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第二十三話

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 セナは自分の作った防壁とその中の小さな村を随時強化し続けていた。
 しかし、セナの魔力にも限界はある。
整地、形成、補強、その全てを避難民から徴収した魔力と先の戦闘で獲得した魔力で行うものの、やはり広範囲になればなるほど魔力の消費が激しくなる。
 
「セナさん、大丈夫?」

 避難民の中でもセナと交流のあるハロがそう声をかけてくる。
 セナは魔力の完全消費でぐったりと倒れていた。
休眠をとればかなり高速で魔力は回復するが、それまでが長いし辛い。

 猶予はある。しかし、魔力を回復して消費してを繰り返しているだけでは、次の襲撃には勝てないだろう。
 ベルモットの教育のおかげで、若者は戦闘技術をめきめきと伸ばしているし、この仮住まいもそろそろ十分な強度になるはず。

 セナの計画では、この村を若者たちとベルモットに守らせている間に受け入れを拒否した街にセナが侵入。

 全てを養分として狩り尽くしてしまう。

もちろんセナはもうそんな事は考えてない。
 この一ヶ月間程度の付き合いだが、セナは他人との繋がりを理解してしまった。
 街の連中を皆殺しにはしない。

殺すべき奴だけ殺す。

「ハロ、お前は強いな。」
「何千人も倒したセナさんにそう言われたら複雑な気持ちになりますね。」
「そうじゃない。この状況、絶望的なこの状況で、お前の目は綺麗だ。」

 綺麗な二重の大きな目。そこには絶望も諦観も無い。
未だに未来を見据えていられる強い光を感じた。

「セナさんがいるからですよ。セナさんは俺たちの希望だから。」
「希望?」

 言っていることは分からなかった。
セナは身分すら偽っている不審者でしかないと、自分ではそう思っていた。

だから、今から起こるのはセナにとって思いもしなかった奇跡。

「……これは!」

 突如として光に包まれたハロ。
同時に、訓練をしていたベルモット以外の若者も光に包まれる。

「固有スキル【開闢】」

 全員にそのスキルが開花していた。
しかし、その効果は一つも同じではなく、セナの【究極的暴君】でも奪う事はできなかった。

「ベルモット、試しに戦ってみてくれ。」

 寝転がったままセナは観戦することにした。
未だ一本も取れていないベルモット相手に、ハロがどれだけ善戦するか。

「行きます」

 剣を握ったハロからは、今までに無い覇気を感じた。
切先まで神経を張り詰めているような緊張感。
 寝転がっているセナの背筋に冷や汗が流れる。

素早く踏み込まれた足に振り上げられた剣はこれまでのハロとは比べ物にならない速度で、秘められた威力はその見た目以上だと直感した。

バキッ

 咄嗟に二人の間に入ったセナは、手のひらに食い込む刃を中程で折り、ハロの手に残る柄を蹴り上げた。

「ここまでの剣気は初めて見ます。【開闢】とはどのようなスキルなのですか。」
「【鑑定】じゃ、『新たなる境地、無限なる可能性の発露』としか書かれていなかった。」
「せ、セナさん、すみません!手がっ」

心配そうなハロを宥めながら、【開闢】についての検証は続ける。
 ハロは剣術だったが、他のメンバーには別々の才能が開花し始めた。
魔法に拳法。それぞれ直感的に自身の特技を理解してその優秀な才能を魅せていった。

 つまり、今の情報だけで言えば【開闢】とは『才能を引き出すスキル』の可能性が高い。

 セナはそう結論づけて、体力と魔力の回復に意識を戻した。

◇◆◇

 セナの作った集落は改築と強化を続け、ある程度形が出来上がってきた。

 円形の高さ5メートルの防壁とその外側にある深さ2メートルの溝。円の半径は約300メートルとなった。
出入口は東西南北の4ヶ所で、それらを繋ぐ十字の通路に沿うように仮居住地を建て、それ以外の場所には訓練所や簡易な畑を作った。
 通路の真ん中には半径2メートル程度の穴を開け、その下には大きな避難所を作った。
 現状ではここの住人が全員入れるようになっている。

今後も改良案は受け入れるつもりだが、移動の可能性も考えて細かい作りにはせず、大量の魔力で可能な限りの強化を行なった。

「これから俺は街に侵入する。その間この中の人間は危険に晒されると思うが、最高権力はベルモット、その次にハロ、以下は同列とし、互いに助け合って生活してくれ。長くは離れないが、一ヶ月以上帰ってこなければ俺は死んだものとしてベルモット主導のもと避難を開始してくれ。」

そう指示を出し、セナは単騎で街に潜入することに決めた。
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