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第二話

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 セナは死体の山に腰をかけて考える。
どこで間違えたんだろう。いったい、自分の何が悪かったのか。

「いや、俺は悪くない。」

 セナは孤児だった。
孤児院で共に過ごした女の子と、結婚の約束までしていた。
 それを信じたから、その女の子が聖女として都会へ出て行っても、待ち続けて冒険者として出稼ぎをしていた。

 なのに、仲間の1人が人を殺したとかで、その罪をパーティのお荷物だったセナに着せた。
 
 スキルを覚えず、一緒にいてやたらと疲れる仲間なんて、こんな時の損切りにしか使えない。
 
 どうにか隣のこの国へ逃げたものの、生活費用も無ければ、冒険者として使える能力もない。
 知らないやつをパーティにいれる物好きもいない。
 
 浮浪者の中にセナの顔がいるようになったのは、それから数日だった。
 ゴミ箱や、民家の近くをうろつくことで残飯を探し、何が入ってるかわからない泥水を啜る。

 そんな生活をしていたセナに、1人の女が声をかけてきた。

「今考えたら、あの時点で怪しいよな。」

女は、奴隷商へ浮浪者の子供を卸売りしていた。
 容姿が良い子供を手に入れて、身なりを整えて多少の知恵をつけさせる。
 それだけで、それなりの金が稼げる。
 身綺麗にする金や食費を含めても大黒字になる程には儲かっていた。

 だが、殺した。
 セナは、いくつもの不運不幸で心を削られ、砕かれ、ささくれてしまった。
 結果として、セナの中に眠っていた才能達が開花した。
~~~
『究極的暴君』対象のスキル、ステータス、属性適正など、全てを奪い取る。
『最終的帝王』自身のスキル、ステータス、属性適正などを他者に付与する。
『永久的君主』周囲の人間が潜在的な才能に目覚めやすい。
『圧倒的覇王』????????????
『惑星的××』この世界の主人公。
~~~
 セナは『究極的暴君』の能力でその女の力を奪い、浮浪者どもの力を奪った。

「知ってる奴がゼロなのは、ありがたいな。」

 今まで、スキルを覚えられなかったわけじゃなかった。
覚えたスキルを、片っ端から他人に分けていたからこうなった。
 周りの奴らは、グングン成長するのに、セナだけは成長できなかった。

 けど、それはセナの【固有スキル】が暴走していた結果だった。

だからこれからは、

「他のやつなんてどうでもいい。みんな死ねばいい。みんな俺が奪い取って殺してやる。世界全部、ぶっ壊す。」

「けど、そう簡単にはいかないよな。」

 セナの力は凄い。しかし、まだ大きく動けるような時じゃない。
 十数人のステータスを奪ったものの、セナのステータス評定は【150】が限度。冒険者で言えば、下から3番目のDくらい。平均よりやや強くなった程度。
 『究極的暴君』の効果は触れることでしか発動できない可能性がある。
 だから、B以上のランクの冒険者、ステータス評定が【300】を超えてる人間と敵対すれば、負けるのは必至。

「金もちょっとは手に入ったし、一旦冒険者に戻るか。」

 セナは冷静ではない。
だが、冷静な面もある。
 壊れた心が、主観的に怒る自分と、客観的に冷静な2人の自分を見ているだけ。
 だから、

「冒険者しながら、隙を見て奪い殺してやる。」

どちらにせよ狂った発想からは抜け出せない。


◇◆◇


「いらっしゃいませ~」

 やる気のない女性の声。冒険者ギルドの受付嬢。
治安の悪いこの街で、マトモな人間が働いているわけもなく。
 
「あれ~?セナちゃんだ~。まだ生きてたのぉ~?」

 決して不細工ではないものの、性格の悪さが顔に出てるタイプらしい。
 猫背で見上げながら見下すような目をした、セナとしては生理的に受け付けない女だ。

「ええ、お世話様です。」
「セナちゃ~ん。まだ除草の依頼はないよ~?」
「いえ、今日は討伐の方を受けようと思って。」
「……はぁ?」

 セナがここに来た当初は、家庭の庭掃除や除草、清掃活動などをして金を得ていたのだが、一度この受付嬢に『お誘い』を受けた時に断ったがため、未だ新たな依頼はどこかで止まって表に出ていない。
 もう一つ上のランクである『薬草拾い』等もセナくらいの冒険者は受けるのだが、戦闘力の無い今までのセナは郊外で魔物と遭遇する危険がある依頼は受けられなかった。
 その結果が死にかけた小一時間前だったのだから、この受付嬢も復讐対象だ。

「募集をかけてるパーティとか、ないけど。」
「1人で行きますよ。」
「……死にに行くつもり?あんた程度に討伐行かせて死なれたら、ウチの沽券に関わるんだけど。」
「……絶対に生きて帰りますよ。そうですね、この前の『お誘い』、生きて帰ったらお受けしますよ。」

 死ぬことを前提にしている場合、この約束は挑発的だ。
暗に『お前の誘いなんて受けるかクソビッチ』と、『お前を抱くくらいなら死んでやるカス売女』と言われているようなもの。
 だが、もしも生きて帰ってきたら、この純朴そうな幼顔を凌辱できるとも考える。
 憤りと情欲で思考が鈍る。

「……分かった。約束覚えてなよ。」
「ありがとうございます。」

『ゴブリン10体の討伐』の依頼書を受け取り、ギルドを後にする。

 周りの人間も、その受付嬢も、セナの手が淡く光ったのには気付かなかった。
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