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10章『恋慕編』
185「友達だからな」
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いつもと同じ街なのに、アデルと過ごした時間は、すごく充実してて楽しかったと俺は笑う。初めて見るものに感動して大声上げたり、初めて食べる食べ物の食べ方が分からなくて変な食べ方をしたり、すぐどこかへ行っちゃたり、小さな子供を連れ回しているみたいで、大変だったけど、すごく楽しかったんだと伝えた。
「俺も人生で一番楽しい時間だった。……全部陸のおかげだ」
「俺は何もしてない。全部アデルがしたかったことだろう」
「俺の?」
「自由」
あれはアデルの自由だったんだと、俺はそれに付き合っただけだと言う。オレンジに染まる海が鮮やかに波打つ。
アデルは遠くを眺めて、また笑った。本当に楽しかったと、今日を振り返って。
「褒美は何がいい?」
命令通りに誘拐してくれたその褒美を与えると、アデルは俺を見た。
金でも物でも、土地でも、好きなものを与えると言い出したアデルに、俺は苦笑いしつつ、今日預かっていた財布を返した。
使った金額は大した額ではないが、今日俺が使った分が褒美でいいと。
するとアデルは驚いたように俺を見た。
「陸は欲がない」
「だったら、約束したい」
手を差し出して俺はそれを要求した。何を要求されたのかイマイチよくわからないアデルは、きょとんとしながらも手を出してくれた。
ゆっくりと差し出された手を掴むと、俺は硬く握手をする。
「今度来たときは、俺がちゃんと案内するから」
「案内……?」
「もっともっと楽しい事用意しておくよ」
「俺のためにか?」
「友達だからな」
俺たちは友達だろうって、俺は青春ドラマみたいな台詞を口にしていた。だってだって、アデルにはまだまだ知らないことがたくさんある、もっともっと楽しい事、美味しい事、驚いて欲しいって思っちゃったんだ。
今度来たときは絶対、もっと驚かせてやろうって。
「ふっ、陸は優しいんだな」
ホテルから抜け出す手助けを頼み、散々振り回したあげく、褒美もいらないと言う。その上、友達になってくれた。大きな瞳に映る自分を覗き込むように、アデルは陸に顔を寄せると、「約束しよう」と返す。
燃えるような夕日が水平線に沈んだ。
「お時間です」
黙って待っていたサンディスが、時を告げる。
「……陸?」
大人しく帰ろうとしたアデルは、俺を見て思わず足を止めた。
「ごめん……、行って」
こんな顔見せたくなくて、俺は背を向けた。なんだか無性に寂しくなって、俺はちょっとだけ泣いてしまっていた。涙もろいのはきっと母さん譲りだ。
「陸、顔見せて」
肩を掴まれ、正面を向かされた俺は、潤んだ瞳でアデルを見上げる。
「なんか、塩水が目に沁みたみたい……」
必死に言い訳を探す俺は、溢れた涙を拭うと、精一杯の笑顔を作った。また会えるって自分に言い聞かせて。
「陸……」
「ちゃんと笑顔で送るから……、もう行けよ」
約束の時間はもう過ぎてると、俺はアデルの背中を押すように、軽く背中を押す。一歩踏み出したアデルの背中。俺は「またな」と小さく声をかけた。
階段を下りていくアデルは、その途中でまた足を止めた。
「サンディス、俺は決めた」
何かを宣言するように、サンディスに強い言葉を掛けると、アデルは急ぎまた俺の元に戻ってきてしまっていた。
「ちょっ、アデル、何してんだ?!」
再び鐘の元に戻ってきたアデルを俺は驚愕してみると、腕を掴まれて身体を反転させられ、背後からアデルに腕を掴まれる状態になった。
「……うっ……っ」
それからすぐに俺は何か強い衝動を受け、視界が霞んだ。意識が遠のき、瞼がゆっくりと閉じ闇が訪れた。
項垂れた俺の身体をアデルは片腕で支えると、サンディスを見る。
「アデル様、何を……」
「陸を我が国に連れ帰る」
「アデル様」
「俺は陸が気に入った。至急身元を割り出し、しばらく借り受けることを家族に説明せよ」
そう命令したアデルは、俺の鞄をサンディスに投げ、そこから身元を調べるように指示を出す。鞄を受け取ったサンディスは、軽く頭を下げると「意のままに」とだけ告げ、鞄を大切に抱えた。
そして、アデルは意識を失わせた俺を仰向けに抱え直すと、唇を親指でなぞる。
「自国に戻るまで、目覚めさせるわけにはいかない」
「薬をご用意いたします」
再度頭を下げたサンディスは、アデルの申し出を受け入れながら、ホテルに戻るようにとそっと促す。
アデルは片腕で支えていた俺の背中に腕を回し、膝の後ろにも腕を差し込むと、そっと抱き上げる。
「可愛い陸。……お前を俺のモノにする」
どこか嬉しそうに口にしたアデルは、ぐっと俺を持ち上げると額にキスを落として、ホテルに戻るために車に乗り込んだ。
「俺も人生で一番楽しい時間だった。……全部陸のおかげだ」
「俺は何もしてない。全部アデルがしたかったことだろう」
「俺の?」
「自由」
あれはアデルの自由だったんだと、俺はそれに付き合っただけだと言う。オレンジに染まる海が鮮やかに波打つ。
アデルは遠くを眺めて、また笑った。本当に楽しかったと、今日を振り返って。
「褒美は何がいい?」
命令通りに誘拐してくれたその褒美を与えると、アデルは俺を見た。
金でも物でも、土地でも、好きなものを与えると言い出したアデルに、俺は苦笑いしつつ、今日預かっていた財布を返した。
使った金額は大した額ではないが、今日俺が使った分が褒美でいいと。
するとアデルは驚いたように俺を見た。
「陸は欲がない」
「だったら、約束したい」
手を差し出して俺はそれを要求した。何を要求されたのかイマイチよくわからないアデルは、きょとんとしながらも手を出してくれた。
ゆっくりと差し出された手を掴むと、俺は硬く握手をする。
「今度来たときは、俺がちゃんと案内するから」
「案内……?」
「もっともっと楽しい事用意しておくよ」
「俺のためにか?」
「友達だからな」
俺たちは友達だろうって、俺は青春ドラマみたいな台詞を口にしていた。だってだって、アデルにはまだまだ知らないことがたくさんある、もっともっと楽しい事、美味しい事、驚いて欲しいって思っちゃったんだ。
今度来たときは絶対、もっと驚かせてやろうって。
「ふっ、陸は優しいんだな」
ホテルから抜け出す手助けを頼み、散々振り回したあげく、褒美もいらないと言う。その上、友達になってくれた。大きな瞳に映る自分を覗き込むように、アデルは陸に顔を寄せると、「約束しよう」と返す。
燃えるような夕日が水平線に沈んだ。
「お時間です」
黙って待っていたサンディスが、時を告げる。
「……陸?」
大人しく帰ろうとしたアデルは、俺を見て思わず足を止めた。
「ごめん……、行って」
こんな顔見せたくなくて、俺は背を向けた。なんだか無性に寂しくなって、俺はちょっとだけ泣いてしまっていた。涙もろいのはきっと母さん譲りだ。
「陸、顔見せて」
肩を掴まれ、正面を向かされた俺は、潤んだ瞳でアデルを見上げる。
「なんか、塩水が目に沁みたみたい……」
必死に言い訳を探す俺は、溢れた涙を拭うと、精一杯の笑顔を作った。また会えるって自分に言い聞かせて。
「陸……」
「ちゃんと笑顔で送るから……、もう行けよ」
約束の時間はもう過ぎてると、俺はアデルの背中を押すように、軽く背中を押す。一歩踏み出したアデルの背中。俺は「またな」と小さく声をかけた。
階段を下りていくアデルは、その途中でまた足を止めた。
「サンディス、俺は決めた」
何かを宣言するように、サンディスに強い言葉を掛けると、アデルは急ぎまた俺の元に戻ってきてしまっていた。
「ちょっ、アデル、何してんだ?!」
再び鐘の元に戻ってきたアデルを俺は驚愕してみると、腕を掴まれて身体を反転させられ、背後からアデルに腕を掴まれる状態になった。
「……うっ……っ」
それからすぐに俺は何か強い衝動を受け、視界が霞んだ。意識が遠のき、瞼がゆっくりと閉じ闇が訪れた。
項垂れた俺の身体をアデルは片腕で支えると、サンディスを見る。
「アデル様、何を……」
「陸を我が国に連れ帰る」
「アデル様」
「俺は陸が気に入った。至急身元を割り出し、しばらく借り受けることを家族に説明せよ」
そう命令したアデルは、俺の鞄をサンディスに投げ、そこから身元を調べるように指示を出す。鞄を受け取ったサンディスは、軽く頭を下げると「意のままに」とだけ告げ、鞄を大切に抱えた。
そして、アデルは意識を失わせた俺を仰向けに抱え直すと、唇を親指でなぞる。
「自国に戻るまで、目覚めさせるわけにはいかない」
「薬をご用意いたします」
再度頭を下げたサンディスは、アデルの申し出を受け入れながら、ホテルに戻るようにとそっと促す。
アデルは片腕で支えていた俺の背中に腕を回し、膝の後ろにも腕を差し込むと、そっと抱き上げる。
「可愛い陸。……お前を俺のモノにする」
どこか嬉しそうに口にしたアデルは、ぐっと俺を持ち上げると額にキスを落として、ホテルに戻るために車に乗り込んだ。
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