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第三十話

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 イーガルとの交渉に敗れたセナはその足で次男の邸宅へ来ていた。
次男はそれ相応の豪邸に住んでいて、中からは数人の慌ただしい気配を感じる。
 まだ耳と鼻が痛いセナは第六感にのみ頼り、邸宅の外の門のベルを鳴らす。

 その数秒後に、一人の老紳士が横の小さな扉から出て門に近づいてくる。

「お待たせいたしました。おや、失礼ですがどちら様ですか?」
「あ、自分けっこーぶいぶい言わせてて!ラーヌ・サンクトル様に実力を買ってもらいたいんすわ。」

 少し明るめで話すセナ。なれないことをしている自覚はあるが、この雰囲気だと強気で行かないと追い返される気がした。

「……左様ですか。でしたらこちらへどうぞ、主人がお待ちしています。」
「……お邪魔しマース!!」

 もうこのノリで行くことにしたセナは、老紳士の後ろについて屋敷の中に入っていく。

◇◆◇

「で、貴様が話に聞く実力者か。」

 通された客室に待っていたのは、濃い黒髪をオールバックにして、眼鏡をかけた顔に大きな傷のある強面の男。
 珍しい黒いスーツに身を包み、黒く大きいソファの真ん中に大きく足を開いて座っている様は、セナよりも年下とは思えない威圧感を放っている。

「『灰砂』というからには薄汚いやつを想像していたが、意外と身ぎれいな奴だ。着ている物は安物だろうが、ま、及第点だな。」
「ご主人様、この方は『灰砂』ではありません。本日突撃訪問してきた別の方です。」
「はぁ?なんでそんなやつがここに?」
「ご主人様の求める強者であれば良し。そうでなくとも『灰砂』の実力を測るのにはちょうどいいと判断しました。お許しください。」
「……ぁあ、そうだな。悪くない。許す。」

 老紳士と黒スーツが言葉を交わす。
どうやら話を聞くに、この黒スーツがラーヌということらしい。
 長男と次男でこうも違うものか。
そう思っていると、今度はメイドが一人の男を連れてきた。

「あ、『灰砂』って呼ばれてるAランク冒険者のゾル・ラッシュです。」

 その男は全身に砂嵐でも浴びたのかというくらい砂まみれで、あまりにも汚かった。
 少なくとも、その外套よりも踏んでいる床の絨毯の方がきれいに見えるくらいには薄汚かった。

「ちっ、ポール、ちゃんとあとで掃除しておけ。オーラ、せめて外で砂を払ってから入れろ。」
「そ、それがご主人様。この方の砂、いくら落としてもどこからか出てくるんです。」
「なんだと?」

「あ、自分の【固有スキル】のせいなんで、できれば大目に見てほしいです。」
「ちぃっ!……俺はサンクトル商会の次男、ラーヌ・サンクトル。最近になって出来損ないの兄貴がBランクパーティなんて雇いやがったから、仕方なしにAランクのお前を護衛に雇うことにした。」
「はいはいぃ、聞いております。して、そちらの方は?」
「知らん。が、実力を見てほしいということだからな。『灰砂』と戦い買った方を雇う。」

 なんとなく流れが読めてきた『灰砂』とセナ。
ふたりの間で、視線が交差する。

「どーもどーも、さっきも言いましたが、自分『灰砂』って呼ばれてます。実はこれ、スキル名なんですけどね!」
「どーもどーも!自分はセナと言います。ラーヌ様に雇ってもらうために、ラッシュさんをぶちのめすつもりなんで、よろしくお願いします。」

「「……」」

 互いに目と目、瞳同士でにらみ合う。
表情には一切出さず、それでいて、その敵意だけが互いを見合う一つの信号。

『自分と同じタイプのクソ野郎だ。こいつはできれば殺したい。』

 そんな消極的な殺意を抱きつつ、二人を連れてラーヌは中庭へと移動した。

◇◆◇

「気絶、戦闘不能、死亡、なんでもいい。実力を示せ、以上。」

 静かに始まった実力試験。

ゾルとセナは互いの動きから目を離さない。
 瞬きも忘れるような5秒が過ぎたのち、二人は同時に動き出した。

「【一閃スラッシュ】」
「【灰砂トラッシュ】」

 先手はセナ。大きく勢いキレともに良好な剣での一撃を放つも、その剣そのものが同質量の灰色の砂となり落ちる。
 その一瞬の隙をついたゾルの拳がセナの顔にめり込む。

 もちろん、それだけで沈むセナではない。
『水魔法』を全身に纏わせ、『風魔法』で砂の動きを読む。

 その二手を、ゾルは数秒速く読み。

『灰砂』を両手に纏わせ、大きな拳を形成。
【灰砂拳】とでも言えるような拳によって繰り出される巨大拳の振り下ろし。

 両腕を交差させてガードしたセナだが、その防御ごと地面にめり込むことになる。

 地面に埋まったことで手足を一時的に封じられたセナは、ゾルの『灰砂』で上からさらに埋められ、ちくちくと窒息と圧迫の二つで攻められる。

 身動きの取れないセナだが、自身を中心に内側から【結界】を生成することにより、一時的に直径1メートルほどの球体の安置を確保。
 化け物のようなステータスに身を任せた一撃により、【結界】を高く上空へ跳ね上がらせる。

 しかし、当然それに追いすがる『灰砂』
その張り付いた『灰砂』は、【結界】の解除とともに襲い掛かる気満々。
 それどころか、【結界】を自由落下させないために支えている始末。

 ゾルは『灰砂』を足場に、上空の【結界】に守られているセナに近づこうとするが

「これは、土?」

 【結界】の中にはセナと同じ姿かたちをした土の塊。
であれば、セナはどこに行ったのか。
 数秒の間、周囲を見渡すゾルに声がかかる。

「足元ががら空きだゼ!!」

 地面の穴から死人のように這い出てきたセナは、上空にいるゾル目掛けて大きな火柱を立てる。
 『灰砂』によって守られていても、重度の火傷は必至。
もちろん、それなりの高さからの落下によって体には数か所の骨折も。

 1分弱の攻防だったが、勝敗は明確だった。

「そこまで、勝者セナ。ポール、書類の用意を。オーラ、『灰砂』を医務室へ連れていき処置を。」

 ラーヌの指示によりてきぱきと作業をこなす執事とメイド。
『灰砂』が担架で運ばれるまでの間、セナは背中に大きく広がった冷や汗を実感して息を吐いた。

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