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勇気ある者達

83話 人質

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 マリーネ孤島北部の森林地帯。
 フェルテは、その木々の幹に縛り付けられていた。
 その彼女の周囲を囲むようにいるのは、三人の男性プレイヤー。
 加えて、フェルテを拘束してここまで連れ去ってきた女性プレイヤーが一人。

「よくやった、『ジルダ』」

「……」

 リーダー格の男から、ジルダと呼ばれた女性は是正すらせず、ただ沈黙するのみ。

「まぁ、安心するにはまだ早いか。これから、こいつの仲間が追いかけて来る。しっかりやれよ」

「……」

 返事はせずに無言のまま、追いかけて来るだろうプレイヤー達の迎撃準備を整える。

「……貴様ら、我をどうするつもりだ」

 フェルテは、周囲にいるプレイヤー達に威嚇するように発する。
 それに、リーダーが反応する。

「お前、非公開のストーリーイベントに出てくるNPCなんだろう?なーに、ちょいとお前のお仲間と交渉するだけだ」

「交渉?フン、貴様らのような下郎風情に、どんな交渉が出来る」

 不意に、リーダーが持っていたライフルの銃口が、フェルテの額に突き付けられる。

「お前は黙っとけばいい」

「ほぅ、我を殺すか?我を殺せばその"いべんと"とやらは終わってしまうのではないか?」

「……」

「それに、我を交渉の材料にするのだろう?その我が拒否すれば、交渉は全てが泡になるぞ?我に拒否されたくなければ、下手なことは控えよ」

 もはやどっちが人質なのか。
 この状況でさえ、フェルテは自分がどのような存在に見られているかを自覚し、それすらも利用する。

「ちっ、口先だけは偉そうなガキだ」

 とはいえこの後の事を考えると、フェルテを下手に刺激しない方がいいことは、この男にも理解出来た。

 そうこうしている内に、海岸の方から人影が近づいて来る。

「フェルテ!大丈夫か!?」

「フェルテちゃん!」

 現れたのはアロウとカノラの二人。しかし、ルナとメイプルはこの場にいない。

「おぉ、アロウにカノラ。我は大事ない。落ち着いた行動を心掛けよ」

 アロウ達が助けに来るだろうことはフェルテも信じてはいたが、些か落ち着き過ぎているようにも見える。

 その前に、ジルダが立ち塞がり、左腕と一体化したような大型の火器を向けてくる。
 六本のシリンダーを束ねたような砲身に、六つの砲門が円形状に並ぶそれは、ガトリングガンか。

「動くな。動けば撃つ」

「っ……!」

 ジルダにガトリングガンを向けられ、アロウとカノラはそこで足を止めた。

「よーし、そのまま動くなよ。早速交渉といこうじゃねぇか」

 リーダーはジルダの一歩後ろに付くと、アロウに向き直る。  

「何が交渉だ。武器を向けて動くなって、ただの脅迫じゃないか!」

 アロウの言葉を受け流し、リーダーはフェルテに目を向ける。

「お前ら、このNPCのストーリーイベントをやってるんだろう?そのイベント、俺らに譲れ」

「何を……」

 アロウが何か言うよりも先に、リーダーはコンソールを呼び出して、その画面を見せる。

「金はこんなもんだ。悪くねぇ額だと思うんだが?」

 つまりそれは、フェルテを売れということだ。
 確かにそれは高額のビットで、アロウ達にとってはまさに大金だ。
 だが、大金を積まれたぐらいで目が眩むアロウではない。

「そんなもので納得するか!今すぐフェルテを返せ!」

「おいおい、相場も分からねぇガキンチョか?こっちはこれでもだいぶ譲歩してる方なんだが?」

「そっちの譲歩なんか知らないね、返せと言ったら返せ」

「そうか、あくまで話を聞く気はねぇか。なら、死ね!」

 リーダーは目配せすると、ジルダはガトリングガンの砲口をアロウに向けた。
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