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18話 面接は第一印象で七割が決められる

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 土曜日は間を置いて、日曜日。
 そろそろこのルーチンにも慣れてきたな、と身支度を整えた誠は、自宅を出て香美屋へ向かう。

 今日は新しいアルバイトが面接に来る日だ。

 一昨日、金曜日の勤務の途中で、マスターが電話に出ると、少し話し込んでいた。言葉の端々から、アルバイトの面接がどうのこうのと聞き取れ、日曜日の九時頃に面接に来ると連絡を受けたのだ。



 香美屋の開店十五分前頃に到着した誠は、開店前にマスターからの連絡事項を再度受けていた。

「今日面接に来る新しい子、九時頃になるから、面接中にオーダーが入ったら呼んでほしい。さすが君一人に任せっきりには出来ないからね」

「分かりました」

 面接が九時頃となると、常連客がちらほらと来る時間帯でもあるが、その辺りは面接中に見学も兼ねているのだろう。
 誠が香美屋で面接を受けた時も、オーダー片手間の面接だったのだ、ほんの少し、誤差の範囲程度で注文が遅れるぐらいか。

 八時ちょうど――開店時刻になるが、最初のお客である凪紗は来ない。

「(まぁ、大事を取って休んでるんだろうな)」

 一昨日は恐らく欠席し、昨日もゆっくり休んだのかもしれないが、病み上がりにコーヒーは身体に良くないのもあるだろう。
 まぁ明日以降から来るだろうなと思いつつ、来客を待ちながら昼のピークに備えた料理の仕込みを手伝う誠。



 何人かの常連客が来て、店内も少し賑やかになってきたところで、時刻は九時少し前頃。
 そろそろ新しいアルバイトが面接に来る頃合いだろう。

「(どんな人だろうな……)」

 期待もあるが、ちゃんと息を合わせて仕事が出来るだろうか、と言う不安もある。

 するとドアベルが鳴らされ、誠は反射的に「いらっしゃいませ」と挨拶しながら来店客の姿を見やる。



 入って来たのは、ふわふわしてそうな明るいベージュ色の髪の少女。
 小柄な方である早苗よりももう一回り小柄、中学生くらいにしか見えない。
 そんな少女が朝から一人で喫茶店に来るとなれば。

「あの……面接に来ました、『新條 結依しんじょう ゆい)』です」

 やはりと言うべきか、彼女が例の新しいアルバイトのようだ。
 緊張しているのか、少しおどおどしている。

「あ、面接の方ですね」

 少し待ってください、と誠はカウンターの奥の部屋に顔を出して、

「マスター、面接の方です」

「おぉ、来たか。その子、こっちに呼んでもらえる?」

「はい」

 指示に従い、少女――結依をカウンターの奥の部屋に招き入れる。 
 面接をしている間、誠は店番だ。

「今の、新しいバイトの子か?」

 常連客の中でも年配の男性客が、誠に話しかけてきた。

「はい。一昨日に面接受けるって連絡があったみたいです」

「へぇ、若い女の子が増えると、華やかになるなぁ」

 この香美屋は、確かに若者が集まるような場所ではなく、中年期以降の客層が主だ。
 掃き溜めに鶴、と言うのは喩えが悪いものの、凪紗は香美屋にとっては数少ない(あるいは唯一の?)若い女性客だ。
 その凪紗だけでなく、結依がここで働くことになれば、より一層華やかに感じられるだろう。
 誠もまだ一目見ただけだが、結依は凪紗とはまた違うタイプの可愛らしい美少女と言ってもいい。
 しかし、

「それが噂になって、変な客が寄って来るようになるのは困りますけどね」

 誠がそう答えたように、美少女目当てで香美屋に入り浸るような迷惑な客が現れないとも限らない。現に凪紗が粘着・ストーカー行為に遭ったのだから。

「そうだなぁ。そうならないように、椥辻君がちゃんと守ってやれよ!」

 わはは、と周囲の常連客からの暖かな笑い声に、誠は「まぁ、頑張ります」と苦笑しながら答える。

 それから十数分ほど時間が流れてから、カウンターの奥の部屋からマスターと結依が出てきた。
 結依の様子を見る限り、不採用になったわけでは無いようだが、端から見ただけでは分からない。
 すると、結依は誠に向き直ると、

「あの、これからよろしくお願いしますっ」

 ぶんっと大きく頭を下げた。

「え?あぁ、合格したのか。よろしくね、新條さん」

 何故頭を下げたのか一瞬分からなかった誠だが、これからここで一緒に働くことになるからだと思い当たり、会釈を返す。

「は、はいっ。では、失礼します!」

 パタパタと少し慌ただしそうに出入口の戸を潜っていく結依。
 それを見送ってから。

「新條ちゃんは、明日から周三くらいで来てくれるそうだよ」

 面接官役になっていたマスターは、昼のピークの仕込みを始めながらそう頷いた。

「ただね……」

「ただね?」

 どこか歯切れが悪そうなマスターに、誠はおうむ返しに訊き返す。

「あの子、以前にいくつかバイトをしてきたらしいんだけど、どこも人間関係が原因で長続きしなかったみたいでね。椥辻君にも、ちょっと苦労かけることになるかもしれない」

 人間関係で長続きしない、と言うのは然して珍しくもない話だ。
 一言に人間関係が原因と言っても、雇い主との反りが合わなかったから、同僚と付き合いきれない、あるいは顧客との問題もあるだろう。

「(ちょっと気弱そうだったし、本人の気質も要因の一つかもしれないな)」

 この香美屋の客層の目線でなら、多少の不慣れは笑って流してくれるだろうが、それも度が過ぎては迷惑になってしまいかねない。

「まぁ、長く続けられるように、可能な限りは俺も手を尽くしますけど」

 せめて自分は彼女に対して、働きやすい環境を作ってあげよう、と誠は結依と一緒に勤務に入る心構えを作っておくことにした。
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