上 下
1 / 159
マギアアームド・ファンタジア

1話 始まりの始まり

しおりを挟む
 晴れやかな群青の空、その眼下に広がる緑豊かな森と平原。
 その狭間を翔けるのは、赤き巨躯。
 赤茶けた鱗と甲殻に覆われた胴体、雄々しく羽ばたく翼。

『レッドワイバーン』と呼ばれる、大型の飛竜だ。

 それと相対するのは、人間。

 全身に纏う、黒鉄色の装甲や羽のような突起から、炎に似た光を放ち、それが推進力となって、人間と言う二足歩行の生物では有り得ない飛行を可能にする。

 レッドワイバーンは空中を飛び回りながらも、その口蓋から灼熱の火球を吐き出して人間を撃ち落とそうとするものの、人間は空を滑るようにして掻い潜る。
 そして右手に握る銃をレッドワイバーンに向けてトリガーを引き絞れば、銃口から放たれるのは極彩色の閃光。
 放たれた閃光は、傷が重なったレッドワイバーンの翼膜を貫き破り、翼を傷付けられたレッドワイバーンは飛行体勢を崩して蹌踉めく。
 動きが鈍ったのを見て、人間は左手を装甲の内部へ伸ばし、そこから何かを抜き放てば、銃と同じ極彩色をした、光の剣が顕現する。
 一気に加速、急速に距離を詰めていく人間と、体勢を立て直そうとしていたレッドワイバーンもまた火球ブレスを吐き出そうと口蓋から火炎を揺らめかせ――

 そこで時が止まり、一枚絵のようなハイライトがかかる。

『広大な大地を、海を、空を、マギアアームドで自由自在に翔け抜けろ!フルダイブ型VRMMO、【マギアアームド・ファンタジア】!絶賛展開中!※本サービスは15歳以上が対象となります。未成年のユーザーは保護者との同意の上、ルールを定めてお楽しみください』

「くぅ~っ、やっぱ絶対面白いってこれ!」

 スマートフォンの画面に流れる動画の終了を見て、彼――『織原徹矢おりはらてつや』は、興奮の余韻に浸る。

「楽しそうだけど、面白そうだけど、すっごく難しそう……」

 徹矢の隣から動画を見ていた彼女――水城菜々花みずしろななか』は、困ったように目を細める。

 帰りのホームルームも終わり、人も疎らになった学園の教室。
 徹矢と菜々花が視聴していたのは、あるゲームのPVだった。

 マギアアームド・ファンタジア。

 通称、『MAF』
 フルダイブ型のオンラインVRMMOで、広大なハイファンタジーの世界の中、特殊な魔装具『マギアアームド』を身に纏い、クエストを受けてモンスターと戦ったり、アイテムを収集したりすることで報酬を入手、ゲーム内通貨や素材アイテムを使って装備を強化し、またクエストに臨む、と言うものだ。

「確かに難しいと思うけど、すぐに慣れるって。俺もこんな風に、空を飛び回ってモンスターと戦って……」

「織原くんって、もうお家の人とは相談したんだっけ?」

 ゲームの中のアバターたる自分に想像を働かせる徹矢だが、菜々花の声に現実へ呼び戻される。

「っと、そうそう。高校に上がったらやってもいいってちゃんと許可は得てる。水城さんはどうする?」

「うーん……織原くんがやるなら、わたしもやってみようかな」

「そっか。じゃぁ今度の土曜、やりに行こうか?」

「うんっ。それまでには、わたしもちゃんと準備しておくね」

 この二人、中学生の頃に知り合い、何かと接する機会も多く、自宅同士も比較的近いことから、周囲からは幼馴染みのような間柄と思われている。
 幼馴染み、と呼ぶには付き合いはそれほど長くなく、単なる友達と呼ぶにもその距離感は近い。

 それはともかくとして、週末の二人の予定は滞りなく蹴っていした。

 徹矢はまだ見ぬ電子の異世界に期待を膨らませ――菜々花は淡い恋心を胸に添えて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...