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勇気ある者達

75話 平穏と不穏

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「へぇー、そういうことがあったの」

 後日。
 メイプルの方でも中間考査が終わり、久しぶりにアロウ達ブレイヴスが勢揃いというところで、メイプルがそう言った。

「何ていうか、異世界転生の裏の事情を設定に組み込む辺り、それっぽいような、そうでないような、だね……」

 反応に困っているのか、カノラは半笑いだ。

 リックカインと同行したオークの討伐クエストをクリアしたその日の出来事を、カノラとメイプルにも話したアロウとルナ。

「でもまぁ、カインさんの実力を目の当たりに出来たから、すごい経験になった気がするよ」

 今でもハッキリ思い出せる、とアロウは頷いている。
 空戦タイプの特性を最大限活かした空中機動に、複数の目標を同時に狙い撃つ射撃技術。
 チャンピオンの名は伊達では無かった。

「俺もいつか、あんな風に戦えたら……」

「…………」

 カインの戦いぶりを自分に当てはめて想起するアロウの横顔を、ルナはじっと見つめていた、

「って、ルナさん?俺の顔がどうかした?」

「ぁっ、いえ、何でもありません」

 けど、と間を置いてから。

「カインさんのようになりたいってアロウさんの顔が、こう、眩しくて……」

「う、うん?褒められてるのか?ありがとう?」

 何だか二人して戸惑うような空気が流れる。

「(ルナちゃん……?)」

 カノラは、ルナのアロウに対する様子にどこか違和感を感じた。
 それは、まるで自分がアロウのことを見ているのと同じようで……

「で、さ。今日のクエスト、どうすんの?」

 話題を切り替えるように、メイプルは声を張る。

「あぁっ、そうですね。これからは水中メインのクエストもあるし、水陸両用タイプの装備を作ろうと思うんです」

 メイプルの声に我に返ったアロウは、ここから先をどうするかの意見を出す。
 Dランクのクエストをスムーズに進めるためには、水陸両用タイプの装備や水中戦に適した武器も必要になるだろう、ということを考えていたのだ。

「昨日に公式サイトで調べてたんですけど、このランク帯で作れる水陸両用タイプは……」



 大城下町。
 Aランク以上のプレイヤーが訪れることが出来る城下町で、その上位ランクのさらに特別な、SSランクのプレイヤーのみが入れる、王城のVIPルームに、カインとオーディンは盃を酌み交わしていた。

「それで、例の正体不明のプレイヤーについて、何か分かったのか?」

 開口一番、オーディンはカインにそう訊ねた。

「接触することは出来た。だが、NPCであるということも、電子の生命体であるということも、結局は分からず終いだったよ」

 グラスを傾けて、カインは小さく溜息をつく。

「彼ら曰く、「三つの儀式を行うために」、とのことらしい。その儀式を行うための、祭壇の間に待ち受けるガーディアンとも戦っていたらしい」

「三つの儀式?祭壇?ガーディアン?……おいおい、なんだその一昔前の王道RPGは。そんな古臭いストーリー、今時珍しいくらいだぞ?」

 オーディンは苦笑する。
 MAFがファンタジックな世界とはいえ、王道的過ぎないかと。

「古き良き、というものなのかもしれんな。シリーズ歴の長いRPGも、初期作品はそういった設定も多い」

 例えば、各地の神殿に赴いて封印を解いたり、あるいは精霊達と戦って力を示す、といったもの。

「まぁ、非公開のストーリーイベントと考えるにしても、本当らしい壮大な設定は必要なんだろうさ。……今のところは、経過観察中といったところか?」

「そうだな。それで……"そっち"はどうだ、オーディン」

 次はオーディンが報告する番だ。

「不自然なデータの破損が各所で確認された。運営に問い合わせてみたが、ハッキングや改竄といった形跡は一切無かったということらしい」

「……不可解だな、マリーネ孤島でもそういった現象は見られた」

「やはりそちらでもか。ただの偶然で片付けるには無理があるな。とはいえ、こっちもまだ調査を始めたばかりなんだ。そのフェルテと言うNPCも含めて、慎重にやるしかない」

「焦らずに行けということか」

「だな」

 二人だけのVIPルームに、不穏が見え隠れする会話だけが流れていた。
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