上 下
3 / 80

第三話

しおりを挟む
「ステータスは浮浪者達よりは高いな。やっぱ良いもの食ってたら勝手に強くなれるのかな。スキルも悪くない。『算術』『奉仕』『床技』『料理』に『火魔法』『水魔法』。クソ女だったが最期に役に立って良かったよ。」

 依頼書を見ているフリをしながら、自身のステータスを見る。
 ステータスが全て幼児以下になったあの女は、他人とぶつかったり、躓いて地面に手をついただけでも死ぬくらい弱くなっている。
 依頼書を受け取る時に手を重ねて奪い取った。

「手で触れるのが条件なのか……肉体が接触するのが条件か……検証は悪くないが、それよりも今は力だな。」

 手に持った依頼書、『ゴブリン10体の討伐』は良くあるもの。
 大半の冒険者はこういったゴブリンやスライム、オークやウルフなどの魔物を狩って金を得る。
 それぞれの魔物は部位ごとに値段があり、ゴブリンであれば内蔵や持っている棍棒、牙や耳が売れるし、ウルフなんかは毛皮の剥ぎ方次第で売れる値段が変わる。

 依頼書としてゴブリンを討伐する場合は、右耳が1匹分として数えられる。もちろん、右耳をただ10個売るよりは、依頼として受けて納品することで得る報酬の方が、少しだけ色が付いていて良い。

「ゴブリンはたしか、森を根城にすることが多いんだっけ。」

 郊外には基本平地がつづく。森は数十分歩いたところにある小さな林のようなものしか無い。
 しかし、そこではかなりの確率でゴブリンが群生している。
そこまで歩くのすら、今までのセナだと厳しかっただろう。

「スライムか……売れるのは外皮と核だけ。」

 ぽよんぽよんと跳ねるその水色は、雑魚の中の雑魚、以前のセナでもギリ勝てるような魔物スライム。
 外皮は皮袋に、核は魔法の触媒に使える割の良い魔物。
1匹いたら他に5匹くらいはいることでお馴染みの軟体生物。

「……フンッ!!」

武器を持ってないセナは、渾身の蹴りをスライムにお見舞いする。
 コアのコリッとした感覚が足に伝わるが、ダメージは無さそうだ。

「ホントに物理に強いみたいだな。んじゃ、さっき奪ったこれで。」

 手を前に出す。
いつか見た、幼馴染が手から出した光。
 それが、炎として出るようにイメージして。

「火球!」

 ボゥッと火が出る。
しかし、それだけ。
発射されない。

「え、これ、どうすんの?」

 数秒の硬直。
セナの背筋にひんやりと冷や汗が垂れる。

「……もういいや、これで殴ろう。」

 手のひらで燃える火を、スライムに押し付けるように叩きつける。
 水の中で火が燃えるという珍しい光景ながら、スライムは苦しそうだ。

 体内の水分が蒸発し尽くして、核と皮だけを残して死んだ。

それぞれ、かなりの火力で熱されたが、水の中だったのが幸い、焦げ目はつかなかったようだ。

「絶対間違ってるよなこのやり方。」

 そう思いながらも、セナの『火球』はどうやっても発射されず、腕ごと振って投球する必要があるのを知ったのは7匹目のスライムを倒した辺りだった。

◇◆◇

 スライムは攻撃してこない。
だから数体くらいなら簡単に倒せた。
 しかし、ゴブリンは違う。
明確な敵意を持って、確実に殺しにくる。

「げぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!」
「んぎぃぃぃ!!!んぎゃおおおおおお!!」

森に入ってすぐ、5匹のゴブリンと遭遇した。

「やっぱ、怖いな。」

セナの手は震えている。
 それは武者震いではない。恐怖から来る震え。
チート的な能力を持ったとしても、今までのトラウマが体を強張らせる。
 逃げたい、逃げたいと、心の奥底の自分が囁きかけてくる。

 思い出すのは、数ヶ月前。
濡れ衣を着せられたことで母国から逃げた時の道。
 あの時は、ウルフに襲われ、オークに殴られ、死ぬかと思った。ゴブリンから付けられた爪痕は、今でも腕に残っている。
 だが、今、生きている。

「俺は生きてる。だから!」

 震えを抑えるように、拳を固く握り締める。
震える足に力を入れて、ゴブリンを殴りつける。

「おおおおお!!!」

 ゴブリンの頬骨が砕ける感触がした。
自分の手の皮が捲れる感覚がした。

 それでも、2発、3発と殴りつける。

「死ね!死ね!死ねぇええええ!!ぶっ!?」

 ゴブリンを殴るのに気を取られていたセナは、他のゴブリンに棍棒で殴られた。
 殴っていたゴブリンは気絶しているらしいが、他のゴブリンは元気溌剌。仲間が死にかけているのも気に留めず、セナを殺すために近づいてくる。

「……ぁ」

 その死にかけのゴブリンの無様な姿が、セナには自分の姿に見えた。
 
「……ぁぁああ!!!『火球』!!!」

尻餅をついたまま投げる火の玉は、ピッチャーフライよりも軽い。
 しかし、ここは森で、ゴブリンの腰巻きや棍棒なんかも、燃える素材らしい。
 死に物狂いで投げつけた無数の『火球』は、ゴブリン達を火だるまにした。

「ぎぎゃぁぁぁあ!!!」
「ぎゃあっ!ぎゃあっ!ぎゃあっ!」

燃える体を叩いて、火を消そうと必死なゴブリン達。
腰巻きのや棍棒だけではなく、代表の油、不潔なゴブリンの体の垢や脂に飛び火して、全身を真っ黒に焦がす炎の完成。

 その場にいた気絶しているやつ以外のゴブリンは、火だるまになって死んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...