恋は止まらない

空条かの

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3話

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翌日、学校は昨日の話しでいっぱいだった。しかもいらぬ尾ひれまでついて。この短時間でここまで話が膨らんだことに、正直言って関心までしてしまうぐらいだ。で、雨宮はといえば、俺の相談に乗っていて、つまりカウンセリングとか何とか言ってうまく切り抜けていた。実のところ俺のところにも学校から電話があって、本当のことを言う勇気もなく、そうだと答えたのも事実。

「よう南、おはよ! 昨日は大変だったんだってな」

小学校時代からの友達でもある宇田川誠が、明るく俺に声をかけてきた。俺の何でも話せる唯一の親友だ。まさかここまで一緒にいるとはお互い思ってもいなかったのだが、どういうわけかずっと同じ学校だったりもするんだよな。

「で、どんなうわさ聞いてきたんだ」
「やっぱ聞きたい? 一番有力なのは三角関係のもつれって話かな?」

人差し指を立てて得意げに言ってくれる誠に、俺は大きなため息である。

「なんでそうなるんだよ!」
「なんでも、雨宮をめぐってのトラブルだって話だぜ」
「何で俺が四条と二人で雨宮取らなきゃならないんだよ。まったく」

俺の台詞に宇田川はうんうんと頷く。確かに雨宮は生徒に人気があって、かなりのファンもいる、話がそうなるのも正直言って仕方がないことではあったが、出来ることなら巻き込まれたくないとは思うのが本音。まあ、ここまできてそれもないけど。
そういえば、三人に出会ってから一年近くもたったんだっけ。俺は不意に三人と出会った頃を思い出していた。
相原は、いじめられてたところを偶然俺が通りかかって助けたんだよな。それ以来俺をお兄ちゃんみたいに慕ってくるようになったけど、最近はなんか違うような気がする(汗)
雨宮はあの性格だから、来るもの拒まずみたいな感じだったらしいんだが、それがあの日風邪を引いた俺は、熱まで出てきて仕方なしに医務室に行くこととなり、初めて雨宮に会った。熱のせいで頭がボーとしてて、あのときのことはよく憶えていないんだけど、雨宮が言うにはとっても可愛かったんだそうだ。それからだよな、俺のこと追い回し始めたのは……(泣)
で、俺もよくわからないのが四条。相原に追いかけられて廊下でぶつかったのが出会いだったんだけど、俺の名前知ってて『大きくなったな』なんて意味深なことを言ってきた。
四条が言うにはどこか出会ってるらしいんだけど……、俺は全然思い出せずに今日に至る。
俺だって何度も四条を問い詰めたけど、『自分で思い出せ』で、ヒントも教えてくれない。
確かに思い出せない俺も悪いんだけど。
三人とも嫌な奴ではないんだけど、友達で勘弁してもらいたい。
――が、三人そろって可愛いだの好きだので、高一のときはよく宇田川に男に好かれたことがショックで慰めてもらっていたっけ、そして、高二になりこの環境に慣れつつある自分が怖い。
俺が過去に浸っているなか、宇田川が一人で納得して口を開いた。

「そうだよな。雨宮と四条が南を取り合ってるのにな」
「誠、殴るぞ!」
「あっ! 相原もいるか?」

誠の発言に思わず頭を叩いてやる。軽く叩いてやったのに、誠は大げさに頭を抱え込んで、俺をからかう。いつもとなんら変わりない日常に俺もつい笑った。

「で、今年の夏休みはどうすんだ南?」

騒がしい毎日を送っているせいか、俺はもうすぐ夏だということも忘れかけていた。

「夏休みか~~、誠はどうすんだ?」
「俺はね~、バイトして稼ぐ! ちょっとほしいものがあってな」
「バイトか~、俺もバイトでもしようかな?」

去年の夏休みは散々だったからな。暇さえあれば雨宮と相原が遊びに来ていたような気がするし、四条はよく見かけたような……。気のせいかもしれないけど。

「よし、バイトするならこの誠様がいいものやるよ」

誠は大きく胸を張ると、なにやら鞄から取り出してきた。バシッと机に置いた薄い雑誌には『夏季アルバイト』とデカデカと文字が書かれていた。

「俺はもう決めたから、南にそれやるよ」
「サンキュー誠」

雑誌を受け取ったところで、チャイムとともに誠も席に着いた。
急いで雑誌をカバンに押し込みながら、短期バイトかぁ、ちょっと面白そうだなと心躍らせたところで、長い授業が始まった。





窓ガラスの一件の後、俺は四条の怪我が心配で、化学室に顔を出した。

「し、失礼します……」

人の気配がなく、本当に誰かいるのか分からなくて、俺はゆっくりとドアを開ける。しんと静まり返った教室は本当に空っぽのような空間が広がっていた。
授業中はあんなに騒がしいのに、誰もいない化学室は不気味なほど静寂に包まれる。

「四条、いる?」

物音がしなかったから、俺はてっきり入れ違いになってしまったかもと、肩を落とす。
が、奥からガタガタと物音が響き、俺はそっとその部屋に近づき、四条の姿を見つけた。

「何、してんの?」
「探し物だ」

声だけで俺だと分かった四条は、振り向きもせず無数に積んであった段ボールを漁っている。
もちろん手には包帯が巻かれたままで。

「手、……大丈夫か?」

適当な椅子に腰かけて、俺は少しだけ気まずそうに声を出す。

「心配してくれるのか?」
「そりぁ、助けて……、もらったし……」
「心配するな、大したことはない」

まるで掠り傷とでもいうように、四条はクスッと微笑んだが、滴り落ちるほどに血が流れ、無数に傷がついていた。
跡が残らないとは言いきれない。

「大したことだろう!」

頭に血が上って、俺は勢いよく立ち上がっていた。
そうすれば、四条は手を止めてこちらにやってきた。

「お前は、自分のせいだと思っているんだろう」
「当たり前だろう!」

握りこぶしを作って、俺は唇を噛む。あの時、四条は俺を助けるために、ガラスを割った。
自分のせいで怪我をさせたと思って、何が悪いんだと、自然と睨み付けていた。
それを静かに見ていた四条は、ふわりと俺の手をとる。

「お前が傷つかなくて良かった」

なぜか、俺の心配をして来た。

「そういうこと言……」
「私にとって、悠太は大切な人だ。守りたいと思うのは至極当然のこと」
「……四条」
「悠太、私を選ばないか?」

ふんわりと手を包んで、四条は自分を好きになってほしいと見つめてきた。
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