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ハタセ

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彼の事情 No.3〔八野 深弦の場合〕

彼の事情 No.3〔八野 深弦の場合〕10

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「今、ココに居る意味を考えてた?」

「なっ…」

「ごめんねー俺人の感情読むの得意分野なんだ」

ニッコリと笑みを浮かべた柏木は「まぁそんな顔しないでこっち来て座りなよ」と言い
バーカウンターに俺を促した。

「どうやら気に入られたのはお前みたいだな」

そうポツリと俺に零した幸助の先輩は俺の背中をポンッと軽く押し一歩前に出した。

「俺は望んでません」

「そう言うな。柏木さんがお前を見込んだって事は将来必ずお前の利益になる」

「あんた…黒の中でも上の方にいるんじゃないですか」

「…ハッどうかな?俺はあの人に付いてきただけで上も下も興味ねーからな」

「?…ならどうして今日幸助を連れてきたんですか?」

上下関係に興味がない人間が他者を連れてくるのは不自然だ。
興味が無いならそもそも後輩をココに連れてくる理由がない。
いくら幸助が黒に憧れていようともそれを聞いて連れてこようなんて奇特な事をするだろうか?
俺だったらそんな考えは起こさない。
トラブルの元にもなりかねないからだ。

「強いて言えば、柏木さんを飽きさせない為ってとこか」

「…そうですか、なら納得しました」

飽きさせない
つまりそれがこの人の全てなのだろう
それくらいこの先輩の中で柏木と言う男の存在が大きいと言う事だ。
確かに柏木は一回見たら忘れられそうもないくらいの存在感がある。
この男に関わってみたいと思えるくらいの何かを持っているのは間違いない。
だけど俺はそうじゃない
もう誰にも興味が無いからだ。
三春以外では。

「でも、俺たちをダシに使うのは今回限りにして下さいね」

「俺たち…ね。心配しなくてももう無いと思うぜ。だってもう、手遅れだ」

カウンターに座り、俺を見て隣の椅子をポンポンと叩く柏木は凄く楽しそうな顔をしていた。

「そうみたいですね。あ、あと…俺が幸助に恨まれるのも嫌なんで、そこら辺のフォローお願いしますね」

「へいへい。言われなくとも、あの泣きそうな子犬みてーな顔してるのはほっとけねーよ」

柏木に自分より俺が選ばれてしまった事が余程ショックだったのだろう
幸助は部屋の隅の方で蹲ってこちらを涙目で見つめている。

「お前、自分以外どうでもいいって面してるけど案外友達想いなのな」

「…」

違う
別に幸助の気持ちを汲んだわけではない。
敢えて水を差すような事を言いたくないから俺はそれに対して肯定も否定もしなかった。

俺が自分以外どうでもいいと思っているのならそれも誤解だ。
俺はもう自分ですらどうでもいい。
三春との縁が切れた瞬間から俺はこの世界と切り離された。
もう誰に何をされても何を言われても俺の心には届かない。
俺の心が動くのは三春と言う存在だけ。

そう思っていたんだ。

柏木 凌雅(カシワギ リョウガ)

この人と出会うその時までは。
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