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おまけ

2章のおまけ『学園祭』前編

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「一生のお願い!」

火月は両手を合わせて、俺に深々と頭をさげてきた。

「断るっ」
「陸ぅぅ~、そんなこと言うなよ」
「そもそも俺はサッカー部じゃないだろう……」

ため息を添えて、俺は必死にお願いする火月にそう言った。そもそも俺はほぼ天王寺のせいでサークルに入れていないんだ。
サークル巡りをしたことはあったけど、どこのサークルも俺のバックに天王寺が見え、入部をやんわりと断られた。
「君には向いてないよ」とか「こんなところ楽しくないから」とか、とにかくみんな苦い顔をして、俺を拒んだ。
たぶん、俺が入ったらもれなく天王寺も入部してくる、そうなれば活動がやりにくくなるだけでなく、天王寺に何かあってはいけないと、気を遣うことになり、俺に声をかけようものなら、触れようものなら、天王寺のお咎めがある。そんなところだ。
結局俺は青春を諦め、勉学に励むことを選択したのだった。

「1日だけでいい。これならどうだ」

火月の申し出を引き受けない俺に、妥協策を打ち出してきた。
で、さっきから何をお願いされているかというと、学園祭でサッカー部の催し物に参加してほしいというお願い。





この学園祭には全サークルが全力で取り組むほど、魅力的なご褒美が用意されている。
それは、人気第一位に選ばれたサークルには、要望を一つ無条件で叶えてもらえると言う特典があるのだ。もちろん学校が了承できる範囲内ではあるが。
よって、どこのサークルも学園祭に全力を尽くす。して今年のサッカー部の出し物はというと『イケメン&キレカワ喫茶』という、名前からしてしょうもないものだった。
サッカー部のイケメン男子が執事の恰好でウエイターをこなし、可愛い系男子はメイド服で可愛くウエイトレスを演じるというのだ。
とはいうものの、サッカー部に可愛い系男子が一人しか見つけられず、火月がどこにも所属してない俺に頼みに来たのがそもそもの話の始まり。
イケメン執事になり得る人材は5人も見出したのに、メイドが一人しか見つけられず、これではマズイと現在フリーの可愛い系男子を探しているらしい。

「……なあ、なんで俺なんだよ火月」
「だって、陸ってめちゃめちゃ似合いそうだから」
「それって俺に喧嘩売ってる?」

じと~と睨んでやれば、火月は慌てて後頭部を掻きむしった。

「頼むっ!」

火月は再度頭を下げて、3日間ある学園祭で1日だけでいいから助っ人に入ってくれとまた頭を下げた。しかも火月の口からとんでもない事実を告げられ、俺は目を見開いた。

「水月にも頼んだから」
「水月にも頼んだのかッ」

まさか俺だけじゃなく水月にもお願いしたと言った火月に、俺は怒りというよりは呆れの方が上回った。
水月のことだから、きっと断れずに引き受けたんだろうと思って、俺は普段火月にはお世話になっていることも考慮した上で、1日だけという条件付きで渋々引き受けた。





学園祭当日、天王寺と浅見はモラルを守れない生徒が毎年出るといい、生徒指導の先生たちと手分けして見回りに出るといい、俺と一緒に回れないと残念がっていたが、俺にとってはむしろ好都合。
例え1日だけだとしても、こんな格好見せる訳にはいかない。

「マジでこれ着るんだよな……」
「ねえ火月ちゃん、僕のだけなんか短くない?」

手渡された衣装を手に、俺は顔が引きつり、隣にいた水月は火月を睨んでいた。
そう、水月のメイド服だけミニスカートだったのだ。

「同じ衣装が人数分なくて、仕方なかったんだ。ごめん水月」
「ごめんって、これじゃ足丸出しなんだけどぉ」
「ニーハイとコレ用意したから、これで勘弁してくれ」

謝罪しながら、火月は真っ白なニーハイと、すごいボリュームのふわふわな白のような透明なようなスカートを水月に手渡す。

「何これ?」

ニーハイは分かるとして、もう一つはなんだろうと首を傾げた水月に、スカートの下に履くとそのフリルでいろいろ隠せると説明してくれた。
水月は深い深いため息をつきながら、着替えをはじめ、俺とサッカー部の小柄な男の子も一緒に着替えをはじめた。
3人は紺色に白のエプロンの典型的なメイド服に着替え、頭にもフリル付きのカチューシャを装備して、喫茶室に変わった教室へと出て行く。
会場にはすでに執事に扮したイケメンの姿があり、ウイッグをつけたり、眼鏡を着用したり、スーツのような衣装に身を包んだメンバーがいた。
それは男の俺から見ても見惚れてしまうほどカッコよかった。

「こっちこっち」

更衣室と楽屋のようになっている部屋から出てきた俺たちに気づいた火月が、手招きして呼んだ。

「すげー可愛いって。似合ってるぞ3人とも」
「火月ちゃん、それって褒めてないけど」

男が可愛いなんて言われて嬉しいわけがないんだ、俺たちは冷めた目で火月を見るが、その奥に化け物みたいなメイドを2名見つけて、俺たちは唖然と立ち尽くしてしまった。
そこにいた俺たちと同じ格好をした男たちは、アメフト部のようにガタイがよく、はち切れんばかりにメイド服を着こなして、豪快に笑っていた。

「ああ、あれはお笑い担当だ」
「……お笑いって」

火月が説明してくれたが、俺にはさっぱりわからず無意識に問い返していた。

「やっぱ、笑いも必要だってさ」

イケメンとキレカワ、笑い……、なんだかよく分からなかったが、俺と水月は乾いた笑いを浮かべた。
そして、みんなから「可愛い」と言われながら、俺たちも中心へと集まる。
自然と円陣のように輪が組まれ、キャプテンが静粛にとみんなを静かにさせる。

「去年は惜しくも3位という結果だったが、今年は1位だ!」


『おお──ッ!』


全員の声が重なり、気合十分で学園祭は開幕したのだった。
不慣れな接客だった俺たちも、一時間も経過すれば随分と慣れ、自然とこの状況を楽しみ始めていた。それに、口コミでサッカー部の出し物が面白いと人が人を呼んで、行列ができるほど繁盛していた。
女性はカッコいい執事目当てで、男性はほぼ冷やかしでやってくる。
喫茶店の話題はどんどん広がって、当然天王寺の耳にも入った訳で……。
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