150 / 268
7章『恋敵編』
147「そういう問題じゃないっ!」
しおりを挟む
「私の香りを姫に移したい。この香りが姫に移るまでは離さぬ」
「待て待て、お前の布団でなんか絶対しないからなっ」
こんなお前の香りしかしないところでなんてしたら、俺は完全に溺れちゃう。
「心配せずとも、乱暴にはせぬ」
「そういう問題じゃないっ!」
「さすれば、激しい方がよいと……」
「そうじゃねえ――!」
お前の耳はどうなってんだ、そう叫びたかった俺は迫る天王寺に必死に括られた腕を伸ばし突っぱねる。そういえばさっき、消毒がどうとかっていってたよな、つまり、高城に触られたのが気に入らないってことだろう。
だったら、さっきのキスで終わったはず。
「高城にはキスしかされてないって、ほんと」
だから、これ以上は嫌だと抵抗すれば、天王寺は眉間に皺を寄せて俺を覗き込んでくる。
「私にそれを証明できる証拠はあるのか」
「は、はい?」
「唇以外触られていないという証拠があるならば、今ここで見せてみよ」
真剣そのもので問われた言葉に、俺は何も言い返せなくなった。
そんな証拠あるわけない。そもそもそんなのどうやって証明するんだよ。なんで俺が高城となんか……。
何も言い返せなくなった俺を、天王寺は大きく誤解しくれた。
「やはり、何かあったのだな」
キス以外にも、身体を触られたと勘違いした天王寺の目が冷える。
詳細は身体に問うなどと、とんでもないことを言い出した天王寺に、俺は激しく抵抗。
「何もないってば。本当にキスだけ、悪かったってばぁ」
「その言葉、信じられぬ」
「信じろよ、高城とは何もないって……、っぁ、触んなっ」
身動きのとれない俺の胸に天王寺の手が滑る。
「ここに触れられたりしておらぬのか」
胸の飾りを掠めるように撫でた手が、俺の熱を煽る。
「嫌だッ、……ここは嫌だ。お前のベッドはやだって」
香りが全身に纏わりつく。天王寺に嗅覚まで犯されているみたいで、俺は快楽を引きずり出されるようなわずかに甘い香りに怖くなる。
「姫がそのように拒むのなら仕方あるまい、場所を変えるとしよう」
ベッドに拒絶を見せた俺を再び抱きかかえると、天王寺は広くて、深くて、大きなこれまた淡い緑のソファーへと俺を移動させた。
気にしたこともなかったが、天王寺はグリーンが好きなんだなぁ~、なんて、ぼんやり考えていたら、ソファに寝かせられ、天王寺はやっと俺の拘束を解いてくれた。
「ここならばよいか」
そっと尋ねられ、俺は思わず頷いてしまった。ベッドでもソファーでも、天王寺の好きにさせるなんて、ダメだろう俺。
だが、そう思った時はもう天王寺の濃厚な口づけを受け入れており、俺の抵抗は漏れる吐息で消えていた。
――――――
「なんで……」
構内で姫木を見つけた高城は、天王寺と歩く姿を見つけ足を止めた。
天王寺と姫木は別れたと思っていたのに、並んで歩く姿を目撃し、高城は顔色を白くし、奥歯を噛み締めた。
そんな高城に近づく男が一人。
「姫木には手を出すな」
それは刺すような忠告。
声がした方を見れば、中指で眼鏡を押し上げる顔立ちのいい男が立っていた。
「あんたは、浅見冬至也か」
「高御堂家の人間に名前を知られているなんて、光栄だな」
「天王寺家の影の実力者……」
「それは随分と高評価だな」
浅見家は代々秘書として仕えているだけだと、実力などないと浅見は苦笑してみせた。
「姫木先輩に近づくなっていうのは、忠告、それとも警告ですか」
ただの注意か、それとも脅しか、高城はそれを浅見に問う。それを聞いた浅見は、高城と距離を詰め小さく声を落とす。
「天王寺家を敵に回したくないなら、手を引けと言ったんだ」
「なぜですか、姫木先輩の家はごく普通の家庭ですよ」
「調べたのか? まあいい、姫木に手を出すことは、天王寺家を相手にするということだけ覚えておけ」
浅見はこれ以上姫木に関わるな、二人の仲を邪魔するようなことはするなと、警告する。
だが納得できない高城は、浅見に食って掛かる。
「何者なんですか、姫木先輩は」
もしかしたら自分のように身分を隠しているのかもしれないと、高城は姫木の存在に疑いの視線を向けた。
しかし、浅見は喉で笑うと、どこか楽しそうに表情を和らげた。
「尚人の一番で、そして天王寺家を驚かせた人物」
「天王寺家を?」
「姫木に何かあれば、おそらく天王寺家が黙っていない。それだけだ」
浅見はそう言い残して、そこを去った。
天王寺尚人という人物を恋に落として、感情を与えた唯一の人物、姫木陸。
しかも尚人は家族から愛されており、特に会長が溺愛している。その尚人を悲しませるようなことがあれば、恐らく天王寺家全員が黙っていない。どんな手も尽くすだろうことがわかるだけに、浅見は苦悩を覚える。
姫木は大人しく天王寺家に入るつもりはあるのかと、逃れられない運命に巻き込まれていることに気付いているのかと、姫木の将来と尚人の将来を案じて、浅見はただ一人深いため息を零した。
二人に幸あれと。
8章『星合編』へ続く。
「待て待て、お前の布団でなんか絶対しないからなっ」
こんなお前の香りしかしないところでなんてしたら、俺は完全に溺れちゃう。
「心配せずとも、乱暴にはせぬ」
「そういう問題じゃないっ!」
「さすれば、激しい方がよいと……」
「そうじゃねえ――!」
お前の耳はどうなってんだ、そう叫びたかった俺は迫る天王寺に必死に括られた腕を伸ばし突っぱねる。そういえばさっき、消毒がどうとかっていってたよな、つまり、高城に触られたのが気に入らないってことだろう。
だったら、さっきのキスで終わったはず。
「高城にはキスしかされてないって、ほんと」
だから、これ以上は嫌だと抵抗すれば、天王寺は眉間に皺を寄せて俺を覗き込んでくる。
「私にそれを証明できる証拠はあるのか」
「は、はい?」
「唇以外触られていないという証拠があるならば、今ここで見せてみよ」
真剣そのもので問われた言葉に、俺は何も言い返せなくなった。
そんな証拠あるわけない。そもそもそんなのどうやって証明するんだよ。なんで俺が高城となんか……。
何も言い返せなくなった俺を、天王寺は大きく誤解しくれた。
「やはり、何かあったのだな」
キス以外にも、身体を触られたと勘違いした天王寺の目が冷える。
詳細は身体に問うなどと、とんでもないことを言い出した天王寺に、俺は激しく抵抗。
「何もないってば。本当にキスだけ、悪かったってばぁ」
「その言葉、信じられぬ」
「信じろよ、高城とは何もないって……、っぁ、触んなっ」
身動きのとれない俺の胸に天王寺の手が滑る。
「ここに触れられたりしておらぬのか」
胸の飾りを掠めるように撫でた手が、俺の熱を煽る。
「嫌だッ、……ここは嫌だ。お前のベッドはやだって」
香りが全身に纏わりつく。天王寺に嗅覚まで犯されているみたいで、俺は快楽を引きずり出されるようなわずかに甘い香りに怖くなる。
「姫がそのように拒むのなら仕方あるまい、場所を変えるとしよう」
ベッドに拒絶を見せた俺を再び抱きかかえると、天王寺は広くて、深くて、大きなこれまた淡い緑のソファーへと俺を移動させた。
気にしたこともなかったが、天王寺はグリーンが好きなんだなぁ~、なんて、ぼんやり考えていたら、ソファに寝かせられ、天王寺はやっと俺の拘束を解いてくれた。
「ここならばよいか」
そっと尋ねられ、俺は思わず頷いてしまった。ベッドでもソファーでも、天王寺の好きにさせるなんて、ダメだろう俺。
だが、そう思った時はもう天王寺の濃厚な口づけを受け入れており、俺の抵抗は漏れる吐息で消えていた。
――――――
「なんで……」
構内で姫木を見つけた高城は、天王寺と歩く姿を見つけ足を止めた。
天王寺と姫木は別れたと思っていたのに、並んで歩く姿を目撃し、高城は顔色を白くし、奥歯を噛み締めた。
そんな高城に近づく男が一人。
「姫木には手を出すな」
それは刺すような忠告。
声がした方を見れば、中指で眼鏡を押し上げる顔立ちのいい男が立っていた。
「あんたは、浅見冬至也か」
「高御堂家の人間に名前を知られているなんて、光栄だな」
「天王寺家の影の実力者……」
「それは随分と高評価だな」
浅見家は代々秘書として仕えているだけだと、実力などないと浅見は苦笑してみせた。
「姫木先輩に近づくなっていうのは、忠告、それとも警告ですか」
ただの注意か、それとも脅しか、高城はそれを浅見に問う。それを聞いた浅見は、高城と距離を詰め小さく声を落とす。
「天王寺家を敵に回したくないなら、手を引けと言ったんだ」
「なぜですか、姫木先輩の家はごく普通の家庭ですよ」
「調べたのか? まあいい、姫木に手を出すことは、天王寺家を相手にするということだけ覚えておけ」
浅見はこれ以上姫木に関わるな、二人の仲を邪魔するようなことはするなと、警告する。
だが納得できない高城は、浅見に食って掛かる。
「何者なんですか、姫木先輩は」
もしかしたら自分のように身分を隠しているのかもしれないと、高城は姫木の存在に疑いの視線を向けた。
しかし、浅見は喉で笑うと、どこか楽しそうに表情を和らげた。
「尚人の一番で、そして天王寺家を驚かせた人物」
「天王寺家を?」
「姫木に何かあれば、おそらく天王寺家が黙っていない。それだけだ」
浅見はそう言い残して、そこを去った。
天王寺尚人という人物を恋に落として、感情を与えた唯一の人物、姫木陸。
しかも尚人は家族から愛されており、特に会長が溺愛している。その尚人を悲しませるようなことがあれば、恐らく天王寺家全員が黙っていない。どんな手も尽くすだろうことがわかるだけに、浅見は苦悩を覚える。
姫木は大人しく天王寺家に入るつもりはあるのかと、逃れられない運命に巻き込まれていることに気付いているのかと、姫木の将来と尚人の将来を案じて、浅見はただ一人深いため息を零した。
二人に幸あれと。
8章『星合編』へ続く。
10
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる