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後悔していないなら反省も必要ない

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 剣の素振りを開始して少しが経った頃。
 俺はギャレット家でいつも行っていた『キッチリやる日』と同じくらいのトレーニング量をこなしたところだ。
 まぁこんなものだろう、とロングソードを背中の鞘に納める。
 ふぅ、これなら今日はよく眠れそうだ。
 
 一方のシャルはと言うと、初めこそバスターソードでも振り回しているのかと思うような振るい方だったが、身体が慣れてきたのか、ようやくショートソードと同じくらいの使い方までに漕ぎ着けたようだ。
 質量に任せて叩き斬るような使い方は出来ない、と理解したらしい。
 根本的な基礎体力についてはまだまだだが、それは旅をする中で鍛えられるだろう。

「はぁ、はぁ、ふぅ……」

 荒い呼吸を繰り返すシャルに、そっと肩に手を乗せてやる。

「シャル、そろそろ宿に戻るぞ」

「は、はひ、お兄、様、はふ……」

 レイピアを腰の鞘に納めるシャル。

 柵から出て、町中へ戻っていく。
 すると、シャルは俺の背中にあるロングソードを見ながら訊ねてきた。

「そう言えば、お兄様っていつから剣を持ち始めたのですか?」

「ちょうど二週間前くらいだな。その時から、シャルを連れてギャレット家からおさらばしようと思っていて、お前を守るために剣の練習を始めたんだ」

「そんなに前から……」

 そんなに前からって言うが、たかが二週間だぞ?
 正直、冒険者に憧れる子どもよりはマシ程度のレベルだとは思うが、シャルと同い年くらいで既にドラゴンを討伐するような少年少女だっているんだ、それと比べたら俺なんぞペーペーも良いところだ。
 まぁドラゴンの相手なぞしなくても、シャルを守れればそれでいいのだが、俺自身が強いことに越したことはない。

「剣の練習と、魔法の習熟、それと普段の執務も並行してやっていた。ギャレット家の邸宅のどこを燃やせば効率的かも調べて、二週間もあれば何とかなるだろうと思っていたが、我ながら上手く行ったものだ」

「……お兄様は、辛くなかったんですか?」

 ふと、シャルは少し悲しそうな顔をした。

「何がだ?」

「お父様やお義母様を裏切るようなことをしたんですよね?あの日の火事で死んだかもしれないのに……」

 親不孝を働いたと言うのに辛くないのか、とシャルは言いたいらしい。

 まぁ、誰かを殺すことになるだろう、と言う罪の意識はあったし、「ざまぁ・もう遅い」と罪の意識を誤魔化すように言い聞かせていた。
 だが、胸クソ悪さはあまり感じなかった。
 虐げられる義妹を救うために、と自分を正当化出来る理由があったからだろうな。

 さて、この問いかけにはどう答えるべきか。
 
「後ろめたさが無かったとは言わない。だが、シャルを見殺しにするなど俺には出来なかった」

 それにな、と続ける。

「あの二人は、お前が苦しんでいると知っていて見て見ぬ振りをしていた。そんな外道に返す恩は仇で十分だ」

 因果応報。
 行き着く結論はそこだ。
 俺は聖人君子にはなれないが、悪党に成り下がるつもりもない。
 善人には優しく、悪人には容赦しない。

 それが、俺というアルフ、アルフという俺なりの決意だ。

「お兄様……」

「俺は、後悔しない生き方を望んでいるだけだからな」

 だから、こうしてシャルと二人旅に出たことに後悔はしていない。

「後悔しない行き方……」

 シャルはその言葉を噛みしめるように反芻する。

 宿屋が見えてきた。
 さて、今夜はじっくり休むとしよう。
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