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第十話

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 セナは暴れ回った。
この胸の痛みを忘れたかった。
 自分がこの世の何よりも醜いのではないかと思った。
 そんな気持ちを拳に乗せて、ウルフ達を殴り殺した。
ウルフを殺す度に、セナは強くなる。
 ステータスには忍耐や、知力などの項目があるが、この痛みはそれらで掻き消せるとは思えなかった。

「しぃぃぃぃ!!!ぁぁぁああああああ!!!」

 今まで出したことのない大声が腹の底から唸り出す。
拳の皮がめくれて、その下の部分もめくれて、痛みをかき消すための痛みを渇望する。

「クソ、クソッ!クソクソクソォッ!!!」

 死んだウルフの頭部を何度も殴りつける。
ウルフの頭を通り越して、地面を殴りつけてしまうことになっても、手は止まらない。

「き、君、大丈夫かい?」
「ッ!!!?」

 気付かなかった背後からの声に、大きく飛び跳ねて後ずさる。
 そこにいたのは、普通の、一般的な男だった。
特徴的なものは何も無いし、腰に差してる剣も、セナと同じような普通の剣。
 茶色い短髪の中年の男。

「な、なんでもありません!!」
「あっ、ちょっと!!」

 男の声から目を背け、脱兎の如く駆け抜ける。

 セナの中のヤバい奴は、『その男を殺せ。ステータスを奪え。目撃者、不審がるやつ、全部殺すべきだ』と言っているが、セナはそんなことを考える暇もなく、全力で走った。

 気づけば、40匹分のウルフの素材を集め切っていた。

◇◆◇

「え……凄……たった3時間ですよ?今、お昼の4時なんですけど。というかっ!手!怪我してますよ!え、殴ったんですか!?ちょ、エマさーん!!救急箱持ってきて!」
「ぁ、ぃや、怪我の方は別に……」
「放置なんてできませんよ!なんでそんな風になるまでやっちゃったんですか!!」

 怒鳴られる。いや、叱られている。
セナにとって、心配からくる大声なんて、初めての経験かもしれない。
 心の痛みが、広がる感覚がする。
涙が出てきた。
 
「……あんちゃん、やっぱりここだったか。」

 後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。
さっき、声をかけてきたおっさん。
 驚き、後ずさる。

「これ、あんちゃんが倒したウルフの毛皮。忘れて帰ってったからさ。届けたぜ。」
「……ぁ、ぁりがとう、ございます。」
「何があったか知らないが、溜め込むのはダメだぜ。知らん奴に言われても困るかもだがな。」

 喉を掻きむしって、吐き出したい気持ちに苛まれる。
あまりにも辛い。

「また来ます。」
「あっ!昇級の件は!?というか、手当てしないと!」
「……結構です。」

 ギルドから逃げるように出ていった。

◇◆◇

「おかえりなさいませ、セナ様。」
「ぉぁぇぃ」
「……!?ユゥリ、喋れるようになったのか?」
「ユゥリ様は私と練習をしまして、簡単な母音だけでの会話を覚えました。また、通訳としての合図も決めまして、これからは2人の会話を円滑にできるかと。」
「そんなことが……ベルモット、ありがとう。」

 宿の部屋で、2人にさっきのことを話した。
話しているうちに涙が出てきて、話すこともままならなくなった。

「ぁぅ」
「『人から優しくされて、嬉しかったのだろう。』と仰っています。」
「(何も、関係のない人たちまで恨むことはない。それを心の底で理解してるから、セナは罪悪感と自己嫌悪で、複雑な気持ちになっているだけ。)」
「セナ様、失礼します。」

 ユゥリからの合図があり、ベルモットはセナをベッドへ招き入れた。
 そのまま、自分の膝へ頭を下させる。

「何を……?」
「ユゥリ様は自分にできないからと、こうやってセナ様を癒すように言ってきました。」
「……そっか。」

 セナはその日、枯れ果てるまで泣いた。

◇◆◇

 セナが眠ってから、ユゥリとベルモットは2人で話していた。

「私は、セナ様の奴隷として最高の者として産まれたホムンクルスです。詳細を話す事はできませんが、貴女に、セナ様の人生について話す事はできます。」
「……ぉぇぁぃ」
「わかりました。まずは、彼の生まれから……」

 眠ったセナの頭を撫でながら、ベルモットは話し始めた。
その目はいつもの無感情な目ではなく、まるでこの世の中で最も愛しいものを見るようで……
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