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10章『恋慕編』
203「俺は怒ってんだぞ」
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人ひとり寝るには十分すぎる広さがある高級ソファ。
とりあえず毛布のようなものだけ用意してもらい、俺は熱に浮かされるアデルの傍につく。
「……っう」
薬が効いてきたのか、アデルは虚ろな瞳で目を覚ました。
「大丈夫か?」
「陸?」
「熱がある、今日はここで大人しく寝ろよ」
水を絞った布を額に乗せながら、俺は少し怒った声を出した。倒れるくらい体調悪いのに、無理やりこんなところまで来て、結局倒れて、俺は自己管理がなってないと、アデルを叱る。
「はは、……叱られるのは幾年ぶりか」
幼き頃に母に叱られた記憶が蘇り、アデルはなぜか微笑んだ。懐かしくて温かな記憶。
「笑い事じゃない。熱だって高いし……」
「……陸」
声を荒げて説教した俺に、アデルはそっと手を伸ばしてきた。思わず掴んでしまった俺に、アデルは笑みを返す。
「な、なんだよ……」
「陸が怒っている」
「当たり前だ! 高熱があるんだぞ、出歩いていい訳ないだろうっ」
汗ばむ額が、赤く染まる顔が、病を訴える。それなのに、俺のところに来てあげくぶっ倒れて、馬鹿なのかと叱りつけた。
一国の王子を怒鳴りつけるとか、この時の俺には全く頭になくて、つい普段通りに接してしまったんだけど、アデルは怒るどころか、ニヤニヤと嬉しそうに笑い出す。
「叱られているのに、嬉しいものだな」
今では叱ってくれるものなど、ほぼいない。逆らう者などいないと、僅かに瞼を伏せてアデルは、本気で心配してくれる姫木の姿に嬉しくて仕方なかった。
けれど、俺は怒っているのに嬉しいなどと言われて、ムッと腹を立てる。
「俺は怒ってんだぞ」
掴んだ手を強く握りしめて、怒ってるアピールをすれば、アデルが小さく「痛いぞ」と反論してきた。痛いように力いっぱい握り返しているんだから、当たり前だと更に言い返せば、嬉しそうな苦笑をされた。
「アデルっ」
「ああ、甘んじて受けるよ、陸。悪かった」
「だったら、大人しくしてろよ」
素直に謝罪したアデルは、そのまま眠ってくれるのかと思ったのだが、なぜかじっと見つめられた。
俺が掴んでしまった手は、いつのまにか掴まれる形になっていて、離してもらえなくなっていて……。
「俺の傍にいろ」
囁くような甘い声で言われた。
「熱が下がるまでだからな」
「添い寝はしてくれないのか?」
ぶわっと顔が熱くなった。こいつは、こいつは一体何を言い出すんだと、俺は思わず立ち上がった。
恥ずかしさのあまり、震えた唇を噛み締めて俺は俯く。
「陸?」
「するわけないだろう! 移ったらどうすんだよ」
たぶん風邪だと思うし、高熱にうなされたくないと俺が反論すれば、アデルはクスクスと笑い出す。
「それは、病気でなければ添い寝してくれるということか?」
「ばっ、……しない」
「そうか、それは残念だな」
「けど……、熱、下がるまでは傍にいるから……」
苦しかったら言えよと、小さく小さく言えば、アデルは掴んだ俺の手の甲に口を寄せて、熱い唇をそっと添えた。
「分かった、それまで傍にいてくれ」
細い声でそう口にしたアデルは、そのまま俺の手を掴んだまま静かに瞳を閉じた。荒い呼吸と浮かぶ汗が高熱を訴える。眠りについてしばらくすれば、俺の手はアデルから取り戻すことができ、額に乗せた布を新しい物へと代えてやる。
冷たい布に代えれば、それが気持ちいのかアデルの表情は穏やかになる。俺は、熱が引くまで一晩中、汗を拭ってやった。
とりあえず毛布のようなものだけ用意してもらい、俺は熱に浮かされるアデルの傍につく。
「……っう」
薬が効いてきたのか、アデルは虚ろな瞳で目を覚ました。
「大丈夫か?」
「陸?」
「熱がある、今日はここで大人しく寝ろよ」
水を絞った布を額に乗せながら、俺は少し怒った声を出した。倒れるくらい体調悪いのに、無理やりこんなところまで来て、結局倒れて、俺は自己管理がなってないと、アデルを叱る。
「はは、……叱られるのは幾年ぶりか」
幼き頃に母に叱られた記憶が蘇り、アデルはなぜか微笑んだ。懐かしくて温かな記憶。
「笑い事じゃない。熱だって高いし……」
「……陸」
声を荒げて説教した俺に、アデルはそっと手を伸ばしてきた。思わず掴んでしまった俺に、アデルは笑みを返す。
「な、なんだよ……」
「陸が怒っている」
「当たり前だ! 高熱があるんだぞ、出歩いていい訳ないだろうっ」
汗ばむ額が、赤く染まる顔が、病を訴える。それなのに、俺のところに来てあげくぶっ倒れて、馬鹿なのかと叱りつけた。
一国の王子を怒鳴りつけるとか、この時の俺には全く頭になくて、つい普段通りに接してしまったんだけど、アデルは怒るどころか、ニヤニヤと嬉しそうに笑い出す。
「叱られているのに、嬉しいものだな」
今では叱ってくれるものなど、ほぼいない。逆らう者などいないと、僅かに瞼を伏せてアデルは、本気で心配してくれる姫木の姿に嬉しくて仕方なかった。
けれど、俺は怒っているのに嬉しいなどと言われて、ムッと腹を立てる。
「俺は怒ってんだぞ」
掴んだ手を強く握りしめて、怒ってるアピールをすれば、アデルが小さく「痛いぞ」と反論してきた。痛いように力いっぱい握り返しているんだから、当たり前だと更に言い返せば、嬉しそうな苦笑をされた。
「アデルっ」
「ああ、甘んじて受けるよ、陸。悪かった」
「だったら、大人しくしてろよ」
素直に謝罪したアデルは、そのまま眠ってくれるのかと思ったのだが、なぜかじっと見つめられた。
俺が掴んでしまった手は、いつのまにか掴まれる形になっていて、離してもらえなくなっていて……。
「俺の傍にいろ」
囁くような甘い声で言われた。
「熱が下がるまでだからな」
「添い寝はしてくれないのか?」
ぶわっと顔が熱くなった。こいつは、こいつは一体何を言い出すんだと、俺は思わず立ち上がった。
恥ずかしさのあまり、震えた唇を噛み締めて俺は俯く。
「陸?」
「するわけないだろう! 移ったらどうすんだよ」
たぶん風邪だと思うし、高熱にうなされたくないと俺が反論すれば、アデルはクスクスと笑い出す。
「それは、病気でなければ添い寝してくれるということか?」
「ばっ、……しない」
「そうか、それは残念だな」
「けど……、熱、下がるまでは傍にいるから……」
苦しかったら言えよと、小さく小さく言えば、アデルは掴んだ俺の手の甲に口を寄せて、熱い唇をそっと添えた。
「分かった、それまで傍にいてくれ」
細い声でそう口にしたアデルは、そのまま俺の手を掴んだまま静かに瞳を閉じた。荒い呼吸と浮かぶ汗が高熱を訴える。眠りについてしばらくすれば、俺の手はアデルから取り戻すことができ、額に乗せた布を新しい物へと代えてやる。
冷たい布に代えれば、それが気持ちいのかアデルの表情は穏やかになる。俺は、熱が引くまで一晩中、汗を拭ってやった。
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