16 / 76
火計
しおりを挟む
いつも通りの顔をしながら夕食を終えて、入浴も済ませたら、あとは寝たフリをして時を待つ。
旅自宅の荷物はすぐ担ぎ出せる場所にある。
あー、今日でこのエレガントな部屋ともお別れか。
明日からは不便な生活が始まるなぁ……でも、シャルロットは俺が守る。
そのためなら、不便のひとつやふたつくらい、どうと言うことはない。
なんてことをつらつらと考えていると、時刻は既に0時前頃を指していた。
『ギャレット家バイバイ作戦』、決行の刻だ。
「行くか」
もう後戻りは出来ない、するつもりもない。
俺は荷物と剣を担ぐと、
自分のベッドに火をつけた。
そしてすぐに部屋を出てドアを閉じる。
夜勤の衛兵達の巡回時間も把握済みだ、誰にも見つかることなく外へ出て、邸宅を見上げる。
「さぁ、慌ててみせろ。自分の保身ばかりを気にしろ。息子や娘よりも、自分の命を大事にしろ」
そうして俺はマントで顔を隠すと、魔法陣を顕現し、邸宅の各所へ次々に火球を放っていく。
火球の数々は窓ガラスを突き破り、その室内で炸裂する。
火球をぶつけた場所は、厨房や書斎、倉庫と言った燃えやすい物が揃っている所ばかりだ。
「た~まや~」
ほらごらん、あっと言う間に火の手が上がった。特に油とか薪の備蓄庫なんかは、早速周囲を延焼させ始めているぞ。
これが、俺が案じた計略……つまりは火計な。
だからといって遠慮なく全部燃やすわけにはいかない。
留まって消火作業に徹するか、早く避難するかの判断を迷わせるくらいの火加減が必要なんだ。
何せこの火計は、陽動。
俺とシャルロットが密かに邸宅から脱出するための布石。
さて、邸宅が燃えている様を眺めている暇はない。
その場から駆け出し、シャルロットの待つ部屋へ急いだ。
今行くぞ、シャルロット。
俺の言葉を、どうか信じてほしい。
シャルロットは眠い目を擦りながら、"その時"を待っていた。
0時には必ず迎えに来る。
義兄・アルフレッドのその文を信じて、ひたすら待ち続けた。
もうすぐ日付変更を迎えようとした、その時――遠くで窓ガラスが割れる音がした。
一度ではない、二、三、四、五……と次々に窓ガラスが割れていく。
衛兵達や使用人達が何だ何だとざわめき始めれば――
「大変だ!あちこちに火の手が上がっている!火事だ!」
「早く消化しろ!急げ!」
「こっちの通路は完全に燃えてます!」
火事。
まさかこんな時に起こるとは。
「ア、アルフレッド様の部屋はもうダメだ!」
「ありゃ無理だ……部屋ん中で焼け死んでるぞ!」
アルフレッドの部屋までもが燃やされてしまった。
まだほんの二週間ほどしか経っていないが、自分のことを優しく案じてくれた、義兄が。
シャルロットは衝動的に部屋を飛び出そうとして、踏み留まった。
まだだ。
まだ、死んだと決まったわけではない。
パチパチ、ガラガラと、燃え盛り、崩れ落ちる音が大きくなっている。
「お願い……早く来て……お兄様……ッ!」
固く目を閉じて、祈るように、義兄を呼ぶ。
次の瞬間、自分のすぐ近く――この部屋唯一の窓ガラスが割れた。
「待たせたな、シャルロット」
マントで顔を覆っているが、その声に聞き違えようはなかった。
旅自宅の荷物はすぐ担ぎ出せる場所にある。
あー、今日でこのエレガントな部屋ともお別れか。
明日からは不便な生活が始まるなぁ……でも、シャルロットは俺が守る。
そのためなら、不便のひとつやふたつくらい、どうと言うことはない。
なんてことをつらつらと考えていると、時刻は既に0時前頃を指していた。
『ギャレット家バイバイ作戦』、決行の刻だ。
「行くか」
もう後戻りは出来ない、するつもりもない。
俺は荷物と剣を担ぐと、
自分のベッドに火をつけた。
そしてすぐに部屋を出てドアを閉じる。
夜勤の衛兵達の巡回時間も把握済みだ、誰にも見つかることなく外へ出て、邸宅を見上げる。
「さぁ、慌ててみせろ。自分の保身ばかりを気にしろ。息子や娘よりも、自分の命を大事にしろ」
そうして俺はマントで顔を隠すと、魔法陣を顕現し、邸宅の各所へ次々に火球を放っていく。
火球の数々は窓ガラスを突き破り、その室内で炸裂する。
火球をぶつけた場所は、厨房や書斎、倉庫と言った燃えやすい物が揃っている所ばかりだ。
「た~まや~」
ほらごらん、あっと言う間に火の手が上がった。特に油とか薪の備蓄庫なんかは、早速周囲を延焼させ始めているぞ。
これが、俺が案じた計略……つまりは火計な。
だからといって遠慮なく全部燃やすわけにはいかない。
留まって消火作業に徹するか、早く避難するかの判断を迷わせるくらいの火加減が必要なんだ。
何せこの火計は、陽動。
俺とシャルロットが密かに邸宅から脱出するための布石。
さて、邸宅が燃えている様を眺めている暇はない。
その場から駆け出し、シャルロットの待つ部屋へ急いだ。
今行くぞ、シャルロット。
俺の言葉を、どうか信じてほしい。
シャルロットは眠い目を擦りながら、"その時"を待っていた。
0時には必ず迎えに来る。
義兄・アルフレッドのその文を信じて、ひたすら待ち続けた。
もうすぐ日付変更を迎えようとした、その時――遠くで窓ガラスが割れる音がした。
一度ではない、二、三、四、五……と次々に窓ガラスが割れていく。
衛兵達や使用人達が何だ何だとざわめき始めれば――
「大変だ!あちこちに火の手が上がっている!火事だ!」
「早く消化しろ!急げ!」
「こっちの通路は完全に燃えてます!」
火事。
まさかこんな時に起こるとは。
「ア、アルフレッド様の部屋はもうダメだ!」
「ありゃ無理だ……部屋ん中で焼け死んでるぞ!」
アルフレッドの部屋までもが燃やされてしまった。
まだほんの二週間ほどしか経っていないが、自分のことを優しく案じてくれた、義兄が。
シャルロットは衝動的に部屋を飛び出そうとして、踏み留まった。
まだだ。
まだ、死んだと決まったわけではない。
パチパチ、ガラガラと、燃え盛り、崩れ落ちる音が大きくなっている。
「お願い……早く来て……お兄様……ッ!」
固く目を閉じて、祈るように、義兄を呼ぶ。
次の瞬間、自分のすぐ近く――この部屋唯一の窓ガラスが割れた。
「待たせたな、シャルロット」
マントで顔を覆っているが、その声に聞き違えようはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる