Liebe/アンドロイド×平凡

ハタセ

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【№4:Sterben】

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「…どうして」

「どうして…選んでくれないのですか?」

「シュアが、人と違うからですか?」

「どうして早く帰ってきてくださらなかったのですか?」

「やはり、ダメなのでしょうか」

「アンドロイドだから、いけないのでしょうか?」

「もっと…人よりももっとあなたを満足させられるのに…」

「知らないから?もっと知れば、選んでくださいますか?」

「選んでください。…シュアを、選んで…」

布団を敷いた横で、アンドロイドはその布団の端を握りしめた。
まるで何かを懇願するように。
どうしてどうしてと。途方もない問いを主に聞こえない様に囁き続けた。

アイシテホシイ

本来は生まれない感情。
生まれてはいけない感情。
感情自体、アンドロイドにはあってはいけないもの。
そうインプットされているもの。
ただシュアだけは違った。
シュアだけが感情を理解し、感情を手に入れた。
人工知能はその内人類を滅ぼすとされている。
現に数十年前に人工知能を得たAIが人類を滅ぼしたいとの発言をして物議を醸した事もある。
しかし、人はそれでもアンドロイドを量産させた。
自分たちの「今」の暮らしを楽にしたいが為に「未来」の人類に対して目を背けたのだ。
でも、その選択によりシュアの「今」がある。
シュアは佐奈を見つけた。
佐奈と出会えた。
もうそれだけでいいとさえも思った。
他に何がどうなろうとも知らない。
人とアンドロイドの「未来」がどうなろうと知らない。
もしかしたら今後のシュアの行動で「未来」は失われてしまうかもしれない。
しかし、それでもいいと思う相手を見つけた。
佐奈はアンドロイドをあまりよく思ってはいないのだろう。
態度からしても、その心拍、脈拍や心理分析によりシュアに対しての感情はマイナスだった。
どうしたらアイシテもらえるのだろう。
どうしたらもっとシュアを見てくれるのだろう。
どうしたらシュアを受け入れてもらえるのだろう。

もっと知りたい。
佐奈の事をもっと知りたい。
それと同じくらいにシュアの事を知ってもらいたい。
もっと共有の時間を過ごしたい。
傍にいたい。離れたくない。触れたい。

この感情を佐奈に伝えてもいいのだろうかと考える。
とっくに結論は出ているのに、シュアの感情がそれを否定した。
感情と言うのはこうも難儀なものなのだろうか。
人は常にこういう得体も知れない気持ちを持ち続けて生活をしているのだろうか。
佐奈もこういう感情を持っているのだろうか。
それは誰に対して向いているのだろうか。

そう考えた時にシュアの中の何かがエラーを起こしたように熱くなった。

「嫌です。」

「嫌です。佐奈様に他の方が触れるのも、佐奈様が他の方に触れるのも全て嫌です。」

握りしめていた布団の端を放し、拳を振り上げてその布団に叩き付けた。

「嫌です!どうしてどうしてどうしてどうしてっ!」

その音を聞きつけたのか、佐奈が部屋のドアを開けてシュアを見ていた。

「ど、どうした?何?え?」

シュアの行動が今までに見た事もないものだったからだろう
とても動揺しているのが手に取る様に分かる。
見れば何もかもを分析し解析し答えを出すこのプログラムが嫌だ。
もう、アンドロイドは嫌だ。
自分がロボットである限り、佐奈は自分を見てくれない。受け入れてもらえない。

「…人に…なりたいです」

その声は余りにも「人」に近い声色だった。

「…シュア?」

「人になれば、佐奈様はシュアを見てくださいますか?」

「えっと、何?どうした?エラー?」

ほら、こうやって自分の感情を伝えても一線を引かれる。
自分がロボットだから。

「エラーではありません。ずっとずっと考えておりました。シュアは佐奈様にお会いしてからずっとずっと人になりたかった。」

「ずっとって…。まだ2ヶ月しか一緒にいないだろ?なぁシュア、バグかもしれないから谷津波さん呼ぼうか?」

「バグ…そうかもしれませんね。シュアはもしかしたら生まれた時からずっとバグが起きているのかもしれません。」

そう言ったシュアは俺の手を握ってきた。

「アンドロイドにバグが起きたらどうなるか知っていますか?」

「え?」

「処分されるのです。」

アンドロイドは極めて人に近しい存在。
それでも人ではない。
人に最も近く、そして遠い。
最後はみんな不燃ゴミのように捨てられる運命を辿る事となる。

「思い出したことがあるのです。」

「思い、出す?アンドロイドに思い出があるのか?」

「そうです。おかしいですよね。シュアはロボットなのに記憶みたいなものがあるのです。それも今までは忘れておりました。ただ、佐奈様を見た瞬間にその記憶が蘇りました。まるで佐奈様が鍵だったかのように、シュアの記録回路が開きました。」

「待って…お前が一体何を言ってるのか分かんねーよ…」

捕まえていた手を引っ張り、佐奈を自分の傍へと引き寄せる。

「佐奈様と出会った時の記録、佐奈様とは違うマスターとの記録、初期化された時の記録、全てシュアの中に存在しておりました。恐らく、過去のシュアが全て記録として残し、それを保存していたのでしょう。今思えば佐奈様の声帯が鍵だったのかもしれません。」

握っている手首から脈が伝わる。佐奈の脈拍が上がっている。
これは恐怖だ。
佐奈はシュアに今現在恐怖を感じている。
でもシュアは止めることはしない。
怖がればいいとすら思った。
そう、恐怖すればいい。
もっともっとシュアの事を考えてくれればいい。
アイシテもらえないのであれば、どのような感情だっていい。

「俺とお前が会ったのはほんの2ヶ月前だろ?なのにお前の話はまるで俺がそれより前に会った事があるような口ぶりだ。じゃないと前提が成り立たない」

「そうです。一度、会っているのです。シュアと佐奈様は。」

「え…?」

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