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第二十六話
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地下に降りたセナは酷い光景にめまいを起こす。
薄暗い廊下に、さび付いた鉄格子の牢屋。
むせ返る程の血肉と死の臭い。
生命の気配はいくつもあるのに、声はどこからも聞こえない。
「『神聖光』」
木漏れ日のようなあたたかな光を持つ球体を出し、周囲を照らす。
牢屋の奥まで、一つ一つを確認していく。
「これは、エルフ?」
最初に見つけたのは耳を切られたエルフのような少女。
牢屋の隅で息を殺して泣き、光に怯えている様子はあまりにも……
「ふんっ!」
筋力で無理やり鉄格子を曲げ、牢屋の中に入る。
牢屋の中の糞尿や血肉を踏みながら、そのエルフの少女に近づき、顔を見る。
「お前、名前は?」
「……っ、っ」
「俺はお前を傷つけない。だから名前を教えてくれ。」
名前を聞くのは、理由があるわけではない。
言葉が喋れるのかどうかの確認と、呼ぶときに不便が無いようにというだけだ。
「っ……クォルタ。」
「コルタ?そうか、立てるか?」
そう聞くと、ゆっくりとだが自分の足で立つことができた。
手足は一つの大きな鉄球につながっているが、その鎖をセナは素手で引きちぎった。
「その廊下で待っていてくれ、他の生存者を探す。」
セナはそう言って、他の牢を見て回る。
クォルタはまだ被害は少ない方のようで、手足に欠損のある者や、内臓が出て死んでいる者もいた。
生存者は8人、全員エルフの女の子だった。
生存者と言っても、五体満足なのは3人だけ。
手足のどれかが無いのが3人、全部無いのが2人。
セナは一つしか持っていない『水魔法』のスキルで軽く洗い、『聖魔法』で傷をふさいだ。
病も含めての治療となると、もっと踏み込んだスキルが必要だから、落ち着いた場所でやりたい。
そう思い、全欠損の2人をセナが抱え、6人をセナの拠点に連れて行った。
◇◆◇
神聖教の教徒が全員持っていたスキル『聖痕』をエルフたちに与えることで、『聖魔法』の効果が高まった。
これで、破傷風やら性病……やらの病気も含めて消せたはず。
まだ、状態異常まで見える『鑑定』は使えないから確定ではないが。
「で、なんであんなとこに?」
「……私たちエルフは、長生きで何年も同じ姿だから、人間の変態は金をいっぱい出すらしい。」
「それで、あたしたちの村が襲われて、女子供は奴隷に、大人の男はみんな殺された。」
「に、ニンゲン……!」
欠損の無い三人のセナへの態度は三者三様といった感じ。
クォルタは暗い表情で、すこしまだ怯えているようだが話してくれる。
ビラロはムッと眉間にしわを寄せて語気が強く言葉も少しとげがある。
メンロンは明らかにセナも含めた人間を憎んでいる。まともに話せそうもない。
「あたしたちの村を返せニンゲン!」
一応食事として出していたサラダとスープ。
そのサラダ用のフォークをセナに突き立てようとしてくるメンロン。
当然、チクッとしただけでセナにダメージはない。
「メンロン……!その人は私たちを襲った人とは違うよ……!やめて……!」
「落ち着けっ。今そいつの機嫌を損なうのは良くない。我慢してくれ。」
「ゆ、ゆ、ゆるせない!ニンゲン!お前も同じだ!ニンゲン!」
三人でわちゃわちゃともみ合う。
というよりは、暴れるメンロンを二人で抑え込んでいる状態。
「すみません。僕たちを襲った人間とは違うとわかっていても、どうしても。」
「ぼくも、まだニンゲンが怖くて。すみません」
そういうのは、双子のエルフ。
姉ポロロは右腕と左足と左目、妹アルルは左腕と右足と右目を奪われ、悪趣味なシンメトリーの芸術のように壁に貼り付けられていた。
「ポロロ、アルル、お前らはエルフだな?」
「え?今更、なんで?」
「耳が切られているから?ほんとにエルフだよ?」
エルフたちは、ニンゲンと同じくらいの長さで耳を切られている。
理由は知らないが、みんな同じように切られている。
けど、セナが言いたいのはそういうことじゃない。
「エルフだが、ポロロとアルルだ。俺はメンロンが俺を刺したからといって、お前らにやり返すつもりはない。」
「「……」」
セナは思う、自分はこの子らよりはマシだったと。
独りで、奴隷になる前で、死ぬだけだった。
失ったわけじゃない。
だから、この子らの怒りを受け入れるつもりだった。
こう二人に話して、セナ自身の覚悟も決まった。
「メンロン、ほら。」
懐から取り出した、刃渡り20センチほどのナイフ。
魔物からの剥ぎ取りに使う用で、切れ味はなかなか。
それをメンロンの前に置く。
「二人とも、メンロンを離してやれ。」
「で、でも……!」
「冗談じゃすまないぞっ!あっ!!」
メンロンの火事場の馬鹿力で振りほどかれた二人。
怒りの形相でナイフを拾ったメンロンは、両手で握ったナイフに全体重を乗せ
セナの腹部に突き立てた。
薄暗い廊下に、さび付いた鉄格子の牢屋。
むせ返る程の血肉と死の臭い。
生命の気配はいくつもあるのに、声はどこからも聞こえない。
「『神聖光』」
木漏れ日のようなあたたかな光を持つ球体を出し、周囲を照らす。
牢屋の奥まで、一つ一つを確認していく。
「これは、エルフ?」
最初に見つけたのは耳を切られたエルフのような少女。
牢屋の隅で息を殺して泣き、光に怯えている様子はあまりにも……
「ふんっ!」
筋力で無理やり鉄格子を曲げ、牢屋の中に入る。
牢屋の中の糞尿や血肉を踏みながら、そのエルフの少女に近づき、顔を見る。
「お前、名前は?」
「……っ、っ」
「俺はお前を傷つけない。だから名前を教えてくれ。」
名前を聞くのは、理由があるわけではない。
言葉が喋れるのかどうかの確認と、呼ぶときに不便が無いようにというだけだ。
「っ……クォルタ。」
「コルタ?そうか、立てるか?」
そう聞くと、ゆっくりとだが自分の足で立つことができた。
手足は一つの大きな鉄球につながっているが、その鎖をセナは素手で引きちぎった。
「その廊下で待っていてくれ、他の生存者を探す。」
セナはそう言って、他の牢を見て回る。
クォルタはまだ被害は少ない方のようで、手足に欠損のある者や、内臓が出て死んでいる者もいた。
生存者は8人、全員エルフの女の子だった。
生存者と言っても、五体満足なのは3人だけ。
手足のどれかが無いのが3人、全部無いのが2人。
セナは一つしか持っていない『水魔法』のスキルで軽く洗い、『聖魔法』で傷をふさいだ。
病も含めての治療となると、もっと踏み込んだスキルが必要だから、落ち着いた場所でやりたい。
そう思い、全欠損の2人をセナが抱え、6人をセナの拠点に連れて行った。
◇◆◇
神聖教の教徒が全員持っていたスキル『聖痕』をエルフたちに与えることで、『聖魔法』の効果が高まった。
これで、破傷風やら性病……やらの病気も含めて消せたはず。
まだ、状態異常まで見える『鑑定』は使えないから確定ではないが。
「で、なんであんなとこに?」
「……私たちエルフは、長生きで何年も同じ姿だから、人間の変態は金をいっぱい出すらしい。」
「それで、あたしたちの村が襲われて、女子供は奴隷に、大人の男はみんな殺された。」
「に、ニンゲン……!」
欠損の無い三人のセナへの態度は三者三様といった感じ。
クォルタは暗い表情で、すこしまだ怯えているようだが話してくれる。
ビラロはムッと眉間にしわを寄せて語気が強く言葉も少しとげがある。
メンロンは明らかにセナも含めた人間を憎んでいる。まともに話せそうもない。
「あたしたちの村を返せニンゲン!」
一応食事として出していたサラダとスープ。
そのサラダ用のフォークをセナに突き立てようとしてくるメンロン。
当然、チクッとしただけでセナにダメージはない。
「メンロン……!その人は私たちを襲った人とは違うよ……!やめて……!」
「落ち着けっ。今そいつの機嫌を損なうのは良くない。我慢してくれ。」
「ゆ、ゆ、ゆるせない!ニンゲン!お前も同じだ!ニンゲン!」
三人でわちゃわちゃともみ合う。
というよりは、暴れるメンロンを二人で抑え込んでいる状態。
「すみません。僕たちを襲った人間とは違うとわかっていても、どうしても。」
「ぼくも、まだニンゲンが怖くて。すみません」
そういうのは、双子のエルフ。
姉ポロロは右腕と左足と左目、妹アルルは左腕と右足と右目を奪われ、悪趣味なシンメトリーの芸術のように壁に貼り付けられていた。
「ポロロ、アルル、お前らはエルフだな?」
「え?今更、なんで?」
「耳が切られているから?ほんとにエルフだよ?」
エルフたちは、ニンゲンと同じくらいの長さで耳を切られている。
理由は知らないが、みんな同じように切られている。
けど、セナが言いたいのはそういうことじゃない。
「エルフだが、ポロロとアルルだ。俺はメンロンが俺を刺したからといって、お前らにやり返すつもりはない。」
「「……」」
セナは思う、自分はこの子らよりはマシだったと。
独りで、奴隷になる前で、死ぬだけだった。
失ったわけじゃない。
だから、この子らの怒りを受け入れるつもりだった。
こう二人に話して、セナ自身の覚悟も決まった。
「メンロン、ほら。」
懐から取り出した、刃渡り20センチほどのナイフ。
魔物からの剥ぎ取りに使う用で、切れ味はなかなか。
それをメンロンの前に置く。
「二人とも、メンロンを離してやれ。」
「で、でも……!」
「冗談じゃすまないぞっ!あっ!!」
メンロンの火事場の馬鹿力で振りほどかれた二人。
怒りの形相でナイフを拾ったメンロンは、両手で握ったナイフに全体重を乗せ
セナの腹部に突き立てた。
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