姿は、少し気味が悪かった。

「で、話を戻すが、実をいうと貴様を積極的に雇うつもりはない。」
「え?」
「ブルーオークの屋敷の地下で、拾い物をしたな。それを寄越せ。」
「……は?」

 話の移り変わりで混乱続きのセナだったが、最後の言葉はすんなりと頭に入ってきた。

 つまり、エルフたちを寄越せと。
自分の物にしたいのだと。

「貴様、さすがに契約書にサインするとき、姓を書かないのは良くないぞ。無姓ならともかく、貴様に姓があることは知っている。あの契約はほぼ無効状態だ。」
「……」
「そして、あの拾い物はもともと俺の物。金は出すから返してくれ。」
「……」
「?なんだ、まさか、地下は探っていないのか?ちっ、オーラ!!」

 急に黙ったセナをいぶかしみ、ラーヌは一人で話を進める。

「お呼びになりましたか。」
「ああ、ブランとサイルを連れてブルーオークの屋敷を捜索してくれ、『アレ』だけはなんとしても取り返す。」
「かしこまりました。」

 そうメイドに話すラーヌだが、セナの耳にそれは届いていなかった。

「ラーヌ……」
「呼び捨ては好まんのだがな。一応まだ客と家主だ。礼節は大切に———」
「お前、あの子たちをどうするつもりだったんだ?」
「あの子?なんのことだ?」
「エルフの子供だ!!あの地下で監禁されていた子達!!お前があの子らの故郷を焼いたのか!!」

 セナの怒号に、メイドがラーヌとの間に割って入る。
しかし、それを静止してラーヌが言う。

「エルフ?何を言っている?俺が取り返したいと言ったのは物だ。人ではない。」
「……は?」
「一冊の本だ。大切な物なのだ。お前の言っているエルフなど知らん。」
「……えぇ?」
「で、貴様は無実の俺を怒鳴りつけたわけだが、どうする?今なら捜索の手伝いだけでチャラにしてやるぞ。」
「……謹んで、お手伝いさせてください。」

 早とちりした挙句、セナはメイドたちとともに壊滅したブルーオークのアジトに戻ることになった。
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