上 下
156 / 159
約束の未来へ

153話 ありがとう

しおりを挟む
『ふふ……何にせよ、あなた達のおかげで我が神子は邪悪を討ち祓う力を得たのです。これで、我が本懐は成し遂げられます』

 アプロディテの言う"本懐"。
 それを聞いてアロウはハッとなった。

「崩壊した異世界を巡る戦いの旅……」

「その通りだ、アロウ」

 フェルテは頷いて彼に視線を向ける。

「我と創造主は、これより崩壊した異世界に跋扈する数多の転生者を討ち、その力を創造主に返還する旅に出る」

 アロウだけではない、ルナ、凍結から抜け出したカノラ、アトラスを支えるメイプルとジルダにも目を向け、

「おぉ、カインとオーディン。汝らも来てくれたのか」

 アロウ達が入ってきた通路から、ひどく消耗したカインとオーディンが駆け寄ってきた。

「ふむ、どうやら我々の出る幕は無いか」

「だな」

 状況を見て、戦いは既に終わったのだろうとカインとオーディンは判断した。

「……今度こそ、本当にお別れなんだな」

 お別れ会は済ませ、いい思い出だったと心に残すことは出来たはずだが、心のどこかではまた会えるのではないかと思っていた。
 けれど、フェルテはNPCなどではない一個の"生命"だった。
 そして、創造神アプロディテの姿をこの目で確かめ、これから悠久の戦いの旅へ赴く――もう二度と会えないのだと思い知る。

「そんな顔をするな、アロウ」

 困ったように、フェルテは苦笑する。

 ――いつの間に、そんな表情が出せるようになっていた――

 次にルナに目を向ける。

「ルナ。最初に出会ったあの時、敵だと誤解してすまなかったな」

「い、いえ、私もフェルテさんが敵だと思っていましたし」

 ルナはノヴィス平原の山頂部で、フェルテと、そしてアロウとカノラとも出会ったことを思い出す。
 次に、カノラ。

「カノラ。汝の暖かさと優しさに、我も随分と救われたものだ。礼を言わせてくれ」

「わわっ、わたしは何もしてないよ。フェルテちゃんのために何が出来るかって必死だったから」

 出会った当初、ルナはフェルテに少なからず懐疑的な感情を抱いていたが、カノラは戸惑いながらも歩み寄ろうとしたのだ。
 次に、メイプル。

「メイプル。何者も怯まずに立ち向かうその姿に、我は何度も勇気付けられた。これからもその強さを見習わせてくれ」

「えぇ?そりゃちょっと褒め過ぎだって、ボク照れちゃうよ」

 モンスターやガーディアンとの戦いでも常に先陣を切るメイプルを見てきたからこそ、フェルテもその姿勢に充てられた。
 次に、ジルダ。

「ジルダ。最初は"あぁ"だったが、今ではその力は無くてはならないものだった。感謝する」

「まぁ、麻痺された上に拉致されたような、最悪な出会いだったものねぇ」

 マリーネ孤島でのいざこざがジルダとのファーストコンタクトだったが、徐々にフェルテもジルダの実力と落ち着きを信頼していった。

 最後に、アロウ。

「アロウ。……うむ、上手く言葉に出来ぬな」

 フェルテは目を閉じて、そっと自分の手を胸に当てる。

「汝の、"力"、"智"、"勇"……いいや、これだけでは足りぬ。もっと大事な、暖かな何かを、汝から感じていた。だが、我にはそれが何か分からぬ」

「……フェルテ」

「だがこれだけは言える。汝と出会えなければ、今の我はいなかった。それほど、我にとって汝は大切な存在だ」

 目を開き、毅然として向き直る。



「だからアロウ――



 いつも「感謝する」や「礼を言う」としか言わなかったフェルテから、初めてその五文字が出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...