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勇気ある者達

71話 砕けた仮面の下には

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 尤も、噛み砕かれたところで体力がゼロになって拠点にリスポーンされるだけだが、巨大な生物に捕食される、などという アニメやドラマの中 (場合によっては現実にも有り得るが)の出来事を自分自身が擬似的にとはいえ体感することになるとは、ルナも思っていなかった。

 ――喰われる。

 その光景を想像し、ルナは抵抗をやめてしまった。
 推進力が止まり、クラーケンは遠慮なく獲物をいただこうと手繰り寄せ――

 不意に、ルナを締め付ける蛸足が半ばから断ち斬られた。

「(えっ……)」

 途端に開放されるルナ。
 彼女の視線の先にいたのは、鬼気迫る表情をしたアロウ。

 蛸足を切断されて怯むクラーケンには目もくれず、アロウはルナを抱きかかえると、フルスロットルで上昇していく。

 水面から飛び出し、陸地に到達した頃には、アロウのスラスターはオーバーヒートを起こしていた。

「大丈夫かっ、ルナさん!」

「ぁ、は、はぃ……」

 しかし安心している場合ではない。
 再びクラーケンが水面から現れ、アロウ目掛けて蛸足を振り下ろそうとしている。
 ルナの安否を最優先にしていたアロウは、それに対する反応が遅れていた。

「いかんっ、アロウ!」

 フェルテの注意喚起も間に合わない。
 ならばせめてルナだけは守ろうと、アロウは自分の身を盾にしようとするが、

 それよりも先に、駆け付けたリックがスラスターを用いた体当たりで二人とも突き飛ばし――リックは壁に叩き付けられた。

「リックさん!?」

 壁が砕かれ、砂煙が舞い上がる中、リックは悠然と立っていた。

「やれやれ、せっかくの"偽装"が台無しだ」

 やけに落ち着いたリックの声。
 すると、彼の黒くてゴツゴツした装甲が次々に剥がれ、その下から『純白の装甲』が現れる。
 背部の羽根飾りのようなものも外装が剥がれ落ち、『蒼い鋭翼』が姿を現す。

 そして、彼の目元を覆い隠す仮面もピシピシと亀裂が走り、割れた。

 その仮面の下から現れたのは、碧眼の美青年。

 アロウとルナは、その顔を知っていた。

「チャンピオン……カイン、さん……!?」

 リックがDランクのプレイヤーでないことは、アロウもルナも薄々と感じてはいたが、よもやまさかランキング一位のチャンピオンだったとは、全く想像していなかった。

「ふん、出し惜しみなどしおって。最初からそうしておけば良いものを」

 フェルテは特に驚くこともなく、『リックは出し惜しみをしていた』と簡潔に理解する。

「すまないね。だが、こうなっては形振り構ってはいられないな」

 蒼翼を広げ、リック――カインはクラーケンと対峙する。
 クラーケンは確実にカインを仕留めるべく、残る蛸足全てを持って襲い掛かるが、カインは何ら慌てることなく蒼翼からプラズマカノン、腰部サイドアーマーのレールガンを展開し、右手のエナジーライフルと合わせて、一斉射撃(フルバースト)。

 三筋の光弾と一対の電磁加速弾は、クラーケンの蛸足全てに着弾し、吹き飛ばしてみせた。
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