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ハタセ

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彼の事情 No.1〔桜崎 圭の場合〕

彼の事情 No.1〔桜崎 圭の場合〕2

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それから吉野先輩を高丸商事まで送り届け、お互いに手を振り別れたけれど俺はまたクラブへと足を向ける気にもなれず
何となく振り返ってみた時
彼がまだそこに留まり、廃ビルの1番天辺を見上げていたのを目撃してしまったのだ。

俺は瞬時にさっきの叔父の話は嘘だと悟った。

「この俺を騙してくれちゃって…」

案の定、彼はその廃ビルの中へと姿を消した。
そして俺も、気付いたらその跡を追っていた。

単純に興味が沸いたのだ。

「………なにしてんのか分かんねー」

屋上へと着いた彼は鍵の掛かっている扉をバールで無理やりこじ開け、今は屋上の1番端にあたる位置に腰を降ろして呑気におにぎりを頬張っている。
初めは自殺でもすんのかと思っていたが、今から自殺を謀る人間が生にしがみ付くような、ましてや食事なんかするわけがないとその予想は即座に却下した。
最後の晩餐がおにぎりとか俺だったら嫌だし。

彼に気付かれない位置で俺も腰を降ろす。

10分、20分と時間が静かに流れて行く。

俺もそろそろ飽きてきてもう帰ろうかと思ったその時、彼がいきなりその身を低くして屋上の端から地面を覗き込んだのだ。

その僅か10秒後くらいに静寂が支配していた空間にけたたましい程のバイクのエンジン音が鳴り響いた。

様子を窺ってみると、どうやらここら辺を締めるチーム同士の小競り合いらしい。

「縄張り争いか」

俺はそんなものに全く興味はなかったし、そのチームに知り合いも居たので早々に立ち去りたい気持ちに駆られた。
無駄な時間を過ごしてしまったと半ば呆れ返りながら踵を返そうとしたが
一点に集中し微動だにしない彼が視界に入った。

見ているのは確かに俺と同じただの喧嘩のはずなのに
彼はそれを見て笑うでもなく怒るでもなく悲しむでもなく、ましてや俺のように呆れるわけでもなく、
ただただ無表情のままその喧嘩を眺めていたのだ。

はっきり言って異常だと思った。

野次馬として見に来ているだけならまだ分かる。
今までにもチームに憧れてる奴や、怨んでいる奴、利用しようとする奴、単純に喧嘩を見たい奴、色んな人間を俺は間近で見てきたから。
でもそれとも違う雰囲気に呑まれ、気付いたら俺はまたその場に腰を降ろしてしまっていた。
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