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子ども達はみんないい子

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 よもやこの俺が、教鞭を執る日が来るとはなぁ。
 なんてことを思いつつ、俺は黒板と生徒達の狭間に立ち、教科書を片手に弁を振るっている。
 生徒である子ども達は元気良く、それでいて素直だ。
 皆が皆、静かに俺の言葉を聞きながら、ノート――と言ってもクリップに挟んだ紙束のようなものだが――にペンを走らせている。

「よし、それじゃぁ次のページ、開いてみようか」

 パララ、とページをめくる音がバラバラに重なる。

 あぁ、この音感が懐かしいな。

 あの頃の俺は今みんなが座っている場所にいたのに、今じゃ彼らと向かい合って先生なんてやってるんだから。
 ほんと、人生何が起こるか分からないなぁ。……俺がこの異世界に来てしまった要因は謎のままだけど。

「……ってところに来たので、このページの下のところを、誰かに読んでもらおうかな。読んでみたいひ……」

「はいはい!」「はーい!」「はいー!」

 この部分読んでみようってところで、生徒達が我先に挙手してきた。
 ふふ、何だか微笑ましい気分だ。



 俺は緊張しながら、子ども達は楽しそうに、授業は滞りなく進み、そしてすぐに午前の授業終了である昼前になる。

「さて、そろそろお昼前なので、今日の授業はここまで。続きはまた次の授業にね」

「「「「「はーい!」」」」」

「よーし、それじゃぁ最後に挨拶だ。きりーつ!」

 起立を促すと、子ども達は一斉に立ち上がり、

「気を付け!礼!ありがとうございました!」

 姿勢を正して頭を下げれば、子ども達も元気いっぱいに「ありがとうございましたー!!」と返してくれた。

「みんな元気いいね!っと、帰る前に教科書を先生に返してくれよ?」

 残念ながら教科書の冊数は限られているので、持ち帰らせるわけにはいかんのだよ。みんなで使いまわしだ。
 みんな手荷物を手にしつつ、教壇の上に教科書を置いてくれる。

「せんせー!さよーなら!」

「うん、さようなら。また明日ね」

 そうして全員分の教科書が返却され、年長さん達はぞろぞろと学問所を出て、自分達の家に帰っていく。

 同じ頃、シャルの方の年少組もわちゃわちゃしながら教室から出てきた。

「シャルせんせー!ばいばーい!」

「はーい、またねー」

 ぶんぶん手を振る子どもに、シャルは小さく手を振り返す。
 年長さんと年少組の全員が学問所を出ると、急に静かになった。

「お疲れさん、シャル」

「お兄様も、お疲れ様です」

「調子はどうだ?」

「なんとかちゃんと先生を出来た気がします。詰まったりすると、「せんせーがんばれー」って応援もしてくれました」

「そうか、いい子たちだな」

 不手際だって気にせず応援してくれるなんて、本当にみんないい子だなぁ。

「お兄様はどうでしたか?」

「教科書を読ませようとすると、みんな率先して読みたがるから、順番回しが大変だ」

 誰が読んだか読んでないかだの、偏らないように覚えておかなきゃな。

「さて、午後の授業もあるし、早いところ昼飯にしようか」

「はい」

 午前は乗り切った。
 残りもう半分だ。
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