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羽ばたきの時

116話 急転

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 スタン状態から回復したアロウは、目を開けた自分の視界の一部が、紅色に染まっていることを認識する。

「あ、気が付いたみたいです」

 紅色というのは、ルナの髪の色だった。
 彼女がアロウの顔を覗き込んでいた。

「ん……あ、あれっ、決闘、アトラスさんは、俺、あれ!?」

 がばっと跳ね起きて、アロウは慌てて周囲を見回す。
 その周囲には、カノラ、メイプル、ジルダ、フェルテも囲っていてくれた。

「えっとね、アロウくんが途中で気絶しちゃったから、あの人……アトラスさんが、運んできてくれたの」

 カノラが、ここに至るまでの過程を説明してくれる。

「気絶……そうか、あのランチャーの爆発を喰らって、それで」

 アトラスの袖口辺りから、ミサイルかグレネードを直撃したことはアロウも覚えていた。
 気絶してしまった以上は、負けたと言うことだろう。

「あの人が言ってたよ。「御礼参りならいつでも受けてやる」って。勝負には負けたけど、唸らせるくらいは出来たと思うよ」

 善戦出来たのだとメイプルは言う。

「あー、接近戦で一撃は与えられたけど、そこまでだったからなぁ……」

 ヘッドスライディングしながら起き上がり様の一撃だ、奇襲には成功したものの、体勢の問題からそこからすぐに追撃に移れなかったのだ。

「ま、ランク差があった割にはよくやった方じゃない?」

 ジルダは褒めも嘲りもしない、ただ忌憚のない感想をこぼす。

「敗北は敗北だが、彼奴から学んだこともあろう。それを力として受け入れれば、"勇"の試練も戦い抜けるだろう」

 フェルテはもう既にこれから先のことに目を向けている。
 イグニート火山のどこかにある遺跡、そこで待ち受けているだろう、最後のガーディアン。

「そうだな……よしっ」

 体力は消耗しているが、アロウは勢いよく立ち上がる。
 まずは酒場に帰還して、減った体力を元に戻さなければ。
 コンソールを打ち込んで、アロウ達は帰還していく。



 酒場に帰還して、それじゃぁ残念会でもやろうかとアロウが提案しようとしていた時。
 酒場の空気は、どこか浮足立っていた。
 一体どうしたのかと言えば、ある一人のプレイヤーの存在がその要因のようだった。

 青い髪を短く束ねた、カインよりも実直そうな風貌を持つその青年。

「あの人は……ナンバー2の、オーディンさん」

 アロウがそう言ったのが聞こえたのか、そのプレイヤー――オーディンは彼に向き直ると、歩み寄ってくる。

「初めましてだな。確か、アロウだったか?」

「えっ、どうして俺のことを?」

 ワールドランク2位に立つほどの、英雄とも言えるプレイヤーから名前を知られていることに、アロウは動揺する。彼の後ろにいるルナ達も何故かと顔を見合わせている。

「リック……いや、カインとは会ったことがあるだろう。あいつから話を聞いていただけだ」

 リックのことを引き合いに出してか、オーディンは苦笑する。

「おっとすまない、俺はオーディンと言う者だ」

「あっ、えぇと、俺はアロウですっ」

 アロウはすぐに身持ちを固くして頭を下げる。

「立ち話もなんだ、まずは席にでも着くか」

 オーディンは予約させていた空席を指す。どうやら最初からアロウ達に会う予定だったようだ。

 席につく七人。

「それで、私達に何かご用でしょうか?」

 最初に、ルナが小さく挙手した。
 用もないのに、ただの一パーティである自分達に、オーディンほどのプレイヤーが声をかけたりはしないだろう。
 そのオーディンは、早速本題を切り出してきた。

「君達が今攻略しているだろう、非公開のストーリーイベント……その攻略に、俺を同行させてほしい」
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