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9話 友達以上、幼馴染み未満
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その後も、少しずつ増え始めた朝の常連客に挨拶をしつつ、マスターからの指示をよく聞きながら調理の補助や洗い物などをしていると、もう十一時頃――誠の勤務時間の終了時刻寸前だ。
「おっと、もうこんな時間か」
意外と早く過ぎたな、と時計を見上げるマスター。
「椥辻君、そろそろ時間だよ」
「はい、これだけやってから……」
誠は包丁を片手に、ハムやレタス、ゆで卵などの具材を丁寧に切り分け、耳を落とした食パンにバターとマヨネーズを塗り込み、手早く正確に挟み上げてみせる。
「マスター、ミックスサンド出来上がりました」
「おぉ、ありがとう」
この数時間で、誠は既に調理補助と言う役割を飛び越して、調理の半分近くを任せられていた。
普段の自炊で包丁などの調理器具の扱いは手慣れており、飲食店でのアルバイト経験もあって、サンドイッチ程度であれば、その店特有のこだわりさえ覚えてしまえば簡単に作れるのだ。
「いやー、椥辻君ならもう料理の方は一任させてもいいくらいだね」
「そんな大袈裟な。俺に作れるのは簡単なものだけですよ」
過大評価するマスターに、誠は手を洗いながら苦笑する。
手を洗ったあとは。
「じゃぁマスター、お疲れ様でした」
「うん、お疲れさん」
マスターだけでなく、常連客からも労いの挨拶をしてくれる。
いい店だなぁ、と呟きつつ、誠はカウンター奥の部屋に引っ込む。
香美屋での勤務を終えた後、誠はその足でセンター街の百円ショップに赴いていた。
普段は雑貨類も含めてスーパーで事足りるのだが、使い勝手の良い消耗品などはこちらで買い求めることが多いのだ。
百円均一なので多少の当たり外れはあるものの、概ねは品質も良く、種類は少ないながら近年ではコンビニでも購入可能になりつつあるが、目当て以外の商品を買うこともあるため、やはりショップに直接来店する方が良いと言えば良い。
そんな誠が何を買うのかと言えば、大容量タイプのフローリングウェットシートだ。お得な三十枚入り。
買い物かごにそれをひとつ入れて、あとは何か買うべきものはあっただろうかと、店内の品揃えを眺めつつ、掃除や台所関連の商品をいくつか取りながら歩いていると、
「あ、椥辻くん」
ふと向かい合う形で、早苗と目が合った。
「っと、一ノ瀬さん。こんにちは」
「うんうん、こんにちはだね」
互いにお昼の挨拶を交わして。
「椥辻くんって、確か今日も岡崎くんの叔父さんの喫茶店でバイトだったよね?もう終わったの?」
「うん、八時から三時間ほどね」
「そっか、お疲れ様」
向かい合う形から、隣に並んで。
「一ノ瀬さんは?」
「わたしは普通に買い物だよ」
ほらこれ、と買い物かごを見せる早苗。その中には、"ちいさくてかわいい"キャラグッズがいくつも入っている。
「椥辻君のは……」
早苗の視線が誠の籠に向けられると、
「わぁ、休日の主夫さんだ」
掃除、台所用品ばかりのそれをそう評した。
「こう言う消耗品は、百均で買った方がコスパいいんだよ」
「発言がもう既に主夫さんだね」
おかしそうに笑う早苗だった。
買い物を終えて。
「椥辻くんは、帰ってからお昼ごはん食べる感じ?」
「そうするつもりだったけど、けっこう時間経ったし、どこかで簡単に済ませようかなって。一ノ瀬さんは?」
百円ショップで早苗とお喋りしながら買い物をしていたので、思いの外時間が過ぎており、今から帰宅して昼食を作り始めては遅くなる。
「あ、じゃぁ一緒に食べよ?わたしもお昼は外で食べるつもりだったから」
「よし、どこで食べる?一ノ瀬さんの好きなところでいいよ」
「マケドにしよっか。ちょうどすぐそこにあるし」
早苗の希望によって、バーガーショップで昼食を済ませることなった。
お互い好きなメニューを選んで、混雑する中でどうにか二人席を確保。
「喫茶店のバイトはどう?」
ポテトをつまみながら、早苗は誠の近況について訊ねる。
「順調かな。コーヒーの淹れ方とかはまだ勉強中だけど、料理とかならある程度は任せてもらってる」
コーヒーに関する話題をする中でホットコーヒーを啜る誠。
「さっすが、女子力フルスペック男子は違うね」
「女子力の高さを褒められても、男としては微妙に複雑だな……」
「出来ないよりは出来る方がいいに決まってるよ」
「それはまぁ、一人暮らしするにあたって必要に迫られたと言うか」
いくら親からの仕送りがあるとは言え、いくら自分の稼ぎがあるとは言え、決して衝動的に使っていいものではないし、食費に関しては特にそれが顕著だ。
「けど、必要に迫られたからってそこまで出来るようになるのも、すごいと思うよ」
「今までやったことの無いことをしてみたら、思いの外性に合ってたって話だよ」
誠自身も、最初は出費を抑えると言う理由で半ば自分を戒めるように始めた料理だが、炊事が出来ると言うのは飲食系のアルバイトでも優遇されると言うの大きく、なにより性分に合っていた。
いかに安く、いかに美味しくするか、今となっては料理が趣味のひとつとさえ言えるくらいだ。
その倹約志向が、料理から他の物事に向けられるのはそう時間が必要なことでは無く、食品のみならず生活雑貨のお買い得セールの動きもつぶさに見るようになった。
また、当たり外れの激しい百円ショップで"当たり"の商品を探し当てるのも楽しみのひとつだったりする。
もう少し他愛もない話を続けていると。
「話変わるんだけどさ、もうすぐ文化祭だよね」
「あぁ、そう言えばもうそんな時期か。次のロングホームルームで出し物決めるんだっけ」
翠乃愛学園の文化祭は、毎年十月の末頃に開催される。ついこの間に中間考査が終わったところなので、あと二週間ほどだ。
「ウチのクラスの出し物、どうなるかなぁ」
「どうなるんだろうなぁ」
早苗も誠も、自分が積極的に出し物について意見しようとは思っておらず、流れに任せている。
まぁ無難な出し物で、まぁ無難に終わるだろう、と思っていた二人だったが――
「おっと、もうこんな時間か」
意外と早く過ぎたな、と時計を見上げるマスター。
「椥辻君、そろそろ時間だよ」
「はい、これだけやってから……」
誠は包丁を片手に、ハムやレタス、ゆで卵などの具材を丁寧に切り分け、耳を落とした食パンにバターとマヨネーズを塗り込み、手早く正確に挟み上げてみせる。
「マスター、ミックスサンド出来上がりました」
「おぉ、ありがとう」
この数時間で、誠は既に調理補助と言う役割を飛び越して、調理の半分近くを任せられていた。
普段の自炊で包丁などの調理器具の扱いは手慣れており、飲食店でのアルバイト経験もあって、サンドイッチ程度であれば、その店特有のこだわりさえ覚えてしまえば簡単に作れるのだ。
「いやー、椥辻君ならもう料理の方は一任させてもいいくらいだね」
「そんな大袈裟な。俺に作れるのは簡単なものだけですよ」
過大評価するマスターに、誠は手を洗いながら苦笑する。
手を洗ったあとは。
「じゃぁマスター、お疲れ様でした」
「うん、お疲れさん」
マスターだけでなく、常連客からも労いの挨拶をしてくれる。
いい店だなぁ、と呟きつつ、誠はカウンター奥の部屋に引っ込む。
香美屋での勤務を終えた後、誠はその足でセンター街の百円ショップに赴いていた。
普段は雑貨類も含めてスーパーで事足りるのだが、使い勝手の良い消耗品などはこちらで買い求めることが多いのだ。
百円均一なので多少の当たり外れはあるものの、概ねは品質も良く、種類は少ないながら近年ではコンビニでも購入可能になりつつあるが、目当て以外の商品を買うこともあるため、やはりショップに直接来店する方が良いと言えば良い。
そんな誠が何を買うのかと言えば、大容量タイプのフローリングウェットシートだ。お得な三十枚入り。
買い物かごにそれをひとつ入れて、あとは何か買うべきものはあっただろうかと、店内の品揃えを眺めつつ、掃除や台所関連の商品をいくつか取りながら歩いていると、
「あ、椥辻くん」
ふと向かい合う形で、早苗と目が合った。
「っと、一ノ瀬さん。こんにちは」
「うんうん、こんにちはだね」
互いにお昼の挨拶を交わして。
「椥辻くんって、確か今日も岡崎くんの叔父さんの喫茶店でバイトだったよね?もう終わったの?」
「うん、八時から三時間ほどね」
「そっか、お疲れ様」
向かい合う形から、隣に並んで。
「一ノ瀬さんは?」
「わたしは普通に買い物だよ」
ほらこれ、と買い物かごを見せる早苗。その中には、"ちいさくてかわいい"キャラグッズがいくつも入っている。
「椥辻君のは……」
早苗の視線が誠の籠に向けられると、
「わぁ、休日の主夫さんだ」
掃除、台所用品ばかりのそれをそう評した。
「こう言う消耗品は、百均で買った方がコスパいいんだよ」
「発言がもう既に主夫さんだね」
おかしそうに笑う早苗だった。
買い物を終えて。
「椥辻くんは、帰ってからお昼ごはん食べる感じ?」
「そうするつもりだったけど、けっこう時間経ったし、どこかで簡単に済ませようかなって。一ノ瀬さんは?」
百円ショップで早苗とお喋りしながら買い物をしていたので、思いの外時間が過ぎており、今から帰宅して昼食を作り始めては遅くなる。
「あ、じゃぁ一緒に食べよ?わたしもお昼は外で食べるつもりだったから」
「よし、どこで食べる?一ノ瀬さんの好きなところでいいよ」
「マケドにしよっか。ちょうどすぐそこにあるし」
早苗の希望によって、バーガーショップで昼食を済ませることなった。
お互い好きなメニューを選んで、混雑する中でどうにか二人席を確保。
「喫茶店のバイトはどう?」
ポテトをつまみながら、早苗は誠の近況について訊ねる。
「順調かな。コーヒーの淹れ方とかはまだ勉強中だけど、料理とかならある程度は任せてもらってる」
コーヒーに関する話題をする中でホットコーヒーを啜る誠。
「さっすが、女子力フルスペック男子は違うね」
「女子力の高さを褒められても、男としては微妙に複雑だな……」
「出来ないよりは出来る方がいいに決まってるよ」
「それはまぁ、一人暮らしするにあたって必要に迫られたと言うか」
いくら親からの仕送りがあるとは言え、いくら自分の稼ぎがあるとは言え、決して衝動的に使っていいものではないし、食費に関しては特にそれが顕著だ。
「けど、必要に迫られたからってそこまで出来るようになるのも、すごいと思うよ」
「今までやったことの無いことをしてみたら、思いの外性に合ってたって話だよ」
誠自身も、最初は出費を抑えると言う理由で半ば自分を戒めるように始めた料理だが、炊事が出来ると言うのは飲食系のアルバイトでも優遇されると言うの大きく、なにより性分に合っていた。
いかに安く、いかに美味しくするか、今となっては料理が趣味のひとつとさえ言えるくらいだ。
その倹約志向が、料理から他の物事に向けられるのはそう時間が必要なことでは無く、食品のみならず生活雑貨のお買い得セールの動きもつぶさに見るようになった。
また、当たり外れの激しい百円ショップで"当たり"の商品を探し当てるのも楽しみのひとつだったりする。
もう少し他愛もない話を続けていると。
「話変わるんだけどさ、もうすぐ文化祭だよね」
「あぁ、そう言えばもうそんな時期か。次のロングホームルームで出し物決めるんだっけ」
翠乃愛学園の文化祭は、毎年十月の末頃に開催される。ついこの間に中間考査が終わったところなので、あと二週間ほどだ。
「ウチのクラスの出し物、どうなるかなぁ」
「どうなるんだろうなぁ」
早苗も誠も、自分が積極的に出し物について意見しようとは思っておらず、流れに任せている。
まぁ無難な出し物で、まぁ無難に終わるだろう、と思っていた二人だったが――
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