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4章『恋路編』
85「心配したって言ったんだよっ」
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「……天王寺、……」
状況はまったく把握できていないが、俺は今目の前にいた天王寺に驚きを隠せずにいた。夕方までは確かに眠っていた天王寺がなぜ起きているのか?
そういえば、18時になったら帰ろうと思っていたはずなのに、もしかして俺あのまま眠っちゃった? あれ? ってことは、これは夢なのか?
家に帰った記憶がなく、俺はうっかりここで眠ってしまって、今進行形で何か都合のいい夢を見ていると勘違いする。
互いの瞳の映る姿を見つめ合う二人は、しばし硬直する。
「ふ…ぅ……んっ……」
仕掛けてきたのは天王寺だった。頬に手を添えて俺にキスしてきた。温かくて甘くて、いつもの天王寺のキスだと感じた。
夢?
無意識に天王寺のキスを受けながら、俺はそのリアルな感触に疑問を問う。しかも、呼吸ごと奪うような激しいキスに変わり、俺の息が止まりそうになる。
「ッあ……、んぁ……ちょ、苦し……ぁッ」
噛みつくような貪るような激しいキスに、俺は思いっきり手を突っぱねて、天王寺を押しのけようと必死に抵抗を開始した。
けど、夢の中の天王寺は思ったより強力で、しつこい。
上手く呼吸ができなくなり、死ぬ死ぬ~と内心叫びながら、俺は思わず手を上に掲げると、
「いい加減にしろ──ッ!」
── バッシーン ──
手加減なしで天王寺の頬を引っぱたいていた。
「あれ、痛い?」
ジンジンとする手のひらの痛みに、俺はまさか本物? と、軽い衝撃を受ける。
「ふむ、確かに痛い」
引っぱたかれた天王寺もまた、赤くなった頬に手を添えて、感じた痛みに驚きをみせる。
「本物なのかっ」
「姫なのかっ」
声が重なった。
夢じゃない、互いはようやくこれが現実であると知った。そして、非常に気まずい空気が流れ始める。
俺としては、意識を取り戻してくれて大変うれしいことなのだが、目覚めていきなりビンタ見舞ってどうすんだという焦り。
天王寺は、夢や幻覚だと思ったから、求めるままに口づけをしてしまったことへの焦り。
互いに視線を泳がせたまま、どうしようと沈黙を生んだ。天王寺は俺の上に跨ったまま、無理やりキスをしてしまった自分の口元を抑えて、なぜか赤くなっていて、俺は盛大にビンタしてしまったことで赤くなる。
本当はすごく嬉しいはずなのに、この状況では素直に喜べなくて……。
「すまぬ、幻覚だと思ったのだ……」
口元を抑えながら天王寺が謝罪した。
「俺も夢かと思って、ごめん」
「姫が、このようなところにいるとは思わなかったのだ」
天王寺は、俺が傍にいるなんて考えもしなかったと話す。
「……したんだから、な」
ずっと聞きたかった声、自分を映して欲しかった瞳、触れたかった温かい身体、全部全部そこにあると思ったら、俺は涙を抑えるのが精一杯になった。
「なんと言ったのだ?」
「心配したって言ったんだよっ」
もう抑えられない。俺は大粒の涙を流しながら天王寺を睨んだ。零れる涙を天王寺が拭ってくれる。ずっと拭って欲しかった涙。
「本当にすまぬ」
片手で涙を拭いながら、天王寺は謝罪した。けど俺は全然足りなくて、唇を噛み締める。
「なんで、……勝手に別れるとか思うんだよ」
「そなたを危険な目に合わせたくないのだ」
「お前のせいじゃないだろう」
事件はそもそも天王寺のせいじゃない。でも天王寺家絡みではある。でもそれって俺たちの関係に何か問題あるのか、一緒にいてもいなくても、天王寺がそういう対象になるのは変わらないんじゃないのかと、俺は睨んでしまった。
「私と共におれば、姫を巻き込んでしまう」
(俺と一緒にいたくないのかよ)
「姫を守るためには、こうするしかないのだ」
(俺の事、好きなんじゃないのかよ)
俺は無言のまま、心で返事を返す。
「そなたを何よりも守りたい。ゆえに私はそうするしかないのだ……」
真剣に見つめられ、もう二度と俺を天王寺家のことで危険な目に合わせないために、離れるしかないと天王寺が話す。
それは俺の事がすごく大切で、大好きだから。天王寺は微笑むようにその想いを俺に向ける。けど俺には全然分からない。好きなのにもう二度と会えないなんて、どうして。
なんでも勝手に決めてしまう天王寺の胸倉を掴んだ。
「俺は、お前が大嫌いだッ!」
違う!
俺は大好きだと言おうと思ったのに、口を出た言葉は真逆の言葉だった。
はっとしたときはもう遅い。口に出してしまった言葉は、取り消すことは出来ず、俺は慌てて掴んだ手を離すと自分の口を押えた。
そんなこと言うつもりなかったのに。
言われた天王寺は、とても悲愴な笑顔を作っていた。それはすごく傷ついた泣き出しそうな顔。
今すぐ訂正しなきゃ、ちゃんと誤解だって言わないと、焦れば焦るほど俺は声に詰まる。
黙り込んでしまった俺の髪に天王寺の手が触れ、包み込むように撫でられた。
「そのようなこと、今更言わずとも知っておる」
「……っ」
「初めから姫に嫌われておるのは、わかっておるのだ……」
優しく髪を撫でながら、天王寺は自分が好かれていないことは知っていると告白した。驚いたのは俺だ。
状況はまったく把握できていないが、俺は今目の前にいた天王寺に驚きを隠せずにいた。夕方までは確かに眠っていた天王寺がなぜ起きているのか?
そういえば、18時になったら帰ろうと思っていたはずなのに、もしかして俺あのまま眠っちゃった? あれ? ってことは、これは夢なのか?
家に帰った記憶がなく、俺はうっかりここで眠ってしまって、今進行形で何か都合のいい夢を見ていると勘違いする。
互いの瞳の映る姿を見つめ合う二人は、しばし硬直する。
「ふ…ぅ……んっ……」
仕掛けてきたのは天王寺だった。頬に手を添えて俺にキスしてきた。温かくて甘くて、いつもの天王寺のキスだと感じた。
夢?
無意識に天王寺のキスを受けながら、俺はそのリアルな感触に疑問を問う。しかも、呼吸ごと奪うような激しいキスに変わり、俺の息が止まりそうになる。
「ッあ……、んぁ……ちょ、苦し……ぁッ」
噛みつくような貪るような激しいキスに、俺は思いっきり手を突っぱねて、天王寺を押しのけようと必死に抵抗を開始した。
けど、夢の中の天王寺は思ったより強力で、しつこい。
上手く呼吸ができなくなり、死ぬ死ぬ~と内心叫びながら、俺は思わず手を上に掲げると、
「いい加減にしろ──ッ!」
── バッシーン ──
手加減なしで天王寺の頬を引っぱたいていた。
「あれ、痛い?」
ジンジンとする手のひらの痛みに、俺はまさか本物? と、軽い衝撃を受ける。
「ふむ、確かに痛い」
引っぱたかれた天王寺もまた、赤くなった頬に手を添えて、感じた痛みに驚きをみせる。
「本物なのかっ」
「姫なのかっ」
声が重なった。
夢じゃない、互いはようやくこれが現実であると知った。そして、非常に気まずい空気が流れ始める。
俺としては、意識を取り戻してくれて大変うれしいことなのだが、目覚めていきなりビンタ見舞ってどうすんだという焦り。
天王寺は、夢や幻覚だと思ったから、求めるままに口づけをしてしまったことへの焦り。
互いに視線を泳がせたまま、どうしようと沈黙を生んだ。天王寺は俺の上に跨ったまま、無理やりキスをしてしまった自分の口元を抑えて、なぜか赤くなっていて、俺は盛大にビンタしてしまったことで赤くなる。
本当はすごく嬉しいはずなのに、この状況では素直に喜べなくて……。
「すまぬ、幻覚だと思ったのだ……」
口元を抑えながら天王寺が謝罪した。
「俺も夢かと思って、ごめん」
「姫が、このようなところにいるとは思わなかったのだ」
天王寺は、俺が傍にいるなんて考えもしなかったと話す。
「……したんだから、な」
ずっと聞きたかった声、自分を映して欲しかった瞳、触れたかった温かい身体、全部全部そこにあると思ったら、俺は涙を抑えるのが精一杯になった。
「なんと言ったのだ?」
「心配したって言ったんだよっ」
もう抑えられない。俺は大粒の涙を流しながら天王寺を睨んだ。零れる涙を天王寺が拭ってくれる。ずっと拭って欲しかった涙。
「本当にすまぬ」
片手で涙を拭いながら、天王寺は謝罪した。けど俺は全然足りなくて、唇を噛み締める。
「なんで、……勝手に別れるとか思うんだよ」
「そなたを危険な目に合わせたくないのだ」
「お前のせいじゃないだろう」
事件はそもそも天王寺のせいじゃない。でも天王寺家絡みではある。でもそれって俺たちの関係に何か問題あるのか、一緒にいてもいなくても、天王寺がそういう対象になるのは変わらないんじゃないのかと、俺は睨んでしまった。
「私と共におれば、姫を巻き込んでしまう」
(俺と一緒にいたくないのかよ)
「姫を守るためには、こうするしかないのだ」
(俺の事、好きなんじゃないのかよ)
俺は無言のまま、心で返事を返す。
「そなたを何よりも守りたい。ゆえに私はそうするしかないのだ……」
真剣に見つめられ、もう二度と俺を天王寺家のことで危険な目に合わせないために、離れるしかないと天王寺が話す。
それは俺の事がすごく大切で、大好きだから。天王寺は微笑むようにその想いを俺に向ける。けど俺には全然分からない。好きなのにもう二度と会えないなんて、どうして。
なんでも勝手に決めてしまう天王寺の胸倉を掴んだ。
「俺は、お前が大嫌いだッ!」
違う!
俺は大好きだと言おうと思ったのに、口を出た言葉は真逆の言葉だった。
はっとしたときはもう遅い。口に出してしまった言葉は、取り消すことは出来ず、俺は慌てて掴んだ手を離すと自分の口を押えた。
そんなこと言うつもりなかったのに。
言われた天王寺は、とても悲愴な笑顔を作っていた。それはすごく傷ついた泣き出しそうな顔。
今すぐ訂正しなきゃ、ちゃんと誤解だって言わないと、焦れば焦るほど俺は声に詰まる。
黙り込んでしまった俺の髪に天王寺の手が触れ、包み込むように撫でられた。
「そのようなこと、今更言わずとも知っておる」
「……っ」
「初めから姫に嫌われておるのは、わかっておるのだ……」
優しく髪を撫でながら、天王寺は自分が好かれていないことは知っていると告白した。驚いたのは俺だ。
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