129 / 268
7章『恋敵編』
126「可愛すぎるのが罪なのだ」
しおりを挟む
それを聞いた天王寺は、思いつめたようにどこかを見ていた。
(もしや、バイト先の姫の姿が可愛く惚れたと申すのか……)
「可能性はなくはないが……」
ぶつぶつと何かを言いながら、天王寺は顎に手を添え、さらに悩む。
(ならば、他にも姫に惚れた者がおるやもしれぬということではないか)
「……どれほど可愛いと申すのだ」
見たものを魅了する姿なのではないかと、勝手な妄想を描いた天王寺は、ガシッと俺の肩を掴むと、真剣な表情で見つめてきた。
「えっと……」
「私もバイト先とやらに出向く」
「は? ダメだって言っただろう」
絶対仕事の邪魔をすると分かっているからこそ、俺は断固として拒否するが、天王寺は逃さぬように強く肩を掴むと、眉間に皺を作る。
「あの者は良くて、なぜ私は拒むのだ」
「高城はたまたま来ただけで……」
「では、私も偶然を装えばよいと」
「だからそういうことじゃなくてだな」
100%邪魔されるって確信が持てるからダメなんだ、と、言いたい気持ちを抑えながら、俺は必死に断る。それを言ったところで、きっと天王寺には通じないし、伝わらないとはっきり分かっているからだ。
とにかく思考回路が普通じゃない天王寺を説得するのは、俺には不可能だってこと。
つまり、この状況でもそれは適用するわけで……。
「よもや、あの者とそこで逢瀬をしておるのかっ」
妄想は俺の想定を超えていく。
「昨日が初対面だ」
「ならば今後、そこで会う約束をしておるのだな」
「してない!」
「疚しいことがないのであれば、私が訪れても問題ないではないか」
結局そこへ繋がる。どうあっても邪魔するつもりなのかと、俺もつい声を荒げてしまう。
「お前はダメだ」
勢いに任せて言ってしまった言葉に、俺は背筋に冷たい汗が走る。これじゃあ、高城はよくて天王寺はダメだと言っているようなものだと。
当然、天王寺の顔が強張る。
「それは、……」
「来ていい。絶対邪魔しないって約束するならいいから」
温度が氷点下まで下がる前に、俺は慌てて取り繕う。こうなったら腹くくるしかないだろう。相手は天王寺だ、怒らせたら何されるか分かんないんだってば。
「姫っ」
会いに来てもいいと許可すれば、天王寺の表情は一変して嬉しそうに緩み、俺を抱きしめてきた。そんなに嬉しいものなのか? そこは疑問だが、機嫌が直ったことは間違いない。
乾いた笑いを薄くしながら、俺は好きなだけ抱きしめさせていたが、突然足が宙に浮いて、俺は慌てて天王寺にしがみつく。
何が起こったのかと見れば、天王寺が俺を横抱きしていた。
「何してんだよ」
「姫は隙が多すぎるのだ」
こんなにも簡単に抱き上げられてしまうと、天王寺は少々困ったように俺に言う。それから「誰かに連れ去られてしまう」と心配し、あろうことか俺の額にキスをした。
確認のために言っておくが、ここは学校の敷地内で、外。
「降ろせぇ~。俺には羞恥心ってもんがあるんだ」
お前みたいに恥ずかしいことを平気で言えて、出来る人間じゃないと、俺は暴れてみたが、天王寺はがっしりと俺を抱えて離さない。
「あの者に隙を見せた罰は受けてもらう」
そう言い放った天王寺は、クルリと向きを変えて校舎に向かって歩き出す。
罰ってなんだよ、俺なんかした?
「ちょ、天王寺! 罰って……」
「口づけを許すとは、許しがたいことよ」
真っすぐ正面を向いて歩く天王寺の眉間に皺が見えた。
もしかして高城が頬にキスしたことを怒ってる? 不可抗力、不可抗力、なんで俺が罰を受けなきゃいけないんだ。
「俺は悪くないだろう、あいつが勝手に……」
理不尽にもほどがあると、俺は天王寺の腕から逃げようとしたが、グッと顔を近づけられゴクリと息を飲む。
「隙を見せたであろう」
「……見せてないって」
「それならば、なぜ口づけを許したと」
「許してない。……俺も驚いたんだよ」
男の俺が男から頬にキスされるなんて、普通考えもしないだろうって。完全に不意打ちだったと天王寺に言えば、なぜか天王寺の機嫌が悪くなった。
睨まれるように瞳が細められ、そのまま唇に温かいものが。
「……んっ」
強引に押し付けてきた唇は、深く重なるまで押し当てられ、そのまま離れていく。
許可なくキスしてきたくせに、天王寺の表情は険しいまま。
「そなたが悪い」
結局俺が悪いと決めつけられ、俺は頬を膨らませる。
「なんで俺が悪いんだよ。何もしてねえだろうがっ」
「可愛すぎるのが罪なのだ」
「……」
唖然。
「姫の愛らしさに魅了されるものが、後を絶たぬ」
これは由々しき事態だと、天王寺は一人悩み、勝手に奮闘する。
「ボディーガードをつけるべきか、いや、私の傍に置くのが適切か……、それよりも……」
危険な妄想と解決策が駄々洩れ状態のまま、俺は特別生徒室まで連行。
「離せぇぇぇ~!」
家に帰るんだと叫ぶ俺の声は、特別生徒室の扉が閉まるまで響き渡った。
(もしや、バイト先の姫の姿が可愛く惚れたと申すのか……)
「可能性はなくはないが……」
ぶつぶつと何かを言いながら、天王寺は顎に手を添え、さらに悩む。
(ならば、他にも姫に惚れた者がおるやもしれぬということではないか)
「……どれほど可愛いと申すのだ」
見たものを魅了する姿なのではないかと、勝手な妄想を描いた天王寺は、ガシッと俺の肩を掴むと、真剣な表情で見つめてきた。
「えっと……」
「私もバイト先とやらに出向く」
「は? ダメだって言っただろう」
絶対仕事の邪魔をすると分かっているからこそ、俺は断固として拒否するが、天王寺は逃さぬように強く肩を掴むと、眉間に皺を作る。
「あの者は良くて、なぜ私は拒むのだ」
「高城はたまたま来ただけで……」
「では、私も偶然を装えばよいと」
「だからそういうことじゃなくてだな」
100%邪魔されるって確信が持てるからダメなんだ、と、言いたい気持ちを抑えながら、俺は必死に断る。それを言ったところで、きっと天王寺には通じないし、伝わらないとはっきり分かっているからだ。
とにかく思考回路が普通じゃない天王寺を説得するのは、俺には不可能だってこと。
つまり、この状況でもそれは適用するわけで……。
「よもや、あの者とそこで逢瀬をしておるのかっ」
妄想は俺の想定を超えていく。
「昨日が初対面だ」
「ならば今後、そこで会う約束をしておるのだな」
「してない!」
「疚しいことがないのであれば、私が訪れても問題ないではないか」
結局そこへ繋がる。どうあっても邪魔するつもりなのかと、俺もつい声を荒げてしまう。
「お前はダメだ」
勢いに任せて言ってしまった言葉に、俺は背筋に冷たい汗が走る。これじゃあ、高城はよくて天王寺はダメだと言っているようなものだと。
当然、天王寺の顔が強張る。
「それは、……」
「来ていい。絶対邪魔しないって約束するならいいから」
温度が氷点下まで下がる前に、俺は慌てて取り繕う。こうなったら腹くくるしかないだろう。相手は天王寺だ、怒らせたら何されるか分かんないんだってば。
「姫っ」
会いに来てもいいと許可すれば、天王寺の表情は一変して嬉しそうに緩み、俺を抱きしめてきた。そんなに嬉しいものなのか? そこは疑問だが、機嫌が直ったことは間違いない。
乾いた笑いを薄くしながら、俺は好きなだけ抱きしめさせていたが、突然足が宙に浮いて、俺は慌てて天王寺にしがみつく。
何が起こったのかと見れば、天王寺が俺を横抱きしていた。
「何してんだよ」
「姫は隙が多すぎるのだ」
こんなにも簡単に抱き上げられてしまうと、天王寺は少々困ったように俺に言う。それから「誰かに連れ去られてしまう」と心配し、あろうことか俺の額にキスをした。
確認のために言っておくが、ここは学校の敷地内で、外。
「降ろせぇ~。俺には羞恥心ってもんがあるんだ」
お前みたいに恥ずかしいことを平気で言えて、出来る人間じゃないと、俺は暴れてみたが、天王寺はがっしりと俺を抱えて離さない。
「あの者に隙を見せた罰は受けてもらう」
そう言い放った天王寺は、クルリと向きを変えて校舎に向かって歩き出す。
罰ってなんだよ、俺なんかした?
「ちょ、天王寺! 罰って……」
「口づけを許すとは、許しがたいことよ」
真っすぐ正面を向いて歩く天王寺の眉間に皺が見えた。
もしかして高城が頬にキスしたことを怒ってる? 不可抗力、不可抗力、なんで俺が罰を受けなきゃいけないんだ。
「俺は悪くないだろう、あいつが勝手に……」
理不尽にもほどがあると、俺は天王寺の腕から逃げようとしたが、グッと顔を近づけられゴクリと息を飲む。
「隙を見せたであろう」
「……見せてないって」
「それならば、なぜ口づけを許したと」
「許してない。……俺も驚いたんだよ」
男の俺が男から頬にキスされるなんて、普通考えもしないだろうって。完全に不意打ちだったと天王寺に言えば、なぜか天王寺の機嫌が悪くなった。
睨まれるように瞳が細められ、そのまま唇に温かいものが。
「……んっ」
強引に押し付けてきた唇は、深く重なるまで押し当てられ、そのまま離れていく。
許可なくキスしてきたくせに、天王寺の表情は険しいまま。
「そなたが悪い」
結局俺が悪いと決めつけられ、俺は頬を膨らませる。
「なんで俺が悪いんだよ。何もしてねえだろうがっ」
「可愛すぎるのが罪なのだ」
「……」
唖然。
「姫の愛らしさに魅了されるものが、後を絶たぬ」
これは由々しき事態だと、天王寺は一人悩み、勝手に奮闘する。
「ボディーガードをつけるべきか、いや、私の傍に置くのが適切か……、それよりも……」
危険な妄想と解決策が駄々洩れ状態のまま、俺は特別生徒室まで連行。
「離せぇぇぇ~!」
家に帰るんだと叫ぶ俺の声は、特別生徒室の扉が閉まるまで響き渡った。
10
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる