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ベルク村にお邪魔します
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そうして山道を歩くこと数時間。
時折シャルのために休憩を挟み、山越えは順調に進んでいる。
その間、シャルはずっと考え込んでいる。
恐らく、自分の中の答えは既に決まっているのかもしれないが、それが出来るかどうかの自信が追いついておらず、また考え込むのだろう。
考えて、悩むことも経験だ。
慰めたり励ましたい気持ちを抑えつつ、俺は黙々と、けれどシャルのことは逐一確かめつつ、山道を往く。
幸いにも魔物に遭遇することなくベルク村に到着し、早速その村の村長と宿の相談だ。
「すまんねぇ、ウチの村に宿屋は無くてなぁ。空き家も無いし、儂の家もこの通り狭いもので」
大分御老体の村長は申し訳無さそうにそう言ってくれる。
こんな山中の村だから俺達のような旅人はそうそう来るものじゃないし、そういった用意はしていないのも理解出来る話だ。
「いえ、無理を言って申し訳ない。火を焚いて野営が出来る場所を提供していただけるだけ、ありがたいものです」
「あぁ、確か非常時に備えた野営具があったはず。それを用意しよう」
屋根のある家は貸し出せないが、テントや寝袋などを用意してくれるらしい。ありがてぇありがてぇ。
村長の手配よって、組み立て式のテントや寝袋を貸し出してもらい、村長の自宅の裏手にテントを組み上げた頃には暗くなる手前。
許可も得ているので、炊事も兼ねて火を焚く。
一口サイズに切った野菜を鍋の中に放り込んで煮込み、食べやすく味付けしただけの雑多なスープだが、そこそこ美味しく食べられれば問題ない。
野菜をじっくりコトコト煮込んでいる間、シャルはレイピアの素振りに集中していた。
「ふっ、やっ、はぁっ……!」
キンジョーの町で初めて素振りしていた時と比べても、動きの無駄は減っている。素人目に見ても、"サマ"になっているのだ。
無力な自分が嫌なら、力を付ける――強くなる他に無い。
だからこそ、少しでも武器を振るいたいがための行動だろう。
通り掛かった村人と軽く話しながら、俺はシャルの素振りを見守りつつ、茹だって来た鍋の中をおたまで掻き混ぜる。
十分煮込まれてきたのを見計らってシャルを呼び、焚き火を囲って夕食。
あつあつはふはふと野菜を口の中で躍らせるシャルの隣で、俺は火を灯りにして地勢図の確認。
エニケイ村は地勢図に記載されて無かったが、ベルク村はちゃんと載っているので、「だいたいこの辺かな?」と言うあやふやな仮定をしなくていい。
「明日ぐらいに、サダルスウドに着くんですよね?」
ふと、シャルが地勢図を横から覗いてきた。
「あぁ。明日の朝に出発して、昼過ぎ辺りには着くはずだ」
ここから山道を降りて平地をいくらか進めば、サダルスウドだ。
「どんなところなんでしょうね」
「田舎と言えば田舎らしいが、豊かな土地みたいだな。向こうに着いたら村長……かどうかは分からないが、土地長に挨拶して、それから空き家をいただかないとな」
「着いてからも休めそうにないですね」
少しおかしそうに、シャルが笑う。
レイピアの素振りに集中できて、少しは気を取り戻せたようだな。
地勢図をザックにしまい込み、さて俺もスープをいただくとしよう。
いただきます。
時折シャルのために休憩を挟み、山越えは順調に進んでいる。
その間、シャルはずっと考え込んでいる。
恐らく、自分の中の答えは既に決まっているのかもしれないが、それが出来るかどうかの自信が追いついておらず、また考え込むのだろう。
考えて、悩むことも経験だ。
慰めたり励ましたい気持ちを抑えつつ、俺は黙々と、けれどシャルのことは逐一確かめつつ、山道を往く。
幸いにも魔物に遭遇することなくベルク村に到着し、早速その村の村長と宿の相談だ。
「すまんねぇ、ウチの村に宿屋は無くてなぁ。空き家も無いし、儂の家もこの通り狭いもので」
大分御老体の村長は申し訳無さそうにそう言ってくれる。
こんな山中の村だから俺達のような旅人はそうそう来るものじゃないし、そういった用意はしていないのも理解出来る話だ。
「いえ、無理を言って申し訳ない。火を焚いて野営が出来る場所を提供していただけるだけ、ありがたいものです」
「あぁ、確か非常時に備えた野営具があったはず。それを用意しよう」
屋根のある家は貸し出せないが、テントや寝袋などを用意してくれるらしい。ありがてぇありがてぇ。
村長の手配よって、組み立て式のテントや寝袋を貸し出してもらい、村長の自宅の裏手にテントを組み上げた頃には暗くなる手前。
許可も得ているので、炊事も兼ねて火を焚く。
一口サイズに切った野菜を鍋の中に放り込んで煮込み、食べやすく味付けしただけの雑多なスープだが、そこそこ美味しく食べられれば問題ない。
野菜をじっくりコトコト煮込んでいる間、シャルはレイピアの素振りに集中していた。
「ふっ、やっ、はぁっ……!」
キンジョーの町で初めて素振りしていた時と比べても、動きの無駄は減っている。素人目に見ても、"サマ"になっているのだ。
無力な自分が嫌なら、力を付ける――強くなる他に無い。
だからこそ、少しでも武器を振るいたいがための行動だろう。
通り掛かった村人と軽く話しながら、俺はシャルの素振りを見守りつつ、茹だって来た鍋の中をおたまで掻き混ぜる。
十分煮込まれてきたのを見計らってシャルを呼び、焚き火を囲って夕食。
あつあつはふはふと野菜を口の中で躍らせるシャルの隣で、俺は火を灯りにして地勢図の確認。
エニケイ村は地勢図に記載されて無かったが、ベルク村はちゃんと載っているので、「だいたいこの辺かな?」と言うあやふやな仮定をしなくていい。
「明日ぐらいに、サダルスウドに着くんですよね?」
ふと、シャルが地勢図を横から覗いてきた。
「あぁ。明日の朝に出発して、昼過ぎ辺りには着くはずだ」
ここから山道を降りて平地をいくらか進めば、サダルスウドだ。
「どんなところなんでしょうね」
「田舎と言えば田舎らしいが、豊かな土地みたいだな。向こうに着いたら村長……かどうかは分からないが、土地長に挨拶して、それから空き家をいただかないとな」
「着いてからも休めそうにないですね」
少しおかしそうに、シャルが笑う。
レイピアの素振りに集中できて、少しは気を取り戻せたようだな。
地勢図をザックにしまい込み、さて俺もスープをいただくとしよう。
いただきます。
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