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7章『恋敵編』

131「やっぱり姫木先輩が好きです」

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祝日。
そこはたくさんの人でごった返していて、3つもある会場からも人が溢れていた。
来ないつもりだったのに、俺は高城の試合を見学に来てしまっていた。


『応援は何よりも力になる』


その言葉が忘れられなかったんだ。こっそり見て帰ろうと思ったんだけど、考えていたより人が多く、会場も広く、俺は途方に暮れ、なんとか会場スタッフを捕まえて、高城学という選手を探していると尋ねれば、少し驚いた顔をされ、もうすぐ右側の会場で試合が始まると教えてもらい、俺はお礼をいって慌てて会場へと入った。
そこはもう身動きが取れないほど人で溢れていて、高城の応援団が大弾幕を張って応援していた。

「あれ全部高城の応援なのか……」

てっきり友達数人程度の応援だけかと思っていただけに、ものすごい数の応援団に俺はたじろぐ。
しかも、老若男女問わず高城の応援をしている。
背の低い俺は会場が見たくて、人を掻き分けて前に前に進んでみる。
パアッと視界が開ければ、試合会場が広がった。丁度試合が始まるところで、高城と相手が竹刀を構えて向き合っていた。
凛とした空気が辺りに張り巡らされ、会場内は静まり返る。


『はじめッ!』


試合開始の合図が下され、互いは間合いを取りながら、様子を伺っているようだった。
剣道のルールなんか知らないが、満ちる緊張感に喉がなる。
仕掛けたのは高城。一瞬の隙をついて竹刀が相手に当たる。
会場が一気に盛り上がる。試合は三本勝負だったが、高城が二本とって勝利した。
すると、会場の盛り上がりはピークを迎え、歓声で何も聞こえなくなった。
俺は初めて見た剣道に圧倒され、呆然と立ち尽くしていたが、隣にいたおじさんが俺の手を掴んできた。

「さすがじゃな、高ちゃんはヒーローじゃ」

飛び跳ねる勢いで喜ぶおじさんに、俺もなんだか嬉しくなって、

「高城ぉぉ~~!」

って、叫んじゃったんだ。
この歓声でかき消されるかと思ったんだけど、面をとった高城がこっちを向く。
そして、

「姫木先輩ぃぃ~~~」

と叫びながら走ってくると、その勢いのまま俺に抱きついた。

「う゛っ……」
「来てくれたんですね、俺超~嬉しいです」
「あ、いや、これはだな……」

こっそり見て帰るつもりが、完全に見つかってしまった。俺はどうしようと困惑したが、高城はギュウギュウと抱きしめてくる。

「そういう優しいところ、俺好きです」

来ないと言いながらも、来てくれたことが嬉しいと、高城はめちゃめちゃ喜んでくれて、だから俺も悪い気はしなくて。

「おめでとう」

試合に勝ったことを素直に褒めた。

「ありがとうございます。次、決勝なんで絶対勝ちます」

俺のために優勝すると、高城は恥ずかしげもなく耳打ちしてきた。
それを見ていた周りも高城に集まってきて、

「高ちゃん、頑張ってね」
「また腕をあげたな」
「高城君、次も頑張ってね」
「ほれ、差し入れ」
「負けんなよ」

次々に声をかけられ、高城は笑顔で「今日は負ける気しない」と、俺を抱き寄せ、

「勝利の女神がいるからな」

と、なぜか俺を見た。
決勝戦はあの後、30分後に行われ、予告通り高城は優勝した。
で、初めて知ったんだけど、高城の優勝はこれで4度目。
どういうことかというと、高城は剣道の道で知らない人はいないほど有名で、凄腕の持ち主だったという事。
全国制覇もしているとのこと。俺はなんだか騙された気分のまま、現在高城と帰宅中だ。

「そんなに怒らないでくださいよぉ、姫木先輩」
「お前がそんなに強いなら、行かなくても良かったよな」

目を細めて睨んでやれば、高城は申し訳なさそうに後頭部をかく。

「勝負の世界は、いつだって真剣なんですよ。姫木先輩が来てくれなかったら、俺負けてたかもしれないじゃないですか」

勝負だって時の運なんだと、高城は必死に説明する。

「ご飯奢りますから、機嫌直しません?」
「断る」
「あ、それとも何かしてほしいこととかあります」
「ない」

そっけなく返事をすれば、高城は慌てて俺の前に立ちはだかる。

「本当に嬉しかったですよ」

急に真剣な眼差しになった高城は、茶化した感じもなく、真っすぐに俺を見てきた。
応援に来てくれたこと、本気で嬉しくて絶対負けられないって思ったと。
正面に立った高城は、「好きな人が応援してくれるのが、一番嬉しいし、力になる」と話した。
確かにあんなに喜んでくれるとは思わなかったから、俺もちょっと嬉しかったけど。

「もう怒ってない。優勝おめでとうな」

機嫌は直ったと、優勝は優勝だ、素直にお祝いを口にしたんだけど、高城の視線は真面目なままで、じっと俺を見つめてくる。

「高城、どうかしたのか?」
「俺、やっぱり姫木先輩が好きです」
「俺もお前の事、嫌いじゃないって」

普通に友達感覚で嫌いじゃないといえば、高城はなぜか俺の両腕を掴んできた。
そして、高城の顔が徐々に近づき、唇に少し硬い感触が押し付けられた。
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