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第八話

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 ガルナの街の中はフィロスの街とはまるで違い、清潔感と賑わいのあるいいところだった。
 街行く人の顔に愁いがない。
とはいえ、希望に満ち溢れているとかではない。
 冒険者らしき顔の者は殺伐とした顔つきだし、仕事をしている人は頭を抱えている。
 これが、一般的な日常の風景。
故郷を思い出す場所。

「宿を探すか。」

2万エルもあれば、数週間は暮らせるかな。
 その間にでも仕事をして稼げばいい。
しかし、その間ユゥリをどうするか。

「魔法を使ってもらうか。」

 思いついたものの、難しいだろうと断念。
まず詠唱ができない。次に放つ対象を見る目が無い。

「介護人でも……いや、信用できない。介護している風で虐待とかもある。」

まず、その人すら見ていないのだから完全な偏見である。

「信頼、信用なぁ。奴隷とかか?」

奴隷の値段はピンキリだが、三万エルあったらまともなヤツが手に入る。
 最低額は……いくらだったか。

 ともかく、宿を取る前にセナは奴隷商を探した。

◇◆◇

「あったわ。」

 こんな綺麗な街にも裏路地があり、日影者が集まる場所があった。

 そんなところに一つ、堂々と『奴隷商』と書かれた看板が目に入る。

「俺もこんなところに並ぶかもしれなかったのか。」
「ほーぅ?そんな風には見えませぬなぁ!!」
「うわっ!?」

 突然後ろから声をかけられて、セナは驚き後ずさる。

「コンニチワ!私、ここで奴隷商を営んでいます。ギャラク・アポロと申します。お客様は?」
「お、俺はセナ。三万以内で奴隷が欲しくて来た。」
「オーラーイ!!分かりました。では、店内へどうぞ!」

 ぬるりと脇を抜けられて案内されるセナ。
背中越しに、店主に対して『鑑定』をかける。

『ギャラク・アポロ xxxxxx
ステータス【おやおや】
パッシブスキル【勝手に】
アクティブスキル【人のことを】
固有スキル【盗み見ちゃ】
属性【いけませんことよ?】』

「わっ!?」
「るっふっふっふ。ダメダメダメダァメ。マナー違反はダメですよ~?」

『鑑定』を見破られて阻害された?一体どんな方法で?
セナの混乱は強まる一方。
 しかし、セナの混乱は、この店を出るまで続く事になる。

「我が店のモットーは理想的かつ合理的かつ最適かつ最上のサービスを提供すること。ですので、差し上げるリストには貴方様の超絶好みの者がいます。ささ、どうぞどうぞ。」
「あ?あ、ああ。」

 受け取ったリストには写真がついており、かなり詳細なプロフィールが書かれていた。

「この子とか如何で?かなりの優良ですよ。」
「いや、え、なんで女ばかり。」
「ユゥリさんの介護要員ですよね?女性以外ないでしょう!」

 そう言って渡された書類に目を通す。
 その中に1人、一目見ただけで指が止まる子がいた。

『ベルモット・カナメ 14歳 女
B91 W62 H82 処女
ステータス【250】
パッシブスキル
『清潔』レベル4
『奴隷紋』レベル10
アクティブスキル
『奉仕』レベル4
『水魔法』レベル3
固有スキル
【神の手】』

 桃と橙の中間のような髪色を肩まで伸ばしている美少女。
髪と同じ色の目は死んだ魚のようで、生気を感じない。
 なにより、プロフィールにある【固有スキル】。
詳細は不明だが、かなりのレアなんじゃないかと勘繰る。

「この子の値段を聞きたい。」
「無料です。」
「………………は?」
「タダです。たった二万エルしか持ってない貴方様にそこまでの苦労をかけるわけにはいきませんゆえ。」
「あ、いや、てか、なんで。」

 店主から手を引っ張られ、奥の部屋へと入る。
そこには、なぜか先ほど読んだ子が立っていた。
 首と手足には厚い錠。数字ではわからないほどの体の凹凸。
どこを見ているかわからない顔を除けば、今まで会った誰よりも美しい。
 そして、よく見れば胸元に桃色の紋が描かれている。

「こちらが『奴隷紋』。基本的には主従両方に無害ですが、奴隷へ命令を強制する際にはこれを通して痛みが与えられます。逆に、この奴隷が行った犯罪行為の罰則は主人である貴方のものです。」
「……そうか。」
「ではでは、契約をさせていただきます。こちらにサインを。」

出された契約書にサインするも、店主は不服そうな顔をする。

「お客様~?名前、セナとしか書いていないじゃなーぁいですか。ちゃんと姓のカルハートまで入れていただかないと。」
「……わかった。」

 店主の胡散臭さは最早気にしなくなったセナ。
促されるまま、その紙に自分の姓を書く。

「ありがとうございます。では、こちら、サービスです。」

店主が手を握って来たと同時に、セナの視界は暗転し、目を覚ました時には何故か宿の中だった。

◇◆◇

「これからお世話になります。ベルモット・カナメと申します。ユゥリ様のお世話、頑張ります。」

 何故か宿に戻っており、枕元に立っていたベルモットは、恭しく挨拶をしてきた。
 混乱が抜けきっていないセナは、一旦頭を落ち着けるために、ベルモットへ色々な質問を投げかけた。

「あの奴隷商の正体はなんだ?何故俺の姓や、目的なんかを知っている?」
「分かりません。私には奴隷として売られる以前の記憶がなく、そのため詳細な情報は持ち合わせていません。」
「え、そんな状態なの?解放されたいとかは?」
「現状への抵抗感も無いため、そのまま奴隷として扱われています。解放するのもそのままであるのも、主人であるセナ様の一存で決まります。」

 本当にそれ以上知らないらしいベルモットの言葉に頭を抱えて、もはや思考を放棄したいとまで思い始めるセナ。

「もういいわ。じゃあ、ユゥリのこと頼む。」
「あ、セナ様、伝言を預かっています。『サービスとして【隷属魔法】と【眷属強化】をお渡しします。ぜひご活用ください。』とのことです。」
「……そすか。」

 セナは考えるのをやめた。
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