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羽ばたきの時

113話 意地がある

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 アロウとアトラスとの決闘が始まって、三分頃が経過した。
 ルナ達五人は離れた位置から、鎬を削り合う二人を見守る。

「Aランカーを相手に、よく持ちこたえるわね」

 最初に口を開いたのはジルダだった。
 アロウがCランクであるに対してアトラスはAランク。
 単純なランクが実力の決定的差ではないにしろ、大きな目安に変わりはない。
 ランクが高いということは、それだけ困難なクエストを踏破してきたという証でもあるのだから。

「接近戦じゃ話にならないし、かといって引き撃ちしても、あの装甲じゃ簡単に倒しきれない。ただ重いだけならともかく、あのマギアアームドは多少強引でも推力を強化して機動性を補ってる。自分の制御力に自信が無きゃ出来ないカスタムよ、あれは」

 重い装甲を飛ばすためにスラスターを増設したりすることで補う。
 単純に思えるが、何かを増設するということは、それだけで全備重量が増え、制御が煩雑になるのだ。
 アトラスのマギアアームドは、オーガやサイクロプスと言った重量級のもので揃えられているが、それを支えるためのスラスターの扱いも巧みだ。

 メイプルも、やや防戦気味なアロウを見やる。

「アロウに勝ち目があるとしたら、相手にスラスターを使わせまくって、オーバーヒートを誘発させることだね。あれだけ重い装甲なんだ、スラスターだって長くは保たないはずだし」

 攻守共に隙のないアトラスのマギアアームドだが、アロウが勝っている点と言えば、空戦タイプ故のスピードとスラスターゲージの長さだろう。

「ですけど、相手も自分のマギアアームドの欠点は熟知しているでしょうし、オーバーヒートを誘発させる、なんて簡単なことでは無いですよ?」

 ルナがそう指摘をする。
 重装備には重装備なりの欠点があるのは当然だが、第三者が見てもそう判断出来るのだ、その使い手であるアトラスに欠点が分からないはずがない。

「あっ」

 不意にカノラが声を上げた。
 直後、吹き飛ばされたのだろうアロウが、カノラの目の前で地面に叩き付けられ、土煙を上げる。

「はぁっ、はぁっ、くっ、そぉっ……!」

 片膝を着きながらも、アロウはエナジーライフルとプラズマソードを握り直して立ち上がる。

「アロウくんっ」

 カノラは、アロウに強化魔法を掛けようとクリスタルロッドを抜き、

「待ってくれカノラさん」

 プラズマソードを握ったままの左手で、それを制止させるアロウ。
 眼前に見据えるのは、雄々しくブレイクパルチザンを構えて待つアトラス。
 
「これは……この勝負は、俺が自分で戦うって決めたんだ……ッ!」

「で、でもっ」



 毅然としてカノラの援護を拒否する。
 これは一対一の勝負だから、誰かの援護を受けることは"ズル"をすることになる、と。
 アロウはそれ以上仲間達に目を向けず、地面を蹴りながら再びアトラスへ突撃する。

「アロウの言う通りだ、カノラ」

 フェルテがカノラを引き留める。

「今の奴は"戦士"。戦士と戦士の戦いに、水を差してはならぬ


 光刃と十字槍を打ち付け合い、火花とスパークが激しい前衛芸術を生み出す。

「(男と男の勝負に、"ズル"はいらない、か……くぅーっ、あぁ言うの、グッと来ちゃう!)」

 同じ戦士としての共感か、そうでない別の感情か、メイプルは我知らず心を昂らせていた。
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