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おまけ

おまけ『誕生日』

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可愛い、可愛い末っ子の誕生日がやってくる。
尚政と尚希は、毎年念入りに準備をするが、今年は尚希から共同プレゼントの申し出があった。

「ところで、何をプレゼントするつもりなんだ」
「尚ちゃんが、すっごく喜ぶものだよ」

一人嬉しそうにはしゃぐ尚希だが、尚政は弟が跳び跳ねて喜びそうなものが思い当たらず、首を傾げてみせる。
優しい末っ子は、何をプレゼントしてもいつも喜んでくれるが、子供のようにはしゃぐほど喜んでもらったことなどない。
夜はいつも豪華な料理を準備し、家族で祝うのが天王寺家流なのだが、子供たちも大きくなり、家族で揃うことが少なくなってしまっていた。
たが、今年は長男の都合が合い、久々に兄弟三人が揃う。

「俺の持ち分はいくらなんだ」

尚人にプレゼントする物の言い値を出すと言った尚政に、尚希はとあるチケットを渡す。
それは、天王寺グループ所有の会員制リゾートホテルの1日利用券、3名分。

「ここにサインしてくれば、OKだよ」

と、笑顔でペンを手渡してきた尚希は、料金は自分が払うと言った。
尚政のサインさえあれば、館内は全て無料。どこでも使いたい放題だからと付け加えられた。

「これがプレゼントなのか?」

あのホテルなら、尚人自身が行けば全て無料のはずなのに、なぜサインなんか? と、尚政は首を傾げる。しかも3名分というところに引っかかる。
だが、尚希は別の封筒を取り出すと、見せびらかすようにヒラヒラと動かす。

「プレゼントはこっち」
「手紙?」
「読んで」

にこやかに手渡された手紙をそっと開けば、一枚のカードが入っていた。



『◯日、午前9時50分
星音のプラネタリウム前にて、待つ』



「プラネタリウム?」
「これ、獲得するのに5日もかかったんだからね」

尚希は珍しく苦戦したと話したが、プラネタリウムくらい簡単に貸しきりにできるはずだろうと、尚政は不思議な顔をして見せた。
今年はプラネタリウムを使って、何か特別な演出をつもりなのかと、尚希に問えば、そんなんじゃ尚ちゃんは喜ばないよと返された。
そして、当日付き合ってとウインク。
夜は尚政と尚希で祝うから、朝だけでいいとも付け加えて。

「……ちゃんとこの目で確かめないと、ね」

ちょっと信用できないところがあるのだと、尚希は困った顔をして見せた。





誕生日当日。
私は尚希兄さんのコーディネートで、カードの指示に従って出掛けた。
プラネタリウムに何か仕掛けがしてあるものと思い、毎回素敵なプレゼントをくれる兄さんたちに感謝していた。
誕生日当日は、兄さんたちと過ごすとどこで耳にしたのか、姫からは昨日のうちに花束を貰った。それも薔薇の花束を。
私に似合う花は、薔薇しか思い付かなかったと、照れた姫が手渡ししてくれて、今その花束は大切に自室に飾ってある。
昨夜は枕元に置き、一晩中姫からのプレゼントの香りに包まれ幸せだったと思い出す。
9時42分、少し早いがプラネタリウムに到着し、車を降りると入り口まで歩く。

「天王寺っ」

その途中、名前を呼ばれ振り返れば、愛しの姫が走ってくるのが視界に入り、驚いて足を止めてしまう。

「姫?」
「これ」

明後日の方向を向いて手渡してきたのは、一枚の紙。
ゆっくりと開けば、

『デートプラン』

と、大きくかかれたタイトルと細かいプランが書かれていた。

「これは一体……?」
「お前のお兄さん二人からのプレゼント」
「それは、姫とデートできるということなのかっ」
「誕生日だから、今日だけ特別」

言い捨てた姫は、恥ずかしいのか顔を赤らめて、私の手を取ると館内に走る。



その頃、二人をこっそりと見ていた二人の兄は、にこやかに顔を合わせる。

「こういうことか」
「尚ちゃんが一番喜ぶプレゼントでしょ」
「確かに、これ以上のものはないな」
「それに、素敵な魔法つきなの」
「魔法?」
「姫ちゃん口説くのに、苦労したんだからぁ」

デートに魔法を加えるのに、めちゃめちゃ疲労したんだと、尚希はぐったりとしてみせたが、可愛い弟が喜んでくれればそれでいいと、二人は急いで帰ることにした。
今夜はご馳走。二人は何年ぶりかに手作りケーキを作る予定だからだ。





その頃、プラネタリウムに入った二人は、貸しきりの室内の中央に座り、照明が徐々に落ちると座席が倒れ、星空鑑賞を始めていた。
開始20分も過ぎた頃か、ふと手に温かいものが触れ、私は視線を手に向けて驚きのあまり、思わず声を漏らしそうになり、慌てて口を閉じていた。
それは、姫が私の手を握っていたからだ。
そっと顔を覗き見れば、頬が赤い。

「繋いでもよいか?」

重ねられた手に指を絡ませ、繋ぎたいと小声で申し出れば、姫は少しだけ私を見て、自ら手を繋いでくれた。
伝わる温もりが、私に幸福を運ぶ。
姫が優しい。



プラネタリウムで、最後まで手を繋いだままの鑑賞を終え、少し早いランチへと向かった。
お昼は高級中華。
店に到着すれば、尚希兄さんの計らいで個室へ通され、

『尚希さまより、お二人の妨げをなさらぬようにとの言付けを頂いておりますので、ご用の際はこちらのベルをご使用くださいませ』

整った制服と髪型の店員が、丁寧に頭を下げて退出。
料理は全てテーブルに用意されていた。
向かい合うように置いてある椅子を引き、腰かけようとした時、姫が突然椅子を持ち上げた。

「隣で食べてもいいか?」

可愛くそんなお願いをしてきた。
当然、そのような申し出を断るはずはない。

「よいに決まっておろう」

私が許可すれば、姫は笑顔で隣に座った。
どれもこれも美味しいと喜んで食べる姫を横に見ながら、私は祝福の時を過ごす。
しかし、幸福はそれだけではなかった。

「はい」

唐突に声をかけられ、差し出されたものに私は瞳を疑う。

「それは……」
「これ、美味しいぞ」

食べてみたら分かると、姫が私に箸で海老を差し出してきたのだ。
まさか、姫が私に食べさせてくれるというのか?!
あまりにも衝撃が強く、私はしばらく動きを止めてしまい、姫が困った顔をして箸を退こうとしていた。

「いただく」

急ぎ返答を返せば、姫が再度私に海老を。
口をわずかに開けば、姫が私の口に海老を運んだ。

「な、旨いだろう」

嬉しそうに私に海老を食べさせてくれた姫は、もっと食べるか? と問う。

「全部だ」
「全部って、お前……、もしかして全部食べさせてもらおうとか思ってる?」
「思っておる」

迷いなく言えば、姫は軽いため息を含ませながらも笑みをくれた。

「わかった。……今日だけだからな」

誕生日とはなんと素晴らしい日なのだと、私は今日この日に生まれたことを感謝する。
次々に口に運ばれる食事は、全て幸せの味がしていた。





食事を終え、次のプランの美術館に向かえば、やはり時間で貸しきりとなっており、手を繋ぎたいと申し出た私と手を繋いでくれた。
本日の姫は、驚くほど優しく、私を甘やかす。
出来ることなら、このまま連れ帰りたいと願ってしまう。
日暮れが近づき、海沿いの公園まで来ていた。
兄さんたちが与えてくれたタイムリミット間近。

「姫を帰したくない」

素直に述べてみた。
姫は困った顔をする。

「夜は兄さんたちと過ごす約束だろ」
「それは分かっておる、分かっておるのだ……」
「兄さんたちにも祝わせてやれよ」

誕生日を祝いたいのは、兄さんたちも一緒だと姫は言う。
公園の時計が時を刻みながら、刻一刻と時間を奪う。
日暮れと共に私の心も落ちて行く。
姫と向かい合い、私がわずかに目を伏せれば、時を知らせる音楽が流れた。

「天王寺」

不意に呼ばれ、私が視線をあげれば、姫が私の首に腕を回してきた。
そして、爪先立ちをすれば、私の唇にその愛らしい唇を寄せた。
甘い口づけ。

「姫」

と、短く名を呼べば、姫は頬を赤く染めて

『happy birthday 尚人』

はにかんだ可愛い笑顔でそう返された。





◆◆◆
「おかえり、尚ちゃん」
「おかえり、尚人」

家に戻れば、兄さんたちが出迎えてくれた。
私は二人に抱きつくように、両腕を兄さんたちの首に回す。

「私はなんと素晴らしい兄を持ったのだ」

二人を抱き抱えるように、私は思いっきり抱きついた。

「楽しかった?」

尚希に問われ、私は幸せすぎて倒れそうだったと答えた。

「尚人が喜んでくれたなら、それでいい」

尚政にいさんはとても喜ぶ私の髪を撫でてくれた。

「尚希兄さん、尚政兄さん、愛しておる」

素直にそう伝えれば、兄さんたちは私を抱き締め返してきた。





天王寺と別れた俺は、家に帰るなり母さんから一通の封筒を手渡された。

「めちゃめちゃカッコいいイケメンから、陸に渡してほしいって頼まれたんだけど……」
「ああ、あの人、天王寺の二番目のお兄さん」
「あら、天王寺さんの家はみんなカッコいいのね」

うっとりするように、今日来た尚希を思い出す母さんは、本当にかっこよかったと、頬に手を添える。
そりゃあ、モデルだもん、カッコいいだろうと思いつつも、俺は手渡された封筒を手に舞い上がる。
リゾートホテル1日使いたい放題。
天王寺の誕生日にデートして、甘やかしてくれたら、三人分用意すると提案されて、俺はしつこくデートを依頼してきていた尚希の依頼を引き受けた。
火月と水月と一緒に豪華なバカンス!
俺は大切なチケットをギュッと抱き締めた。


      おわり

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