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8章『星合編』
159「なぜ私の想いは砕かれるのだッ」
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「心臓が壊れてしまいそうなほど愛しておるのに、なぜ私は姫とおれぬのだ……」
「それは……」
「なにゆえ、姫を愛してはならぬのだ。……なぜ私の想いは砕かれるのだッ」
耳元に切ない大声が響き、俺は身体をビクリとさせた。
天王寺が声を詰まらせ、悲痛に泣き出す。
これほどまでに感情を素直に表したことなどない天王寺の姿に、会長は驚愕するとともに、これは現実なのかと、信じられない光景を目の当たりにし、言葉を失っていた。
俺は天王寺の涙を幾度か見たことはあったが、声をあげてこんなに切なく、苦しく泣く姿は見たことがない。
腕に置いた手でそっと撫でてやれば、もっと強く抱きしめられる。
「……くっ、う……愛しておる……、っ、姫の傍にいたい……」
嗚咽と共に天王寺の想いが言葉になる。
愛され過ぎだろう俺。どこまでも一途に、誰よりも愛してくれる天王寺に、俺は恥ずかしくも嬉しいと感じてしまう。大迷惑な恋ではあるが、今はそれが心地いいなんて、絶対に言ってやらないけど、俺も大概天王寺に甘くなってしまった。
「お前の想いはちゃんと届いてるよ」
そう、大好きだという気持ちはちゃんと俺に届いていて、俺はそれを受け入れていると伝える。
「っ、……姫、愛しておる……」
「俺も好きだよ」
「姫、姫ッ、……、私はそなたに愛されておるのか……」
「嫌いなら傍にいない」
俺がそう答えれば、天王寺の泣き声は一層深まった。
それは嬉しかったから。けど、それもここまで。
会長を怒らせて、天王寺が家を追い出されることだけはしてはいけない。
天王寺に普通の暮らしは似合わないし、できないし、尚政と尚希も悲しませることになる。
俺の役割はちゃんと知ってる。
「天王寺、放して」
優しく声をかけてみた。この腕を解いて欲しいと。
「放せば、姫は消えてしまうではないか」
「俺なんかのために、心を痛めなくていい」
時間はかかるかもしれないけど、いつか忘れられる。だから、俺なんかのために全てを捨てたりしてほしくないと、俺は抱きしめられる腕をそっと引き離そうと試みれば、天王寺の呻くような泣き声が増した。
「う、くっ……、私を捨て行くというのか」
天王寺を捨てて行ってしまうのか、そう問われた。愛していると、傍にいたいとどんなに願っても、語っても、俺に出てくのかと、天王寺は確かめる。
世の中には願っても叶わないことはたくさんある。長い人生のうちでこれもその一つだと、俺は天王寺の未来を願って頷いた。
だからもうこの腕を解いてくれと。
「――っ、私は望まぬ……、く、っ……そなたを想わぬ日など片時もなかった……」
「そうだな……、お前はいつも俺だけだったよ」
「姫を……、姫だけであるのだぞ……」
天王寺の心を奪ったのは、俺だと、泣きながら告白する。ほんと馬鹿だな、こんな俺のためにいつも心を痛めて、心配して、真っすぐに飛び込んできて、家族まで捨てようとするなんて。
俺はお前の重りにしかならない。
「今まで騙して悪かった。……俺の事なんかもう忘れろ」
全部、全部俺のせい。
「くぅ、っ……うぁッ、ァァァァァ――ッ!!」
騙していたと言葉を出せば、天王寺は一度唇を噛んでから、声を殺すことなく、嗚咽をエントランスに響き渡らせた。
「尚ちゃん……」
時が止められたように動けなかった尚希が、そっと天王寺に歩み寄ると、泣きじゃくる弟の柔らかい髪を撫でる。
それから、尚政もまた天王寺に歩み寄れば、ハンカチを手にして、溢れ出ていた涙を優しく拭う。
「尚人、もう泣かなくていい」
優しくて大人しかった弟が、感情のままに泣く姿を初めて見た。声をあげて泣くことができたのか、と、尚政も尚希も驚きつつも、天王寺に優しく手を伸ばす。
二人は顔を見合わせると、会長に向き合い、同時に深く頭を下げた。
「僕が仕組みました」
この件は、自分が仕組んだことだと尚希が話した。
「皆でお爺様を欺きました。よって罰は兄弟で受けます」
会長を怒らせた罪は兄弟にあると、処罰を考えるなら兄弟3人で受けると、尚政は覚悟を決めた。
「違いますっ、俺がみんなを騙していたんです」
俺が消えれば何の問題もないと、俺はとっさに叫んだ。けど、そんな俺の頭に尚希の手が乗った。
「これ以上、姫ちゃんに嘘は言わせられないよ」
「嘘じゃない……俺が……」
天王寺を騙した。そう叫びたかったのに、尚希の人差し指が俺の口に宛がわれ、黙ってと塞がれた。
「どのような罪も甘んじて受けますが、二人を引き離すようなことだけは、許さない。……例え、お爺様を敵に回したとしても」
鋭く光らせた瞳で、尚希は会長に俺たちの邪魔をすれば、敵とすると宣戦布告を口にした。
「……尚希、兄さん」
「姫ちゃんが一番だって知ってたのにね。……ごめんね尚ちゃん」
こんなに泣かせてしまって悪い兄さんだと、尚希は天王寺の目元を親指で拭うと、包み込むように優しい笑みを見せた。
「恩を仇で返すつもりはありませんが、尚人と姫木を裂くとおっしゃられるのなら、俺も尚希に賛同します」
「尚政兄さん……」
「お前の悲しむ姿を見たくないんだ、尚人」
尚政もまた、会長を敵に回しても構わないと言った。
二人から謝罪を受け、罪を受けると言われた会長だったが、様子がおかしかった。
「それは……」
「なにゆえ、姫を愛してはならぬのだ。……なぜ私の想いは砕かれるのだッ」
耳元に切ない大声が響き、俺は身体をビクリとさせた。
天王寺が声を詰まらせ、悲痛に泣き出す。
これほどまでに感情を素直に表したことなどない天王寺の姿に、会長は驚愕するとともに、これは現実なのかと、信じられない光景を目の当たりにし、言葉を失っていた。
俺は天王寺の涙を幾度か見たことはあったが、声をあげてこんなに切なく、苦しく泣く姿は見たことがない。
腕に置いた手でそっと撫でてやれば、もっと強く抱きしめられる。
「……くっ、う……愛しておる……、っ、姫の傍にいたい……」
嗚咽と共に天王寺の想いが言葉になる。
愛され過ぎだろう俺。どこまでも一途に、誰よりも愛してくれる天王寺に、俺は恥ずかしくも嬉しいと感じてしまう。大迷惑な恋ではあるが、今はそれが心地いいなんて、絶対に言ってやらないけど、俺も大概天王寺に甘くなってしまった。
「お前の想いはちゃんと届いてるよ」
そう、大好きだという気持ちはちゃんと俺に届いていて、俺はそれを受け入れていると伝える。
「っ、……姫、愛しておる……」
「俺も好きだよ」
「姫、姫ッ、……、私はそなたに愛されておるのか……」
「嫌いなら傍にいない」
俺がそう答えれば、天王寺の泣き声は一層深まった。
それは嬉しかったから。けど、それもここまで。
会長を怒らせて、天王寺が家を追い出されることだけはしてはいけない。
天王寺に普通の暮らしは似合わないし、できないし、尚政と尚希も悲しませることになる。
俺の役割はちゃんと知ってる。
「天王寺、放して」
優しく声をかけてみた。この腕を解いて欲しいと。
「放せば、姫は消えてしまうではないか」
「俺なんかのために、心を痛めなくていい」
時間はかかるかもしれないけど、いつか忘れられる。だから、俺なんかのために全てを捨てたりしてほしくないと、俺は抱きしめられる腕をそっと引き離そうと試みれば、天王寺の呻くような泣き声が増した。
「う、くっ……、私を捨て行くというのか」
天王寺を捨てて行ってしまうのか、そう問われた。愛していると、傍にいたいとどんなに願っても、語っても、俺に出てくのかと、天王寺は確かめる。
世の中には願っても叶わないことはたくさんある。長い人生のうちでこれもその一つだと、俺は天王寺の未来を願って頷いた。
だからもうこの腕を解いてくれと。
「――っ、私は望まぬ……、く、っ……そなたを想わぬ日など片時もなかった……」
「そうだな……、お前はいつも俺だけだったよ」
「姫を……、姫だけであるのだぞ……」
天王寺の心を奪ったのは、俺だと、泣きながら告白する。ほんと馬鹿だな、こんな俺のためにいつも心を痛めて、心配して、真っすぐに飛び込んできて、家族まで捨てようとするなんて。
俺はお前の重りにしかならない。
「今まで騙して悪かった。……俺の事なんかもう忘れろ」
全部、全部俺のせい。
「くぅ、っ……うぁッ、ァァァァァ――ッ!!」
騙していたと言葉を出せば、天王寺は一度唇を噛んでから、声を殺すことなく、嗚咽をエントランスに響き渡らせた。
「尚ちゃん……」
時が止められたように動けなかった尚希が、そっと天王寺に歩み寄ると、泣きじゃくる弟の柔らかい髪を撫でる。
それから、尚政もまた天王寺に歩み寄れば、ハンカチを手にして、溢れ出ていた涙を優しく拭う。
「尚人、もう泣かなくていい」
優しくて大人しかった弟が、感情のままに泣く姿を初めて見た。声をあげて泣くことができたのか、と、尚政も尚希も驚きつつも、天王寺に優しく手を伸ばす。
二人は顔を見合わせると、会長に向き合い、同時に深く頭を下げた。
「僕が仕組みました」
この件は、自分が仕組んだことだと尚希が話した。
「皆でお爺様を欺きました。よって罰は兄弟で受けます」
会長を怒らせた罪は兄弟にあると、処罰を考えるなら兄弟3人で受けると、尚政は覚悟を決めた。
「違いますっ、俺がみんなを騙していたんです」
俺が消えれば何の問題もないと、俺はとっさに叫んだ。けど、そんな俺の頭に尚希の手が乗った。
「これ以上、姫ちゃんに嘘は言わせられないよ」
「嘘じゃない……俺が……」
天王寺を騙した。そう叫びたかったのに、尚希の人差し指が俺の口に宛がわれ、黙ってと塞がれた。
「どのような罪も甘んじて受けますが、二人を引き離すようなことだけは、許さない。……例え、お爺様を敵に回したとしても」
鋭く光らせた瞳で、尚希は会長に俺たちの邪魔をすれば、敵とすると宣戦布告を口にした。
「……尚希、兄さん」
「姫ちゃんが一番だって知ってたのにね。……ごめんね尚ちゃん」
こんなに泣かせてしまって悪い兄さんだと、尚希は天王寺の目元を親指で拭うと、包み込むように優しい笑みを見せた。
「恩を仇で返すつもりはありませんが、尚人と姫木を裂くとおっしゃられるのなら、俺も尚希に賛同します」
「尚政兄さん……」
「お前の悲しむ姿を見たくないんだ、尚人」
尚政もまた、会長を敵に回しても構わないと言った。
二人から謝罪を受け、罪を受けると言われた会長だったが、様子がおかしかった。
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