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第五話

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 陽が上り、あたりの様子がわかるようになった。
ゴブリン達の楽しそうな笑い声も聞こえる。
 
 セナの疲労感はかなりのもので、これがフカフカのベッドなら二度寝は確実というレベル。

 だがらここは土の敷布団に落ち葉の掛け布団、木の根の枕しかない貧困ホテル以下の有り様。


「さて、ゴブリンを殺しに行くか。」

 【巣】の捜索と破壊が基本的な目標。
街へ戻る理由は特にない……訳ではない。

 武器を調達するというのもアリだし、今ならもっと大きく丈夫な袋を買って素材の刈り取りに役立てられるし、普通に腹も減ってるから美味い飯を食いたい。

が、正直例のカス受付嬢が生きてたらと思うと地味に怖い。
 セナはあの女にもかなりのトラウマを植え付けられた。

 恐怖する対象しかないこの世界で、なんで生きていたいと思うのか。ずっと疑問に思っている。

 だからこそ、目の前の景色にセナの心は更に荒む。

『ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!』
『ぎぃぃ!ぎぃぃ!ぎぃぃぃ!』
「ぁぁ……ぅ……」
『ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!』

 いくつもの緑の塊が、3人の女に群がっている。
ここは小さな洞窟の中。
女達は、血と泥で汚れながらゴブリンを……

 女達の状態は酷い。手足は無く、舌も抜かれているようだし、目も……無い。
 酷いのは、ここに彼女らを置いたのは人間だということ。

 無い手足の断面には綺麗ではないものの人の手による縫合跡があるし、ゴブリンでは舌を抜いた後の処置なんて出来ないはずだ。

「クソが……」

 セナは手に持っていた武器の石を握りつぶした。
というか、セナにはそんな石を持っていた自覚も無かった。

 だから、

「死ねよ……クソ害虫」
『ぎゃぎぉ!?ぎゃぎぎぎぃ!!』

 万力のような握力が、ゴブリンの頭を潰していく。
ゴブリン達のステータスを奪っては、水風船のようにブチャブチャと潰していく。

 だから、この【巣】が壊滅するのに1時間と掛からなかったし、壊滅した【巣】の中には、憐れな3人の女と、ステータス【700】を超えた化け物だけがいた。

◇◆◇


「これ、ゴブリンの耳。」
「……いったい、なんでこんな大量に……?」

 昨日のカスとは違う受付嬢が、困惑した顔でそう言ってくる。

「どうでもいいだろ。スライムの皮と核も買い取ってくれ。」
「わ、分かりました。」

前任者よりはまともらしい受付嬢が、テキパキと書類を処理してくれる。

 セナはそれを見ながら、椅子に座って今後のことについて考える。

瞬間、何かに椅子を引っ張られ、セナは後ろに転がる。

「セナ~、お前どうやってあんなにゴブリンを倒してきたんだ~?」
「もしかして、ゴブリンの耳だけを取ってきたんじゃないだろうな~!」

 見上げた先には、あの受付嬢の取り巻きが二人、強面でガタイのいいクソな顔で見下ろしてきている。

「……【コロニー】を見つけたんだよ。」
「……はぁ!!?おま、それ、なんで!?」
「偶然だよ。そこで、偶然いっぱいゴブリンが死んでたんだ。」
「……ケッ、そうかよ。お前みたいな雑魚が生きて帰って来たから、明日は雪だな。」

 そう言って男の1人がセナの顔を踏みつける。
頭の痛みに耐えながら、セナは足を掴みどける。

「掴むんじゃ……ぇ……?」

 威勢の良かった男がバタンと倒れた事に周りがどよめく。
男は死んだ。厳密にはミジンコレベルにステータスを吸われた結果、足を掴まれた握力で死んだ。

「な、なにしやがった!!?」
「別に……」
「くそがぁ!!」

 もう1人の男が殴りかかってくる。
セナはその拳に自分の手を添えて、ステータスを奪う。

 それだけで、男は殴った際の関節の軋みで死ぬ。

ここには、謎の理由で死んだ男が2人、転がってしまう。

「換金まだ?」
「え、え?え?あ、えっと、5万6千エルになります。」
「ありがとう。」

 硬貨の入ったズダ袋を受け取って、ギルドを後にする。

こんな所に長居はしたくなかった。
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