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5章『偏愛編』
97「困ったなぁ」
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……ええっと、ここってパーカーとかで入っても大丈夫なのか?
入り口には背広を優雅に着こなした店員が立ち、煌びやかな店内には宝石やらバッグやら、時計なんかも置いてあるけど、ほとんどがガラスケースに厳重保管されており、ここって博物館かな、なんて品のないジョークが頭を過った。
「天王寺尚希様、お待ちしておりました」
紳士な男性が礼儀正しい礼をしながら、尚希を迎えた。
「……あれ、姫ちゃん。何してるの?」
「俺、外で待ってますから」
扉を開けて俺が入店するのを待っていてくれる店員さんには悪いけど、とてもこんな普段着じゃ入れないって。俺は回れ右をして外へと出る。
すると、慌てて尚希が店の外に追いかけてきて、俺の肩を背後から両手で掴む。
「待つなら店内で待ってて」
「いや、俺にはちょっと高価すぎて……」
「大丈夫だって、普通のお店だから」
普通って、どこのどこら辺ですかっ。内心でツッコミながら俺は全身で入店を拒否する。
「すぐそこにいますからぁ~」
「だったら店内でいいでしょう」
尚希はそう言いながら、俺をどんどん店の中へ押し込んでいく。そんな二人のやり取りを見ていた店員は苦笑いをしていた。
結局無理やり店内に押し込められてしまった俺は、高価なテーブルへ案内され、紅茶を振舞われた。全部が全部高価すぎて、俺はガチガチの緊張で固まってしまった。
尚希はといえば、頼んでおいた商品を見てくるからと奥へ行ってしまったのだ。
周りをチラッと見れば、値札のゼロの数が明らかに多い。というか、数えないと分からないレベルで多すぎる。
おまけに学生丸出し感の俺には不釣り合いすぎて、完全に浮いていた。
1分が数十分にも感じられながら、俺はただ大人しく尚希を待つのみ。
「お待たせ」
しばらくして尚希が小さな袋を手にもって現れた。どうやら何か買ったみたいだけど、俺は1分でも一秒でも早くここから出たくて、無意識に尚希の手を掴んで店の外へと歩き出していた。
「恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」
茶化しながらも尚希は俺に引かれるままついてきてくれた。
それから他にもお店を転々と見て回り、夕暮れ間近になる頃、尚希はとっておきの公園へ行こうと俺を誘った。
どうやら彼女はまだ諦めていないようで、尚希は小さくため息をついていた。
おまけに天王寺も相変わらず尾行を続けており、俺も小さなため息をつく。
賑やかな街並みを後ろに、俺は尚希に連れられるままどんどん人気のない方へと歩かされた。前方にたくさんの緑が見え始め、都会のオアシスともいうべき場所へ向かっているんだと察したが、たぶん到着する頃は陽も暮れるだろうと思った。
徐々に暗くなる景色の中、尚希はさっきから黙ったままただ俺の手を引いていた。
「ん~、困ったなぁ……」
不意に尚希の声がした。それは何かを悩んでいるかのような声。
もうすぐデートが終わるはずなのに、彼女を諦めさせることができていないことへの悩み。
彼女がまだついてくるということは、諦める域に達していないことを意味し、このままじゃ諦めてもらえないと尚希は悩んでいた。
いつもより割増しでイチャイチャしてみたはずだったんだけど、それは普段の尚希の行動に毛が生えた程度だったかもしれないと、少しの後悔を含ませた。
普段から誰にでもあんな感じで接している尚希は、自分のチャラさを少しだけ反省することになった。
「何か、決定的なものがないとダメ……ってことだよね」
「尚希さん?」
「ごめんね、独り言。それよりもうすぐ着くよ」
そう言った尚希が向かうのは、厳重に木の塀で囲まれた場所。何かの保護区なのか、公園には入り口が設置されており、入園料をとっているようだった。
そして、そのすぐ隣には小さな小屋のようなものがあり、警備員が配備されていた。公園の案内板には営業時間が記載されており、とっくに開園時間を過ぎていた。
だが、尚希は構うことなく警備員のいる小屋へと向かう。
「天王寺尚希様、お待ちしておりました」
「僕たちの他に後二人、公園に入るけど見逃してあげてね」
「承知いたしました。4名入ったところで警備を開始いたします」
「ありがとう。それじゃあ、行こうか姫ちゃん」
「えっと……」
「心配ないよ、ここは天王寺家の公園だから」
軽くウインクを返しながら、尚希は公園の入り口を俺の手を引いて潜る。って、天王寺家の公園ってなに? なに? どういうことですか? と、俺は何がなんだかさっぱりわからないまま、口を半開きにしてしまっていた。
「ちょっと尚希さん、ここって……」
「お爺様の趣味で造った庭なの。貴重な植物とかが植えられててね、四季折々の綺麗な風景を見せてくれるんだよ」
「庭?」
「そう、元々はお爺様がご自分で楽しんでいただけなんだけど、綺麗な植物たちを独り占めするのは勿体ないって、有料で解放したんだ」
尚希は、入園料は公園の整備に当てられていると説明を加えてくれたが、趣味だけで都会にこんな広い庭を造るってお爺様って、マジでヤバい人なんじゃないかと、冷や汗が止まらなくなった。
つまり、時間外に入っているという事は、今この公園は貸し切り中。
きっと素敵な庭なんだろうけど、今は夜の闇に隠れてよくわからなかった。それでも公園内にはところどころに明かりが灯っており、遊歩道もしっかり整備されており、散策するのには問題はなく、尚希は俺を連れて近くの東屋に入った。
「日中なら、花と緑と空のコントラストがすごく綺麗だから、今度見においで」
「はい、ぜひ来ます……っ」
尚希にそう誘われ、俺が返事を返すと手を引かれ突然抱きしめられた。そしてそのまま俺は東屋の真ん中にある太い柱に背中を押し当てられた。
入り口には背広を優雅に着こなした店員が立ち、煌びやかな店内には宝石やらバッグやら、時計なんかも置いてあるけど、ほとんどがガラスケースに厳重保管されており、ここって博物館かな、なんて品のないジョークが頭を過った。
「天王寺尚希様、お待ちしておりました」
紳士な男性が礼儀正しい礼をしながら、尚希を迎えた。
「……あれ、姫ちゃん。何してるの?」
「俺、外で待ってますから」
扉を開けて俺が入店するのを待っていてくれる店員さんには悪いけど、とてもこんな普段着じゃ入れないって。俺は回れ右をして外へと出る。
すると、慌てて尚希が店の外に追いかけてきて、俺の肩を背後から両手で掴む。
「待つなら店内で待ってて」
「いや、俺にはちょっと高価すぎて……」
「大丈夫だって、普通のお店だから」
普通って、どこのどこら辺ですかっ。内心でツッコミながら俺は全身で入店を拒否する。
「すぐそこにいますからぁ~」
「だったら店内でいいでしょう」
尚希はそう言いながら、俺をどんどん店の中へ押し込んでいく。そんな二人のやり取りを見ていた店員は苦笑いをしていた。
結局無理やり店内に押し込められてしまった俺は、高価なテーブルへ案内され、紅茶を振舞われた。全部が全部高価すぎて、俺はガチガチの緊張で固まってしまった。
尚希はといえば、頼んでおいた商品を見てくるからと奥へ行ってしまったのだ。
周りをチラッと見れば、値札のゼロの数が明らかに多い。というか、数えないと分からないレベルで多すぎる。
おまけに学生丸出し感の俺には不釣り合いすぎて、完全に浮いていた。
1分が数十分にも感じられながら、俺はただ大人しく尚希を待つのみ。
「お待たせ」
しばらくして尚希が小さな袋を手にもって現れた。どうやら何か買ったみたいだけど、俺は1分でも一秒でも早くここから出たくて、無意識に尚希の手を掴んで店の外へと歩き出していた。
「恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」
茶化しながらも尚希は俺に引かれるままついてきてくれた。
それから他にもお店を転々と見て回り、夕暮れ間近になる頃、尚希はとっておきの公園へ行こうと俺を誘った。
どうやら彼女はまだ諦めていないようで、尚希は小さくため息をついていた。
おまけに天王寺も相変わらず尾行を続けており、俺も小さなため息をつく。
賑やかな街並みを後ろに、俺は尚希に連れられるままどんどん人気のない方へと歩かされた。前方にたくさんの緑が見え始め、都会のオアシスともいうべき場所へ向かっているんだと察したが、たぶん到着する頃は陽も暮れるだろうと思った。
徐々に暗くなる景色の中、尚希はさっきから黙ったままただ俺の手を引いていた。
「ん~、困ったなぁ……」
不意に尚希の声がした。それは何かを悩んでいるかのような声。
もうすぐデートが終わるはずなのに、彼女を諦めさせることができていないことへの悩み。
彼女がまだついてくるということは、諦める域に達していないことを意味し、このままじゃ諦めてもらえないと尚希は悩んでいた。
いつもより割増しでイチャイチャしてみたはずだったんだけど、それは普段の尚希の行動に毛が生えた程度だったかもしれないと、少しの後悔を含ませた。
普段から誰にでもあんな感じで接している尚希は、自分のチャラさを少しだけ反省することになった。
「何か、決定的なものがないとダメ……ってことだよね」
「尚希さん?」
「ごめんね、独り言。それよりもうすぐ着くよ」
そう言った尚希が向かうのは、厳重に木の塀で囲まれた場所。何かの保護区なのか、公園には入り口が設置されており、入園料をとっているようだった。
そして、そのすぐ隣には小さな小屋のようなものがあり、警備員が配備されていた。公園の案内板には営業時間が記載されており、とっくに開園時間を過ぎていた。
だが、尚希は構うことなく警備員のいる小屋へと向かう。
「天王寺尚希様、お待ちしておりました」
「僕たちの他に後二人、公園に入るけど見逃してあげてね」
「承知いたしました。4名入ったところで警備を開始いたします」
「ありがとう。それじゃあ、行こうか姫ちゃん」
「えっと……」
「心配ないよ、ここは天王寺家の公園だから」
軽くウインクを返しながら、尚希は公園の入り口を俺の手を引いて潜る。って、天王寺家の公園ってなに? なに? どういうことですか? と、俺は何がなんだかさっぱりわからないまま、口を半開きにしてしまっていた。
「ちょっと尚希さん、ここって……」
「お爺様の趣味で造った庭なの。貴重な植物とかが植えられててね、四季折々の綺麗な風景を見せてくれるんだよ」
「庭?」
「そう、元々はお爺様がご自分で楽しんでいただけなんだけど、綺麗な植物たちを独り占めするのは勿体ないって、有料で解放したんだ」
尚希は、入園料は公園の整備に当てられていると説明を加えてくれたが、趣味だけで都会にこんな広い庭を造るってお爺様って、マジでヤバい人なんじゃないかと、冷や汗が止まらなくなった。
つまり、時間外に入っているという事は、今この公園は貸し切り中。
きっと素敵な庭なんだろうけど、今は夜の闇に隠れてよくわからなかった。それでも公園内にはところどころに明かりが灯っており、遊歩道もしっかり整備されており、散策するのには問題はなく、尚希は俺を連れて近くの東屋に入った。
「日中なら、花と緑と空のコントラストがすごく綺麗だから、今度見においで」
「はい、ぜひ来ます……っ」
尚希にそう誘われ、俺が返事を返すと手を引かれ突然抱きしめられた。そしてそのまま俺は東屋の真ん中にある太い柱に背中を押し当てられた。
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