【完結】可愛い義妹のためならば 〜超絶シスコン兄貴の異世界無双〜

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)

文字の大きさ
上 下
68 / 76

砕かれた平和

しおりを挟む
 数刻前。
 妻子と共に畑にいたベンは、村に怪しげな旅団がやって来るのを見る。

「あれは……」

 武装した上から黒衣を纏う、物々しい集団。
 村人の一人が駆け寄ってきた。

「村長。なんかあの怪しい奴らが、「アルフレッド・ギャレットはいないか」って訊いてきてるんだ」

「アルフレッド・ギャレット……?アルフ先生のことでしょうか」

「どうする村長、あいつら多分普通じゃないぞ……」

 盗賊か、冒険者かぶれの破落戸ならずものか。
 どちらにせよ、お帰りいただく他にない。

 ベンはすぐに、伝えに来た村人を連れてその者らの元へ向かった。

「お待たせしました。私はこのサダルスウドの村長の、ベンと申します」

 すると、リーダーらしき男が黒衣をずらして顔を見せた。

「突然お訪ねして申し訳ない。我々は冒険者パーティ『シュヴァルツドラッヘ』。私は『シグルド』と言う者です。アルフレッド・ギャレットと言う男がこの村にいるはずですが、ご存知でしょうか?」

 今ここにアルフを連れてくればどうなるかなど、容易に想像つく。
 ベンは努めて自然体を取り繕った。

「アルフレッド・ギャレット?いえ、お聞きしたことのない名前ですね。村にも同じ名前の者はおりません」

 どうする、どこまで誤魔化せるか。
 ベン村長は背筋に冷や汗が流れるのを自覚しつつ、ボロを出さぬように取り繕い続ける。

「……そうですか。どうやら我々ののようです」

 咳払いをしてから、シグルドは話題を変えた。 

「我々は、アルフレッド・ギャレットなる男を探すために旅をしております。対価はお支払いしますので、野営と、物資の買い付けの許可をいただきたい」

「分かりました。野営も物資の買付も許可致しますが、村の中では武装を解除し、その黒衣も脱いでいただけますか」

「これは失礼。……武器を外せ。ローブもだ」

 シグルドは後ろにいる者達に、黒衣と武器を外すように命令する。
 武威を傘に一方的に略奪を行うような集団では無いようだが、何を引き金に武力行使に出てくるか分からない。

 この事をすぐにアルフとシャルに伝えなければ。



 事情を伝え終えたベン村長は、すぐに学問所を出た。
「今日の午後の授業は取り止めにし、決して外に出ないように」と言い付けて。  

 居住区に俺とシャルの二人だけになってから、俺は一度食後の紅茶を淹れる。
 まずは、落ち着こう。

 二人分のお茶を淹れて、シャルと一緒に席につく。

「お兄様……先程の、ベン村長が言っていたことって……?」

 シャルは不安げに俺に縋ってくる。
 ……これは、下手に安心させようとするのは逆効果だな。

「どうやらこの村に、俺のことを探している連中が来ているらしい」

「それは……!」

「あぁ……恐らく、ガルシア・ギャレットが放った追手だな。冒険者と言うことは、依頼を受けて俺を探しに来たってことだろう」

 なんとなくながらの当たりはつけている。
 父上……いや、ガルシアが、俺とシャルが生きてどこかへ行方をくらましたことを知ったか、あるいは悟ったか。
 しかし、俺(とシャル)がサダルスウドに腰を落ち着けていることをどうやって知ったのか。
 それも、ここでの滞在を始めて、まだ一週間ほどしか経っていないのに。

 詳しいことは知らないが、ガルシアの情報収集力を少し侮っていたようだ。

 ともかく、ベン村長に言われた通り、そいつらが村から去るのを大人しく待つべきだろう。

 今日の午後の授業を楽しみにしてくれている子たちには悪いが、余計な騒動を起こすわけにもいかない。

 ……胸騒ぎの正体は、この事だったのか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

処理中です...