恋は止まらない

空条かの

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8話

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裏で起こっていることなんて知るよしもなく、俺は相原と四条のお誘いを断ることができ、無事に夏休みを迎えることが出来ていた。まあ一つだけ失敗があるが……。それはバイトである。結局有力なバイト先も見つからずダラダラと休みを迎えることになってしまったのが心残りだが、それはそれで仕方のないことと自分なりに諦めたので、よしとしよう。しかし、この夏休みがとんでもないことになるとは、終業式の時点では想像さえも出来なかった。

「誠! また休み明けな。しっかりバイトしてこいよ」
「南もいい休みをな」

俺たちは軽い挨拶を交わして、それぞれの夏休みを迎えた。
家に帰ると珍しく兄貴が二人ともいた。俺の家は男だけの三人兄弟。両親は4年ほど前に事故で亡くしていて、長男圭祐が成人をしていたため3三人で暮らすことを決めた。今では次男果津樹も社会人となり、しっかり切り盛りしている。
そして、二年ほど前から一緒に暮らし始めた雪さんがいるから今は四人暮らし。
浅井雪さんこと雪さんは、果津にいの彼女? である。とっても綺麗な人で、料理もうまく、家事全般が得意。まさに理想の人なんだけど……、ひとつだけ問題ありで、圭にいと果津にいが大喧嘩。一体どれくらい長い間喧嘩してたのかも忘れるほどに長かった。だって雪さんって男でも女でもないから。つまり、上もあって下もある。見た目は綺麗なのにな~~~。
圭にいはまだ完全に二人の仲を許したわけじゃないみたいだけど、半分は諦めたみたいだ。
その圭にいの口癖は『悠太はちゃんといい人見つけるんだぞ』だ。まさか『俺も男に好かれちゃった(笑)』なんて口が裂けても言えない。

「ただいま」
「お帰り、悠君」

玄関で迎えてくれたのはエプロン姿の雪さんだった。

「帰ったのか悠太」

そして、奥から圭にいが出てくる。手に大きな荷物を持って……。

「圭にい、何その重たそうな荷物? どっか行くの?」
「悠君の荷物だよ。お兄さんが用意してくれたんだよ」
「えっ! 俺の荷物?」

何のことかさっぱり分からず、玄関でぼけ~と立ったまま頭の中を整理したけど、やっぱり何のことか分からない。夏休みは兄貴二人とも忙しいからって、出かける予定はないし、サークルに入ってない俺が合宿に行くわけないし。

「今冷たいものでも用意するから、早く上がって悠君」

雪さんはそう言ってキッチンに入っていく。圭にいも玄関に荷物を置くと俺の鞄を受け取って部屋に戻る。俺も圭にいの後を追いかけて部屋に入った。

「悠太の学校にはいい先生がいるんだな。私たちに遠慮しないで行っておいで悠太」

机に一枚のプリントを差し出して、圭にいがにっこりと微笑む。
差し出されたプリントには、


『サマーキャンプに行こう!!』


のタイトルで始まるキャンプの内容がこと細かに書かれていた。募集定員は二十名、期間は一週間らしい。

「先日雨宮先生がいらしてな、まじめで仕事もしっかりやっている悠太に、少し学生らしい思い出はどうかとお誘いに来てくださったんだ」
「お誘い?」
「募集定員はいっぱいになってしまったそうなんだが、一人や二人増えてもかまわないと言って下さってな」

キャンプの話は初耳だ。学校でも聞いたことないし、こんなプリント見るのも初めてだ。
怪しすぎる。俺はプリントにご丁寧に記載されているキャンプ場の電話番号に問い合わせることに。もしこれで、雨宮が出るようなことがあったら絶対罠だ。
しかしだ、俺の予想は見事にはずれ電話はキャンプ場につながり、聖都の学生が二十名ほど行くことまでしっかり確認できてしまった。

「どうしたんだ悠太?」

俺の不審な行動に圭にいが心配顔になる。末っ子ってこともあるのか、圭にいはいつも俺のことを一番に心配してくれる。俺が成人するまでは結婚はしないって断言までして、心配かけたくないけどやっぱりかけちゃってるんだろうな。

「悠君、カキ氷作ってみたんだけど……」
「おいしそう、雪さんありがと!」
「こう暑い日はカキ氷がいいな。浅井さん悪いな」
「いえ、暑いですから。二階にも置いてきますね」

イチゴシロップのかっかったカキ氷を持ってやってきた雪さんは、机に二つ置くともう一つを持って階段を上がっていく。さっきから姿が見えないと思った果津にいは、どうやら自分の部屋に居るみたいだ。
冷たいカキ氷を食べながら、圭にいが話を戻す。

「今年の夏もどこにも出かけられそうもないから、キャンプに行って遊んでおいで」
「別に俺行かなくてもいいって……」
「悠太は優しいから、私たちに気を使ってるなら行ってきなさい。学生は学生らしくたまには生き抜きも必要だぞ。」

片手を俺の肩に乗せた圭にいは、ポンポンと数回叩いて勝手に行くことを承認して、再びカキ氷を食べ始めていた。俺だってみんなと騒ぐのは嫌いじゃないけど。主催者が雨宮ってところが引っかかるんだよな。
その夜、果津にいも『行け行け』ってしつこく、雪さんにも『たまにはあそんでおいで』って言われちゃって、引っ込みがつかなった俺は行くこととなってしまった。
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